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2006-R-0220掲載日:2020年6月
ペットの飼育を禁止していない賃貸借契約において、賃借人がペットを飼育している場合の契約解除の妥当性。
当社は賃貸借契約の媒介業者である。ペット飼育の禁止条項のない賃貸借契約で、賃借人は複数の猫を室内で飼育するほか、敷地内で野良猫に餌やりをしている。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者である。1年前に、住宅地にある一戸建の賃貸の媒介をしたが、賃貸人は近所に自宅があり、賃貸した建物は親から相続で取得したものである。賃借人は、高齢夫妻で、子は他の地域で独立して生活している。賃借人は、夫婦2人のため、奥さんが猫好きであるので、ペットを飼うことのできる物件を探していた。賃貸人はペットを飼うことに理解を示し、建物も建築後25年を経過しているので、契約は、ペットの飼育禁止の特約は付さなかった。
賃借人は、入居した直後から猫の飼育を始めた。当初は、一匹であったが、入居から3か月位経った頃から、猫の数が増え、現在飼育している猫は6匹となっている。また、猫好きが高じ、敷地に野良猫の餌置場を設置し、毎日キャットフード等の餌やりをしている。ときにより、餌を前面道路にも撒き、野良猫が集まってくる。多いときには10匹以上になることがある。周辺の住民からは、近所に住んでいる賃貸人に対して、季節により鳴き声がうるさく、衛生上も問題がある等の苦情が寄せられている。賃貸人は、賃借人の了解の下賃貸建物を点検したところ、賃借人は、猫の飼育には気を付けているとは言っているが、建物内の柱が猫の爪とぎのような跡が酷く、糞尿が床に浸透した跡があり、臭気も漂っている。
質 問
建物賃貸借にはペット禁止特約は付されていないが、賃貸人は賃借人に対して契約の解除を請求することができるか。
回 答
1. | 結 論 | |
賃貸借契約において、ペット禁止特約が付されていなければ、賃貸人は、原則として、契約解除を請求することはできないが、賃借人が、建物の利用上に重大な問題を生じさせているときは、賃借人の用法違反として契約解除ができる場合がある。 | ||
2. | 理 由 | |
多くの建物賃貸借契約は、賃借人のペットの飼育を禁止している特約が付されている。共同住宅においては、たとえ近隣に鳴き声や臭気等の迷惑をかける行為がなくても、動物に対する嫌悪感を抱いたり、動物の体毛等にアレルギー反応のある賃借人も存在する可能性がある。また、飼育により建物に傷みが生じる場合もある。飼育禁止の特約に違反して、賃借人が、動物を飼育していたからと言って、直ちに契約解除はできない。賃貸人と賃借人との間の信頼関係の破壊の有無が判断される。賃貸人が賃借人に飼育しないよう申し入れ、賃借人が飼育を止めないのであれば催告の上、契約の解除が可能となる。ペット禁止特約が付されていて、他へ迷惑を及ぼしていなくても「動物等飼育禁止の特約がある以上は、賃借人として特約を守らなければならないというべき」として、賃貸人の契約解除の請求を容認した裁判例がある(【参照判例①】参照)。 賃貸借契約に、ペット飼育の禁止特約がない場合は、危険動物の飼育は別として、犬や猫等の一般的な動物の飼育は原則として許容され、契約締結後に賃貸人は賃借人に対して飼育の禁止をすることはできない。賃貸人は賃借人が居住に付随してペットを飼育することは、昨今の家族の一員としてペットを飼育することもあり、賃借人が飼育することがあると予想でき、賃貸借契約の利用の範囲であると考えられる。 しかしながら、賃貸借契約に特約が付されていない場合でも、賃借人は、「契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない」という賃借物の用法遵守義務がある(民法第616条、同法第594条第1項)。賃借人が、ペットを飼育したことで賃借している建物の利用上に重大な問題を生じさせ、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊された場合には、賃貸借契約を解除することができると解される(同法第3項、同法第616条)。利用上の重大な問題としては、賃借建物の内外に通常の使用を超えるような損傷・損耗を与える、糞尿等で建物を汚損させる、臭気や鳴き声等で他の入居者や近隣に迷惑が続くなどがある。相談ケースの場合では、用法違反で契約解除が認められる可能性が高いと思われる(【参照判例②】参照)。 また、ペットを飼育していない場合でも、敷地内や周辺に餌を撒いて野良猫等に餌付けし、近隣の迷惑を及ぼす行為も契約解除の事由に該当する場合もあろう。区分マンションの居住者の野鳩の餌付けと飼育が区分所有者の共同の利益に反する行為であるとして、マンション所有者と居住者間の使用貸借契約の解除が認められた裁判例(東京地裁平成7年11月21日)がある。ペット愛好家も増加し、全室ペット飼育可の物件も増えており、賃貸条件としてペット飼育を認める特約も、空室を減らすことができる可能性もあり、賃貸経営を考える上では、重要な要素である。更に、賃貸人は、賃貸借契約にあたり、賃借人が近隣等に迷惑行為を発生させないために、ペットの飼育を認めるのか否かに加え、猫、鳩等へ餌をやる行為を禁止する特約の考慮も必要であろう。 |
参照条文
○ | 民法第541条(催告等による解除) | |
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。 | ||
○ | 民法第594条(借主による使用及び収益) | |
① | 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。 | |
② | (略) | |
③ | 借主が前2項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。 | |
○ | 民法第616条(使用貸借の規定の準用) | |
第594条第1項の規定は、賃貸借について準用する。 |
参照判例①
○ | 東京地裁平成7年7月12日 ウエストロー・ジャパン(要旨) | ||
賃借人が本件建物内で本件犬を飼育していることは賃貸借契約における特約違反といわざるをえない。 確かに、犬を飼育すること自体は何ら責められるべきことではないが、賃貸の共同住宅においては、犬の飼育が自由であるとすると、その鳴き声、排泄物、臭い、毛等により当該建物に損害を与えるおそれがあるほか、同一住宅の居住者に対し迷惑又は損害を与えるおそれも否定できないのであって、そのような観点から、建物内における犬の飼育を禁止する特約を設けることにも合理性がある。 そうすると、賃借人が、本件建物内での本件犬の飼育の仕方に意を払っていることはうかがわれるとしても、動物等飼育禁止の特約がある以上は、賃借人として右特約を守らなければならないというべきである。 |
参照判例②
○ | 東京地裁昭和62年3月2日 判時1262号117頁(要旨) | ||
居住用の目的でした建物の賃貸借契約において、当該建物内で猫等の家畜を飼育してはならないとの特約がない場合であっても、猫等の家畜を飼育することによって、当該建物を汚染、損傷し、更には、近隣にも損害ないし迷惑をかけることにより賃貸人に苦情が寄せられるなどして、賃貸人に容易に回復し難い損害を与えるときは、当該家畜の種類及び数、飼育の態様及び期間並びに建物の使用状況、地域性等をも考慮した上で、なお、家畜の飼育が居住に付随して通常許容される範囲を明らかに逸脱していて、賃貸借契約当事者間の信頼関係を破壊する程度に到っていると認められる限り、右家畜の飼育は、賃貸借契約の用法違反に当たるというべきである。 |
監修者のコメント
ペット飼育を禁止していない契約あるいはもっと明確にペット飼育を許容する旨の約定がなされている契約であっても、何匹飼っても差し支えないというわけではない。契約の解釈は、当事者の意思がまず第一義的な解釈基準であるが、その意思がどうであるかは、社会通念上の常識がその判断基準である。相談ケースは現在6匹というのであり、その常識の範囲外か否かは微妙なところであるが、少なくとも敷地に野良猫の餌置場を置き、あげくには餌を前面道路に撒き、近所の住民から苦情が寄せられているということは、明らかに用法違反である。
なお、このような事態になるのを避けるため、ペット飼育を許す旨の約定において、ペットの種類、数などを明確に取り決めておくことと、違反した場合の無催告解除を定めておいたほうがよい。具体的なケースで、催告なしに解除が当然に認められるかどうかは別として、あえて違反を承知で行う者に対するプレッシャーにはなる。