不動産相談

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ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2006-R-0219
一個の賃貸借契約で2棟の賃貸借を契約した場合、その1棟に賃借人の重大な義務違反が発生した場合、賃貸人はすべての契約を解除しうるか。

 当社は1つの賃貸借契約で2棟を賃貸借する契約の媒介をした。賃借人は2世帯家族で、1棟だけでは手狭なため隣接する別の棟も同時に賃借した。契約者は父親であるが、別の棟に入居していた長男家族が転勤となり空き家になったので、父親は賃貸人に連絡しないで知人に入居させていることが判明した。知人は父親に毎月賃料を支払っている。

事実関係

 当社は、郊外を営業エリアとする賃貸の媒介業者である。同一敷地内に戸建住宅6棟を賃貸している地主から、当社が2年前に媒介した賃借人について相談があった。賃借人は、親夫婦と長男家族4人の2世帯家族であった。住宅は平屋建の間取りは2LDKなので2世帯同居が難しいため、隣接する別の棟も賃借することにした。賃貸借契約は、賃借人として父親が契約者となり同一契約書で2棟を期間5年で締結した。
 賃貸人は、近隣に自宅があり、賃貸している住宅には2か月に1回ほど住宅の点検や入居者の様子を見に行っているが、昨日、訪れたところ、賃借人の長男家族が入居していたはずの棟には、長男家族ではない老夫婦が住んでいた。賃貸人は、老夫婦から訳を聞いたところ、老夫婦は賃借人である父親の古くからの友人であり、賃借人に賃料を支払って住んでいるとのことであった。
 賃貸人は、隣家の賃借人に、長男家族が賃借建物を退去し、老夫婦が入居している経緯を確認したところ、長男家族は1か月前に他所に転勤したので、その話を知った老夫婦が借りたいと賃借人に頼んだようだ。老夫婦は、自宅が老朽化しているので、当面は借家に住み、自宅売却の上買換えするか、自宅を建替え、子家族との同居などを考えているらしい。賃借人は、長男家族が転勤で戻る可能性も考え、契約期間を空家のままにするのも本意でないので貸したということが分かった。
 賃貸人は、賃借人が無断で第三者に転貸したことを理由に、賃貸借契約をすべて解除し、賃借人の退去を求めたいと、当社に、賃貸借契約の解除手続を依頼してきた。

質 問

 賃貸人は、一個の賃貸借契約で2棟の建物を賃貸借し、その1棟の建物につき賃借人に契約解除原因(無断転貸)がある場合、契約の全部を解除することができるか。

回 答

1.  結 論
 特段の事情がない限り、賃貸人は賃貸借契約の全部を解除することができると解されている。
2.  理 由
 賃貸借契約は、賃貸人と賃借人との信頼関係を基礎として成り立つ。賃貸人は、自己の財産を他人である賃借人に長期にわたり使用させるものであるからである。賃借人は、約定の賃料を支払い、かつ賃借物を約定した用法に従って使用収益し、管理する義務がある(民法第601条、同法第594条第1項、同法第298条第1項)。また、建物賃貸借契約において、賃借人は、賃貸人の同意がなければ賃借物である建物の賃借権を第三者に譲渡することも、転貸することもできないのである(同法第612条第1項)。もし、賃借人が賃貸人に無断で賃借権譲渡及び転貸したときは、賃貸人は契約解除をすることができるとされている(同法第612条第2項)。
 賃貸人の承諾のない第三者への転貸は、賃借人としての重大な契約違反となり、賃貸借契約の解約事由として確立されているが、しばしば第三者への転貸かどうかが議論になる。相談のように賃借人の関係からも知人に転貸することは、第三者性が明らかであるが、長男が転居し、その兄弟家族等(契約者の子)が入居した場合は、入居者が代わったとはいえ、賃貸借契約の使用目的には合致し、第三者性が否定される可能性が高いであろう。第三者への転貸の期間が長期にわたり、かつ賃借人が賃料を受領していることは賃借人の背信行為であり、契約解除されてもやむを得ず、賃貸借契約の基礎である信頼関係は破壊されているといえる。
 一個の契約で2棟の賃貸借契約をしたときに、賃借人が1棟を無断転貸した場合、賃貸人が契約解除できるのは当該建物のみか、全部の契約の解除権が発生するかが問題になる。2棟の1契約でも、賃貸人と賃借人間の信頼関係は、単一不可分であり、1棟の建物のみに契約違反があったとしても、賃貸借関係全体の信任は裏切られたものとみるべきで、特に事情のない限りは、賃貸人は、全部を解除して賃借人との間の賃貸借関係を終了させることができるとものと解されている(【参照判例①】参照)。
 なお、一個の契約で複数(3つ)の部屋を賃借して、これを賃貸人の承諾を得て3人に転貸していた場合、そのうちの転借人1人が契約違反(違法行為を)をしたために、賃貸人が、全契約を解除する請求をした裁判例で、「契約解除の及ぶ範囲は他の転借人の利益をも考慮に入れて決する必要があると解するのが相当である。複数の転借人の一人が契約違反をしたからといって、その累が、全く関係のない別の転借人に及ぶというは相当でない」と当該テナント部分の契約解除は容認されたが、契約全部の解除を否定したものがある(【参照判例②】参照)。

参照条文

 民法第298条(留置権者による留置物の保管等)
   留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
  ・③ (略)
 同法第594条(借主による使用及び収益)
   借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
  ・③ (略)
 同法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 同法第616条(使用貸借の規定の準用)
   第594条第1項の規定は、賃貸借について準用する。

参照判例①

 最高裁昭和32年11月12日 判タ76号34頁(要旨)
 一個の賃貸借契約により2棟の建物を賃貸した場合には、その賃貸借により賃貸人賃借人間に生ずる信頼関係は、単一不可分であることはいうまでもないから、賃借人が1棟の建物を賃貸人の承諾を得ないで転貸する等民法第612条1項に違反した場合には、その賃貸借関係全体の信任は裏切られたものとみるべきである。従って、賃貸人は契約の全部を解除して賃借人との間の賃貸借関係を終了させその関係を断つことができるものと解すべきである。賃貸借関係は賃貸人と賃借人との相互の信頼関係に基づいて成立するものであるから、賃借人が一個の賃貸借契約で各独立の2棟の建物を賃借し、そのうち1棟についてのみ無断転貸をした場合でも、他に特段の事情のない限り、賃貸人に対して著しい背信行為があるものとして、賃貸人は民法第612条によって右賃貸借契約全部の解除権を取得するものと解すべきである。

参照判例②

 東京高裁平成5年11月22日 判タ854号220頁(要旨)
 本件建物(1)ないし(3)の賃貸借契約が一つの契約書に、互いに区別することなくまとめて記載され、賃料、管理費、保証金も不可分に定められたことが認められるものの、これまで認定したところによれば、本件ビルの改装時に行われた模様替えによってそれぞれが独立して転貸の対象となる建物部分となっていたと認めることができる。そうすると、ある転借人がした違法行為(契約違反)に対応して賃借人(転貸人)の義務違反(信頼関係の破壊)が問題とされ、このことにより賃貸借契約を解除することができるといっても、その効力の及ぶ範囲は他の転借人の利益をも考慮に入れて決する必要があると解するのが相当である。複数の転借人の一人が契約違反をしたからといって、その累が、全く関係のない別の転借人に及ぶというは相当でないからである。

監修者のコメント

 回答の【参照判例①】の上告理由は「2棟の建物は、独立した建物であり、その敷地番も異なるのであるから、1棟の建物につき解除原因が発生した場合には、解除原因の存しない他の建物についてまで解除権の行使を認めるべきではない」というものであったが、最高裁は、「その賃貸借により賃貸人、賃借人間に生ずる信頼関係は、単一不可分」という理由で、上告人の主張を排斥した。その事案の前提は「1個の賃貸借契約で2棟の建物を賃貸した」というものである。
 では、同一人間で2棟の建物を別々の2つの契約を締結した場合はどうであろうか。上記判例が、1個の契約だから単一不可分とみるのであれば、2つの契約だから単一不可分ではないと解することもできるし、賃貸借関係は賃貸人と賃借人の相互の信頼関係に基づいて成立しているのであるから…という点を重視すれば、2つの契約の当事者は同一人であるから、やはり不可分と解することもできる。このことについての最高裁判例はないが、おそらく契約が2つある以上、契約ごとに独立したものと解するほうが有力であろう。

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