不動産相談

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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2004-R-0217
賃貸人の賃料値上げ要請に対し、賃借人の妻が承諾した場合、賃料増額合意の法的有効性

 賃貸人は、賃借人の夫が、仕事上出張が多く留守勝ちのため、妻から夫名義の賃料増額合意書を取得した。夫は、妻は賃貸借契約の当事者でないので同意書は無効であるとして賃料の値上げに応じない。

事実関係

 T社は賃貸の媒介業者である。T社が長年、入居者の媒介を依頼されているマンションの賃貸人から相談があった。賃貸人が、10年前に入居した賃借人に賃料の値上げを要請したところ、契約者の妻から応諾を得られたが、後日、契約者である夫から、値上げに応じたつもりはないと言われ、賃貸人と賃借人との間で揉めている。当地は、郊外でありながら、最寄り駅の鉄道に、3年前から他社線の乗り入れが実現し、居住希望者が増加し、賃貸需要も高まっている人気のエリアである。賃料相場も10年前と比べて2~3割程上昇している。
 賃貸人は、数週間前に、賃借人である夫に面談して賃料値上げを要請したが、妻に相談してから回答するのでしばらく待ってほしいと、値上げの同意は得られなかった。夫は、全国を飛び回る営業関連の仕事をしており、賃貸人は、なかなか本人と直接面談する機会が得られないことがあり、妻に、賃料増額の同意書を持参し、夫の名前で署名・捺印を依頼した。妻は、怪訝そうな表情を示したが、賃貸人から「ご主人には話してある」と促したところ、夫が値上げを承諾していると思ったようで、妻から夫名義の署名と捺印の同意書を取得できた。賃貸人は、夫が妻に相談して、値上げに応じることは夫婦で了解しているものと理解した。
 長期出張から戻った夫は賃貸人に対し、賃料の値上げを承諾した覚えはなく、契約当事者でない妻が同意書に署名捺印しても効力はないと主張し、値上げに応じることを拒否している。

質 問

 賃貸借契約を締結した当事者でない賃借人の妻が、賃借人である夫名で賃料増額を承諾した場合、賃料の値上げは認められないのか。

回 答

1.  結 論
 原則、賃貸借契約の賃借人当事者の合意がなければ、賃料の値上げは認められないが、相当と考えられる増額であれば、夫婦間の日常家事の範囲として認められる場合がある。
2.  理 由
 夫婦が共同生活を営む上で必要とされる行為は、日常の家事として、夫婦の一方が第三者と法律行為をしたときは、他の一方はこの行為によって生じた債務について連帯して責任を負う(民法第761条)。この行為は、日常の家事に関する法律行為と言われ、夫婦は相互に他方を代理する権限を有する。
 日常家事の債務は、夫婦が、子の養育を含む日常生活を送るために通常必要と考えられるもので、食料・衣料品・水光熱費・家具等の生活必需品の購入費、医療費、教育費等が該当する。賃貸借契約の締結及び賃料の支払いも含まれると考えられている。反面、ギャンブル等による借金、仕事上の負債、宝石や装飾品、高価な家具等、収入に見合わない高額品等は含まれない。日常家事債務の判別については、家庭の個別の事情により異なる。家庭の維持に必要か否かにより判断される。日常の家事に関する債務の連帯責任の判断基準について、最高裁は、「個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によって異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によっても異なる」とし、さらに「問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたっては、民法第761条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であり、(中略)客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべき」としている(【参照判例】参照)。参照判例は、夫婦の一方が、他の一方の不動産を売却した行為の裁判例であるが、当然に、その行為は認められるものではない。
 一方、日常の家事に関する債務は、夫婦相互に連帯責任が規定されている(同法第761条)が、日常家事という法律行為の代理権の有無が問題となる。法律上に明文規定はないが、裁判例では、「日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、表見代理(同法第110条)の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあって、相当でない」としながらも、「夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当のあるときにかぎり、民法第110条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りる」(【参照判例】参照)とし、法律行為の相手方である第三者の保護のため、夫婦の一方の代理権を信ずる場合は認めている。
 相談ケースでは、賃貸人の賃料増額要請に対し、増額分が相当の額であれば、妻が同意したことについて、妻の代理権が正当と判断される可能性が高いものの、賃料の不相当な増額や契約内容の変更については、契約当事者の合意が必要であろう。

参照条文

 民法第109条(代理権授与の表示による表見代理)
   第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
   (略)
 同法第110条(権限外の行為の表見代理)
   前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
 同法第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
   夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

参照判例

 最高裁昭和44年12月18日 判タ243号195頁(要旨)
 民法第761条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責に任ずる」として、その明文上は、単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の効果、とくにその責任のみについて規定しているにすぎないけれども、同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのが相当である。
 そして、民法第761条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によって異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によっても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたっては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。
 しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法第110条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあって、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当のあるときにかぎり、民法第110条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。

監修者のコメント

 本ケースは、裁判で争われてもよい、判断が難しいケースである。回答にある民法第761条は、単に夫婦が連帯責任を負うという結果のみの規定ではなく、「日常家事債務に係る法律行為」については、夫婦相互に代理権を有することを規定したものと解されている。そうすると、本ケースでは「賃料の増額合意」が「日常家事債務に関する合意」か否かが争点となる。「日常家事」に該当するかどうかが争われたケースは沢山あり、妻が夫名義で建物賃貸借契約を締結した事案で、同条の適用を認めたもの、認めなかった裁判例があるが、いずれも当該事案の諸般の事情を考慮してのことであるから、結論のみを参考にすることはできない。
 本ケースでは、賃貸人の値上げ要請に対して、夫が「妻に相談してから回答する」と答えた事実は、裁判になった場合、同条の適用を肯定する方向に作用するものと解される。
 賃料値上げ合意をめぐる裁判例は、公刊物の中には見当たらないので、断定はできないが、結論としては回答の内容が妥当と思われる。
 もし、その増額が不相当のものであれば、減額請求あるいは賃料合意自体の錯誤無効など、賃借人は他に争う余地がある。

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