不動産相談

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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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2002-B-0270
決済前に引渡しを受けたマンションの買主による第三者への賃貸の可否

 当社が売買の媒介をしたマンションの買主である宅建業者が、売主の合意を得て決済前に先行引渡しを受けて内装工事を行った。工事終了後、宅建業者は、賃貸人として、第三者と賃貸借契約を締結して、売買の決済前に賃借人を入居させた。

事実関係

 当社は、売買の媒介業者である。売主個人の区分所有マンション1室の売買契約の媒介をした。買主は、宅建業者で、既存住宅を購入後、内装リフォームやリノベーション工事をして第三者に転売もしくは自社物件として賃貸することを主業務としており、当社は過去に何回か取引している。その業者は、取引物件が空家のときは、転売や賃貸を早期に行えるように、売買契約締結後、決済日前に事前引渡しを受けてリフォーム工事を実施している。業者が事前に引渡しを受けるときは、売主と買主業者間で、事前引渡しにより買主がリフォーム工事を行う旨の合意を記載した覚書を交わしている。今回取引したマンションの売主は転勤のため空家にしていたが、売主の了解も得られたので、覚書を交わし、引渡しを受けた業者は、リフォーム工事を行った。売買契約の決済が近くなり、売主が管理組合への所有者変更の手続きに訪れたところ、管理人からマンションには、既に買主業者が貸主として賃貸借契約を締結した賃借人が入居していることを知らされた。当社は、買主から、賃借人の募集をしていることと賃借人が決まりかけていることは聞いていたが、入居については通知されていない。買主である業者に確認したところ、売買代金残額の準備は整い、決済は間違いないのであるから、貸主として賃貸借契約の上、賃借人を入居させることは問題ないと主張している。

質 問

1.  売買契約により先行引渡しを受けた買主は、貸主として、購入した建物の賃貸借契約をすることができるか。
2.  前記の場合、賃貸借契約の賃借人を入居させることができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 売主と買主が売買契約締結済みで買主への所有権移転前であっても、貸主として賃借人との間で賃貸借契約を締結することは可能である。
 質問2.について ― 買主が、事前引渡しの目的を超えて使用収益すると、売買契約の違反行為として、契約解除になる場合がある。
2.  理 由
について
 賃貸借契約は、賃貸人が物の使用及び収益を賃借人にさせることを約し、賃借人がこれに対してその賃料を支払うことを約する債権契約である。対象の不動産が、他人の所有であっても、賃貸人は、賃借人の募集行為や賃借人との間の契約締結は有効であり、問題はない。他人物売買が法律上認められているのと同様に他人物賃貸も認められると解釈できる(民法第559条、同法第560条)。
 ただし、買主業者は、他人物賃貸借契約の成立により、賃借人に使用させる義務を負うが、買主が賃貸権限を保有するのは、売主との合意がある場合を除き、所有権取得後であり、賃借人に使用収益させるためには、所有者である売主から賃貸人(買主)への所有権移転登記することによる賃貸権の取得が必要になる(後述)。買主が、売主の承諾なく所有権取得前に賃借人を入居、使用収益させることはできず、賃借人の賃借開始時期を買主の所有権取得前に設定したことにより、賃借人が、使用収益ができなければ、賃貸人の債務不履行となり、契約解除及び損害賠償責任が生じる。したがって、買主が決済前に第三者との賃貸借契約を締結する場合には、通常、入居日を決済・引渡後とする必要がある。
について
 本ケースは、買主のリフォーム工事目的での決済前引渡しを当事者間で合意したが、買主は、第三者と賃貸借契約を締結し、売主との代金決済及び所有権移転登記前に賃借人を入居させたものである。買主が物件の引き渡しを受けていれば、賃借人を入居させることができるか否かであるが、売主が買主に引渡したのは買主のリフォーム工事目的であり、賃借人を入居させる行為は、売主との合意内容を超えた行為である。
 また、「目的を超えて、売買代金完済前に本件建物を他に賃貸するなど所有者と同様にこれを自由に使用収益、管理ないし処分する権限まで付与するものではない」とし、「賃貸行為は、上記合意により買主に付与されている権限を超えて本件建物を監理収益する行為といわざるを得ないから、本件売買契約に違反し、売買契約当事者間の信頼関係を損なう行為であり、契約解除の原因となると解する」とし、買主の契約上の付随義務違反を認定し、売主の契約解除を有効とし、買主の違約金支払い、賃借人から受領した賃料は買主の不当利得(同法第703条)として売主への返還を認めた裁判例がある(【参照判例】参照)。なお、この裁判では、買主が行った工事費の一部を必要費及び有益費(同法第196条)として買主の請求権を認めている。
 媒介業者は、決済前の事前引渡はできるだけ避けるべきと考えるが、個人間の売買契約においても、買主が決済後ただちに入居したい希望等により、決済前に内装工事を要望する場合がある。買主の条件で事前引渡しをする際は、リフォーム工事の場合であれば、合意する事前引渡しは工事に限定する内容の覚書とし、契約解除になった場合の原状回復や工事人等による工事での建物損傷修復義務、水道光熱費等の負担など、引渡後の責任と負担を取り決めておくことが必要である。
 また、昨今、既存住宅市場活性のため、リフォームして転売する業者も増加しているが、上記のとおり、買主は物件の決済・所有権取得前でも賃貸借契約をすること自体は可能であるが、媒介業者が、買主が取引物件を賃貸することを知り得たときは、賃借人の入居できる日は決済後とすべき助言が必要であろう。

参照条文

 民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
   不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
 同法第196条(占有者による費用の償還請求)
   占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
   占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
 同法第559条(有償契約への準用)
   この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
 同法第560条(他人の権利の売買における売主の義務)
   他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
 同法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第703条(不当利得の返還義務)
   法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

参照判例

 東京地裁平成21年9月25日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 本件覚書による合意は、買主に対し、内装工事を行うために必要な範囲内で本件建物を占有使用する権限を与えるにとどまるものであって、上記の目的を超えて、売買代金完済前に本件建物を他に賃貸するなど所有者と同様にこれを自由に使用収益、管理ないし処分する権限まで付与するものではないと解される。
 そうすると、本件賃貸行為は、上記合意により買主に付与されている権限を超えて本件建物を監理収益する行為といわざるを得ないから、本件売買契約に違反し、売買契約当事者間の信頼関係を損なう行為であり、契約解除の原因となると解するのが相当である。

監修者のコメント

 本相談ケースのような売買の買主が物件の引渡し、代金の支払という決済前にどこまでのことができるのかの問題は、あくまでも売買当事者の意思いかん、言い換えれば売主がどこまで許容しているかという意思解釈の問題である。ただ、一般論としては、決済が済んでいないときは、通常買主への所有権の移転がないので、特別の合意がなければ、買主の行った賃貸借契約は、他人の不動産の賃貸となり、それは通常の売主の意思に沿わないものと解される。
 媒介業者としては、特別の事情のない限り、参照判例のような考え方が一般的であるとして買主を説得し、しかし、既に契約を締結し、賃借人を入居させている賃貸借契約を白紙に戻すことは現実的ではないので、売主が容認していない以上、賃料収入の一部を売主に分与するなどの話し合いによる解決を目指すことが適切である。

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