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不動産相談

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1912-B-0269
地域住民組織である自治会への加入義務の有無

 買主が、引っ越したマンションの管理人から、管理組合の決議により居住者は自治会に加入しなければならないことを告げられ、加入を強制されている。

事実関係

 当社は売買の媒介業者である。区分所有マンションを購入した買主から相談があった。買主が、購入したマンションに引っ越したところ、マンション管理人から、当該マンションは区分所有者、賃借人を問わず現住している住民は、自治会への加入が必要であると言われた。管理規約には規定されていないが、今年度の管理組合総会において多数決により自治会へマンション住民全員が加入することを決定し、来月から加入申し込み受付と会費徴収を実施することになっているようだ。
 自治会々員による活動は、通学路や歳末パトロール等の防犯活動、ゴミ・資源の分別回収、道路や公園の清掃美化活動、盆踊りやバーベキュー大会など地域イベント実施による地域交流などを主な内容とし、活動の運営費として毎月会費を徴収することになっている。活動を企画・運営する役員は、管理組合の理事が務める規定になっている。
 買主は、現在独身で同居の家族もおらず、自営業であるため自治会活動が予想される土日は仕事が忙しく、活動への参加が難しいため、自治会への入会を断りたいと思っている。

質 問

1.  自治会のあるマンションに入居する買主は、自治会に加入しなければならないのか。
2.  そもそも、自治会への入会をマンションの管理規約で定めたり、管理組合で決議することができるか。
3.  媒介業者は、自治会のあるマンションの売買媒介をする場合、自治会の有無や活動内容を買主に対して説明する必要があるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 自治会に加入するか否は個々人の自由であり、自治会のあるマンションの入居者は自治会に加入しなくてもよい。
 質問2.について ― 管理組合が自治会を設立して活動することは可能であるが、管理規約で定めたり、管理組合の多数決で決議していたとしても法的拘束力はないと解する。
 質問3.について ― マンション住民の地域活動団体である自治会の有無や活動内容は、宅地建物取引業法上の重要事項に該当せず、説明する義務はない。しかし、条例で説明を努力義務としている自治体がある。
2.  理 由
 自治会または町内会といった地縁を基盤とした地域活動組織は従来から存在し、コミュニティづくりの場としての役割を担っている。阪神・淡路大震災、東日本大震災等の大災害時の相互協力、高齢人口増加による高齢者見守りや防犯対策の要請などを背景に、自助・共助・公助がそれぞれの立場での必要性が見直されている。自助・公助の重要性もさることながら、地域の中で支え合う共助の必要性がクローズアップされている。自治会等は、共助の基礎となる地域活動組織である。普段から良好なコミュニティが形成されていれば、緊急時に組織活動の本領を発揮することも可能である。しかし、近年は、都市部への人口流入や集合住宅の増加等により、コミュニティ意識が希薄化しており、昔ながらの「近所づきあい」といったコミュニティの形成が難しくなっている。むしろ互いに近所づきあいを避ける傾向もあるようだ。
について
 地域住民やマンション居住者の自治会への加入の要否は「自治会は、会員相互の親ぼくを図ること、快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団であり、いわゆる強制加入団体でない」との法的性格を示した裁判例があり(【参照判例①】参照)、加入するか否かは個人の自由であることは明確である。したがって、強制的に加入を義務付けることはできない。
について
 マンション管理組合が、区分所有者からマンションの管理費と自治会費を同時に徴収していた事例で、区分所有者が自治会費の返還を争った裁判において、「区分所有法第3条、第30条第1項によると、マンション管理組合は、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために設置されるのであるから、同組合における多数決による決議は、その目的内の事項に限って、その効力を認めることができるものと解すべきである。しかし、町内会費の徴収は、共有財産の管理に関する事項ではなく、区分所有法第3条の目的外の事項であるから、マンション管理組合において多数決で決定したり、規約等で定めても、その拘束力はない」と、区分所有者は管理費を支払う法的義務はあるが、自治会費は共有財産管理目的の費用でなく、法的拘束力を否定している(【参照判例②】参照)。
 また、自治会長が、住民に対して、自治会の加入が法律で義務付けられていると説明して加入を強制し、執拗に自治会費の支払を請求した行為を不法行為(民法第709条)と認定し、自治会の損害賠償責任を認めた裁判例(福岡高裁平成26年2月18日)がある。
について
 自治会の設立及び自治会が存在していても加入すべき法的義務はなく、住民個々人の自由であるが、最近、自治会等への加入率の低下を背景に、自治体において、地域住民が地域の自治会に加入し、活動に参加を促進するための条例が制定されているところが増えている。
 宅建業法上、取引する物件の地域またはマンションに自治会の有無や活動内容を説明する明確な規定はない。しかし、自治会への加入促進等の条例のある地域において、宅建業者が地域生活情報の一つとして、地域で生業としている宅建業者が、コミュニティ形成に協力することもやぶさかでないであろう。
 京都市では、地域コミュニティの活性化を総合的かつ計画的に推進する目的により、地域活動に積極的に参加、協力するべきとの地域住民や事業者の役割を定め(京都市地域コミュニティ活性化推進条例第1条、同条例第6条)、宅建業者に「住宅を購入し、または賃借しようとする者に対して、地域自治を担う住民組織の活動に関する情報等を重要事項の説明の際に提供する」ことを促しているものがある(同条例第13条)。
 宅建業者が取引に際し、買主に自治会の存在の説明や加入を勧める場合があろう。自治会へ入会を勧誘する行為自体は違法となるわけでなく、買主に加入を勧める際は、加入するか否かは住民の自由意思であることを告げた上で、説明・勧誘する必要があろう。

参照条文

 民法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第3条(区分所有者の団体)
   区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
 同法律(同法)第30条(規約事項)
   建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
  〜⑤ (略)
 京都市地域コミュニティ活性化推進条例第1条(目的)
   この条例は、地域コミュニティの活性化の推進に関し、その基本理念を定め、並びに本市等及び事業者の責務並びに地域住民の役割を明らかにするとともに、地域コミュニティの活性化の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、地域コミュニティの活性化を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。
 同条例第6条(地域住民の役割)
   地域住民は、地域コミュニティの重要性を理解し、地域活動に積極的に参加し、及び協力することにより、地域コミュニティの活性化の推進についての役割を果たすものとする。
   地域住民は、地域自治を担う住民組織に多くの地域住民が主体的に参加する状況となることを目指し、地域住民相互の交流及び協働についての役割を果たすものとする。
 同条例第13条(地域自治を担う住民組織の活動等に関する情報の提供)
   住宅の販売若しくは賃貸又はこれらの代理若しくは媒介をする事業者は、住宅を購入し、又は賃借しようとする者に対し、宅地建物取引業法第35条第1項各号に掲げる事項の説明その他当該住宅についての説明を行う際に、当該住宅の存する地域において活動する地域自治を担う住民組織の活動に関する情報その他当該地域の地域活動に関する情報を提供するよう努めなければならない。

参照判例①

 最高裁平成17年4月26日 判タ1182号160頁(要旨)
 当該自治会は、会員相互の親ぼくを図ること、快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団であり、いわゆる強制加入団体でもなく、その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないのであるから、当該自治会の会員は、いつでも自治会に対する一方的意思表示により当該自治会を退会することができると解するのが相当であり、本件退会の申入れは有効であるというべきである。

参照判例②

 東京簡裁平成19年8月7日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 町内会は、自治会とも言われ、一定地域に居住する住民等を会員として、会員相互の親睦を図り、会員福祉の増進に努力し、関係官公署各種団体との協力推進等を行うことを目的として設立された任意の団体であり、会員の自発的意思による活動を通して、会員相互の交流、ゴミ等のリサイクル活動及び当該地域の活性化等に多くの成果をもたらしているところである。そして、町内会は、法律により法人格を取得する方法もあるが、多くの場合、権利能力なき社団としての実態を有している。
 このような町内会の目的・実態からすると、一定地域に居住していない者は入会する資格がないと解すべきではなく、一定地域に不動産を所有する個人等(企業を含む)であれば、その居住の有無を問わず、入会することができると解すべきである。そして、前記目的・実態からすると、町内会へ入会するかどうかは個人等の任意によるべきであり、一旦入会した個人等も、町内会の規約等において退会の制限を定める等の特段の事由がない限り、自由に退会の意思表示をすることができるものと解すべきである。
 ところで、区分所有法第3条、第30条第1項によると、マンション管理組合は、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために設置されるのであるから、同組合における多数決による決議は、その目的内の事項に限って、その効力を認めることができるものと解すべきである。
 しかし、町内会費の徴収は、共有財産の管理に関する事項ではなく、区分所有法第3条の目的外の事項であるから、マンション管理組合において多数決で決定したり、規約等で定めても、その拘束力はないものと解すべきである。
 本件では、管理組合の規約や議事録によると、管理組合費は月額○○○円となっており、親和会当時からの経緯によると、そのうちの○○○円は実質的に町内会費相当分としての徴収の趣旨であり、この町内会費相当分の徴収をマンション管理組合の規約等で定めてもその拘束力はないものと解される。

監修者のコメント

 マンションの区分所有者が、当該地域の自治会(町内会)に加入する義務があるか否かの問題については、回答のとおり、その義務はないというのが、裁判例であり、これと異なる見解は聴いたことがない。したがって、マンションの管理組合が徴収した管理費から自治会費(町内会費)を支出することは、法的に不適切ということになる。
 また、重説の関係も回答のとおり、自治会の有無やその活動内容について説明義務はないと解されるが、それは法的な観点からそう言えるだけであって、マンションの購入者にとっては、その地域における自治会(町内会)の有無や活動がどういうものか関心があるのも否定できない。可能な限り、その情報を提供することが望ましい。

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