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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1912-R-0211
賃借人が増築した賃借物件が滅失した場合の有益費の償還請求権

 当社は賃貸借契約の媒介をした。賃借物である一戸建に賃借人が増築したが、近隣の火災により類焼し、増築部分は滅失した。賃貸借契約を解除するが、賃借人は賃貸人に対し、増築に要した費用の償還を請求することができるか。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。10年前に一戸建住宅について2年更新の条件により賃貸借契約の媒介をしたが、その建物が、近隣火災の類焼により全焼したため、契約は解除することになった。当該建物は、都心に通勤するには便利なターミナル駅から徒歩6分の場所にあり、賃借人は、出来るだけ長期に賃借を希望していた。契約時は築40年で、平屋の2LDKと賃借人家族には手狭だったが、敷地に余裕があったので、賃借人は、賃貸人の了解を得て自己の費用で、既存の部屋の2畳分増築と新しく1部屋6畳を増築した。増築部分の建物は賃貸人の名義で増築登記している。

質 問

1.  賃借人は、賃借物の増築に要した費用全額を賃貸人に請求することはできるか。
2.  賃借していた建物が類焼により滅失したときでも、増築に要した費用全額を請求することはできるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃借人が賃借物に価値を加え、賃貸人への返還時にその価値が現存していれば、賃借人は賃貸人に対して有益費の支払を請求することができる。賃貸人に請求することのできる金額は、賃借人が支出した金額又は価値の増加額であるが、全額又は増加額を支払うかを選択できるのは賃貸人である。
 質問2.について ― 増・改築した賃借建物が賃貸人に返還する前に滅失した場合は、有益費の償還請求権は消滅すると解されている。
2.  理 由
について
 賃借人は、賃借物を改良し、その賃借物の価値の増加が現存していれば、支出した費用(有益費)を賃貸人に請求することができる。賃貸人から賃借人への有益費の償還は、賃貸借契約の終了したときである(民法第196条第2項、同法第608条第2項)。有益費は必要費とは異なる。賃借物について改良のために要した費用が有益費であり、賃借物の保存のために要した費用は必要費である。有益費は賃借物の価値を増加することが前提となる。当該相談ケースのような建物増改築や内装の全面改装、門扉等の外構の改良等により、その価値や価格を増加することである。
 必要費は、ドアや襖の建付不具合の修理や外壁の塗装、内装の一部補修等が該当するが、賃借物の保存に要する通常の必要費については、賃借人は賃貸人に請求することができる(同法第196条第1項前段)が、賃借人が利益を得たときは、請求することができない(同法第196条第1項但書)。
 賃借人は、必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができるが、有益費の請求は、賃貸借の終了の時に、その価格の増加が現存する場合に限り、償還がされることになっている(同法第608条)。賃貸人が、賃借人の請求に対して償還する費用は、賃借人が支出した金額又は価値の増加した額であり、どちらの額を支払うかは、賃貸人の選択(同法第196条第2項)によるため、いずれか低い額を選択できることになっている。
 なお、賃借人が負担した費用や改良・改善した内容により有益費なのか、通常必要費なのかの判断ができにくい場合がある。
について
 賃借人に有益費の償還請求が与えられているのは、賃借物返還時に、賃借人の要した費用によって賃借物の価値が増加したままであると、増加した価値を賃貸人が不当に利得することになるため、賃借人が支出した又は増加分を返還させる趣旨である。
 万一、賃借人の賃借物が賃貸人に返還される以前に、建物が滅失したときは、賃借人の賃貸人に対する有益費償還請求権はどうなるであろうか。賃借人は賃貸借継続中に改良費を支出したのは事実であり、賃貸人も了解しているのである。しかし、増・改築部分の登記は賃貸人名義になっているものの、引渡前には賃貸人は何らの利得も発生してしない。増・新築部分が返還以前に滅失したときには、賃貸人が利得すべき増加価値もすでに消滅しており、特段の事情がない限り、有益費償還請求権も消滅すると解されている。当該相談ケースのような建物の全焼でなく、増・改築部分の類焼による消滅も同様である。また、賃借人が有益費償還を請求したのち、建物返還前に増・新築部分を含む建物が滅失した場合でも、賃借人の支出した有益費請求権は消滅すると解されている(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第196条(占有者による費用の償還請求)
   占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
   占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
 民法第608条(賃借人による費用の償還請求)
   賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
   賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

参照判例

 最高裁昭和48年7月17日 判タ299号293頁(要旨)
 民法第608条第2項、同法第196条第2項が、有益費償還請求権を与えている法意は、賃借人が賃借物につき有益費を支出してその価値を保持したまま賃借物が返還されると賃貸人は賃借人の損失において増加価値を不当に利得することになるので、現存する増加価値を償還させることにあると解される。そうすると、前述のように増・新築部分が返還以前に滅失したときには、賃貸人が利得すべき増加価値もすでに消滅しているから、特段の事情がない限り、有益費償還請求権も消滅すると解すべきである。このことは、賃借人が有益費償還請求権を行使したのち、返還以前に増・新築部分が滅失した場合でも変わりはない。

監修者のコメント

 回答にあるとおり、賃借人が支出した費用が必要費か有益費なのか判断できにくい場面があるが、必要費は、本来賃貸人が賃借人に「適切に使用・収益させる債務」として履行すべき内容であり、典型例は雨漏りの修繕、備付け給湯器・コンロ、備付けエアコンの修繕のための費用である。これに対して、有益費は、どうしても賃貸人が負担しなければならないものではないが、物件の客観的価値を増加させるものであり、典型例は、玄関灯を見栄えの良いものに変換した、クロスを張り替えた、トイレをウォッシュレットにしたなどのための費用である。必要費は、もともと賃貸人が負担すべきものだから支出した賃借人は直ちに請求できるのに対し、有益費は賃借人が支出した時点では賃貸人の実質的な利得はないが、その物件が返ってくる時には、貸した時より価値が増加した可能性が高くなるので、賃借人は賃貸借の終了した時に請求できることにしている。そして、この有益費償還請求権の本質は、賃貸人が利得することについての不当利得返還請求権であるから、本相談事例の増築部分は滅失していれば、賃貸人は何の利得もしないのであり、回答のような結論になる。

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