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1910-R-0208掲載日:2019年10月
父親の娘夫婦への土地の無償貸与後の娘の死亡による権利の行方
20年前に、父親が娘夫婦のために、契約書もつくらずに無償で土地を貸与し、娘の夫が家を建てたが、娘は13年前に死亡した。娘の夫は再婚を考えているが、①この夫の土地に対する権利は、どのような権利か。②娘の夫が再婚した場合、この夫の再婚相手(配偶者)の土地に対する権利はどのような権利になるか。③このような状況の中で娘の父親が死亡した場合、娘の夫の土地に対する権利はどのような権利になるか。
なお、家の名義は夫の名義のままで、地代は今も支払われていないが、この娘夫婦には子供が1人いる。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者兼管理業者であるが、このたびある地主の次女から、次のような相談を受けた。
「父(地主)が、20年前に姉夫婦のために土地を貸し、その土地上に姉の夫が家を建てた。ところが姉は13年前に死亡し、夫は再婚しようとしている。姉夫婦には子供が1人いるが、大学生でその家には一緒に住んでいない。なお、現在父は高齢(90歳)ではあるが、意識もはっきりしており、父が言うには、土地は「姉夫婦」に貸したもので、地代は最初からもらうつもりはなかったので、一銭ももらっておらず、もちろん契約書もつくっていない、ということであった。」
質 問
1. | 家の名義は現在も姉の夫の名義になっているが、その姉の夫の土地に対する権利は、どのような権利か。ある人は、姉の夫は土地を不法に占拠していることになると言っているが、その考え方は正しいか。 |
2. | 姉の夫が再婚した場合、その再婚した相手(配偶者)の土地に対する権利はどのような権利になるか。 |
3. | 姉の夫が地代を支払わないまま、土地の貸主である父親が死亡した場合、姉の夫の土地に対する権利はどのような権利になるか。 |
4. | 以上のような相談を受けている当社は、どのように対応したらよいか。 |
回 答
1. | 結 論 | |
⑴ | 質問1.について ― 姉の夫が土地を不法に占拠していることになるという考え方は、正しくない。姉の夫の土地に対する権利は、亡くなった妻(つまり、相談者の姉)とともに無償使用を許諾された使用借権に基づくものと解される(民法第593条)。 | |
⑵ | 質問2.について ― 再婚した夫の妻は、夫の使用借権が及ぶ範囲内で、配偶者として土地を利用できるだけであり、土地に対する直接の権利はない。 | |
⑶ | 質問3.について ― 姉の夫の土地に対する権利は、土地の使用を許諾した父親が死亡した場合には、その土地の使用借権がもともと姉夫婦の存在を前提に設定されたものと考えることができるので、その相続人である次女から土地の返還請求がなされる可能性もあり、予断を許さない。 | |
⑷ | 質問4.について ― 本件の問題は、相続問題の絡む親族間の微妙な問題なので、法律の専門家である弁護士等に相談してもらうよう対応するのが適当である。 | |
2. | 理 由 | |
⑴ | について 本件の土地使用許諾は、【事実関係】を見る限り、父親から「姉夫婦」すなわち「2人」に対してなされたものと解することができる。したがって、土地の使用借権者は2人ということになり、そのうちの1人が死亡したとしても、2人には子供がいるので、その死亡した者(姉)の権利(準共有持分)はその夫と子供が共同相続することになる(民法第890条)。したがって、本件の場合に、姉の夫が土地を不法占拠していることになるという主張は正しくない。 ただ、使用借権というのは、その使用貸借の目的を達したときには、いつでも使用貸借契約が解除される危険性があるので(民法第597条第2項・第3項)、本件のような場合は、父親が姉の夫との間の使用貸借契約を解除するという可能性も否定できない。 |
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⑵ | について 姉の夫が再婚したとしても、その前妻の権利(使用借権の準共有持分)が後妻に移転することはないので、単に夫が再婚したというだけでは、後妻はその夫の使用借権の範囲内で土地を利用することができるというだけで、土地に対して独立した権利をもつということにはならない。 |
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⑶ | について 土地の使用借権を設定した当事者(土地の所有者・貸主)が死亡したとしても、その当事者としての地位は相続人に承継されるので、その相続人の1人である妹から、本件の使用借権の設定が、もともと姉夫婦の存在を前提になされたものであるとの立場から、土地の返還を求める訴訟が提起される可能性があるからである。 なお、借主が死亡した場合、使用貸借は終了する(同法第599条)。 |
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⑷ | について (略) |
参照条文
○ | 民法第593条(使用貸借) | |
使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 | ||
○ | 民法第597条(借用物の返還の時期) | |
① | 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。 | |
② | 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。 | |
③ | 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。 | |
○ | 民法第599条(借主の死亡による使用貸借の終了) | |
使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。 | ||
○ | 民法第882条(相続開始の原因) | |
相続は、死亡によって開始する。 | ||
○ | 民法第887条(子及びその代襲者等の相続権) | |
① | 被相続人の子は、相続人となる。 | |
② | 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。 | |
○ | 民法第890条(配偶者の相続権) | |
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。 |
監修者のコメント
本ケースが、仮に訴訟になったとした場合、裁判所はおそらく法的判断による判決ではなく訴訟上の和解でケリをつける可能性が高い事案である。
個別の質問に対する結論は、基本的には回答のとおりと思われるが、娘夫婦に対する土地の無償貸与が、その父親の意思としては娘夫婦が健在でいるという黙示的な条件付きの使用貸借契約という解釈も可能であり、ましてや娘の夫が父親にとって見ず知らずの女性と再婚したような場合、使用貸借契約の基礎となった事情・背景が大きく変更したといえるので、「事情変更の原則」により、契約の解除あるいは契約内容の変更が認められる可能性がある。
本ケースは、使用貸借から賃貸借に切り換えて相応の地代を支払うことにするのが、一般的に考えられる現実的方法と考える。