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1908-R-0206掲載日:2019年8月
定期借家契約の契約期間中における、賃借人から中途解約ができる「やむを得ない事情」とはなにか。
定期借家契約では賃借人は期間満了まで中途解約はできないと思うが、賃借人にやむを得ない事情が発生した場合は中途解約ができると聞いている。借主の生活の本拠として使用することが困難である「やむを得ない事情」とは何か。また、賃借人が自宅を購入することが理由である場合は、中途解約事由にあたるか。
事実関係
当社が定期借家契約で賃貸仲介した賃借人が、自宅用にマンションを購入するので、賃借しているアパートを中途解約したいと言ってきている。アパートの賃貸借契約は3年間の定期借家契約で、期間満了日まであと1年ある。入居者は、本人とその家族の3人である。賃借人は、「やむを得ない事情」で賃借している建物が生活の本拠として使用することができないのだから、中途解約が認められるはずだと主張している。なお、定期借家契約書には、賃借人からの中途解約についての特約はない。
質 問
1. | 定期借家契約で特約が約定されていなくても、賃借人から中途解約ができるのか。 |
2. | 中途解約ができるとしたら、賃借人が自宅を購入するという理由で解約することができるか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 賃借人は、一定の事情により、解約することができる。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 自宅の購入は、「やむを得ない事情」には当たらず、解約はできないと解される。 | ||
2. | 理 由 | ||
⑴ | について 定期借家契約では、特約がない限り、原則として賃借人からの中途解約権はない。もし中途解約するとなると、賃貸借の残存期間の賃料相当額を賃貸人に支払って退去するか、賃貸人との合意で解約するしかない。合意の場合でも賃借人は一定額の違約金的性格の解約金を賃貸人に支払うことが多い。 しかし、特約がなくても、法律により、賃借人に「やむを得ない事情」が発生し、かつ「建物を自己の生活の本拠として使用することが困難」となった場合には、賃借人は建物賃貸借の解約の申入れができる(借地借家法第38条第5項)ことになっている。「やむを得ない事情」には、転勤・療養・親族の介護・その他が例示されているが、生活の本拠として使用することが困難な事情のうち、条文で「その他」とされている中にどの様な事情が含まれるかは、個別の具体的事情により判断される。 同法同条では、中途解約ができる賃貸借建物を、200㎡未満の居住用建物とし、200㎡以上の居住用建物や事業用建物は対象外としている。 解約する場合は、賃借人の解約の申入れから1か月を経過することにより、賃貸借契約は終了する。 |
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⑵ | について 中途解約の事由には「やむを得ない事情」と「自己の生活の本拠として使用することが困難」の2つが基本要件となっている。当該賃貸借契約時点で賃借人が予測し得なかった事情が、契約後に発生することになった場合に適用される趣旨であろう。 相談のケースである賃借人が自宅を購入するという理由により、定期借家契約の中途解約ができるか否かであるが、賃貸期間及び家族数から見て、「使用が困難」とは言えず、中途解約事由には、なり得ないと解される。 では、結婚、子供の誕生や成長で賃貸借建物では手狭になった、あるいは勤め先倒産での失業や賃金低下により賃料支払が困難になったというのは、解約事由にあたるであろうか。前者の場合は、建物の広さが解約事由となる使用困難にあたるかどうかは、個別での判断になるだろう。後者の場合は、上記の基本要件に該当せず、解約はできないと解するのが相当と思われる。ただし、この場合は、賃借人が賃料を滞納する可能性もあるため、賃借人が賃料支払困難を理由にして中途解約を申し入れてきたときには、賃貸人は解約を認める(合意解約)ことを選択するほうが、現実的であろう。 賃貸媒介業者としては、定期借家契約においても、賃借人からの中途解約特約条項を設定しておいたほうがいい場合もあるので、賃貸人との協議が求められる。 なお、やむを得ない事情による解約申入れを2か月前にするなどのような特約で、賃借人に不利な特約は無効になる(同法同条第6項)が、やむを得ない事情以外の通常の解約予告を2か月前にすることは有効であるので、注意が必要である。 |
参照条文
○ | 借地借家法第38条(定期建物賃貸借) | |
① | 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。 | |
② | 〜④ (略) | |
⑤ | 第1項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する。 | |
⑥ | 前2項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。 | |
⑦ | 第32条の規定は、第1項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。 |
監修者のコメント
「やむを得ない事情」とは、その条文の趣旨からみて、借家契約締結時において、将来のある時期にその事情が生ずることを賃借人に予測させることが期待できない事情をいい、そのことをめぐる判例が確立しているわけではない。要するに、賃借人本人の主観的恣意的な転居を認めないという趣旨であり、ケースごとに社会通念で判断するしかない。