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1906-R-0203掲載日:2019年6月
定期借家契約における離婚を理由とする解約申入れ
期間3年の定期借家契約で、借主が1年半の期間を残し、中途解約を申し入れてきた。理由は、「離婚」をしたので、共働きを前提にした家賃の高い広い部屋が必要なくなったからだという。
この「離婚」を理由とする解約申入れは、借地借家法第38条第5項の「やむを得ない事情」による解約申入れに該当するか。該当しないとした場合、賃貸借の媒介・管理業者として、どのように対応したらよいか。
事実関係
当社は賃貸借の媒介業者兼管理業者であるが、このたび当社が昨年媒介した期間3年の定期借家契約の借主から、離婚をしたために、広い部屋が必要なくなったという理由で、定期借家契約の解約を申し入れてきた。
なお、この借主は共働きの夫婦ということで、3LDKの家賃の高い広い部屋に入居しており、契約期間もまだ1年半程残しているが、女性の方はすでに退居している。
質 問
1. | この借主からの解約申入れは、借地借家法第38条第5項の「やむを得ない事情」による解約申入れに該当するか。 |
2. | もし該当しないとした場合には、当社は、賃貸借の媒介・管理業者としてどのように対応したらよいか。 |
回 答
1. | 結 論 | |
⑴ | 質問1.について ― 「やむを得ない事情」による解約申入れには該当しないと解される。 | |
⑵ | 質問2.について ― 借主に、約定の原状回復費用の負担のほかに、家賃の数か月分程度の解決金を貸主に支払ってもらい、合意解約するという対応が適当であろう。 | |
2. | 理 由 | |
⑴ | について 借地借家法第38条第5項の「やむを得ない事情」とは、借主が契約時にあらかじめ予測することが困難で、かつ、そのリスクを全面的に借主に負担させることが社会通念上適切でない事情のことをいうと解される。したがって、そのように解すると、本件の「離婚」という事情は、確かに事前の予測は困難であろうが、そのリスクの負担については、特段の事情がない限り、その解約の原因が借主自身を含めた夫婦間の問題にあるので、その全部を借主に負担させても社会通念上不適切であるとは考えられず、本条の「やむを得ない事情」による解約申入れには該当しないと解されるからである。 |
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⑵ | について 本件の解約申入れは、上記結論⑴で述べたとおり、借地借家法第38条第5項の「やむを得ない事情」による解約申入れには該当しないと解されるので、借主に別途解約権が留保されていない限り、約定に違反した解約申入れということになる。したがって、媒介業者(管理業者)としては、当事者の話し合いの場を設けることによって、ある程度の貸主の営業上の損失を借主が補填するというかたちで円満解決を図る(合意解約する)という対応が適当といえよう。 |
参照条文
○ | 借地借家法第38条(定期建物賃貸借契約) | |
① | 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。 | |
② | 〜④ (略) | |
⑤ | 第1項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(中略)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する。 | |
⑥ | 、⑦ (略) |
監修者のコメント
定期建物賃貸借制度が創設された際に廃止された「賃貸人不在期間中の建物賃貸借」(旧第38条)においても、「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により…」とまったく同じ文言が使われていた。これと本件の条文とはその趣旨が異なるが、文言の意味は同じと解される。旧38条の解釈でも「その他のやむを得ない事情」というのは、転勤、療養、親族の介護に匹敵するような重要な事情、たとえば海外への留学などが考えられるが、当人の主観的な事情は含まれないと解される。質問の「離婚」は、やはり回答のとおり、「やむを得ない事情」には当たらないと思われ、またそれにより「賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき」とはいえないであろう。もし、そういう場合も該当すると解すると家族構成あるいは居住者数が変ったということの一事で中途解約ができてしまうことになり、「転勤、療養……」という厳格な要件を規定した意味がなくなってしまう。
このようなケースに備えて、一定の予告期間を設けて中途解約ができる旨の特約条項を定めておくことが望ましい。