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1804-R-0188掲載日:2018年4月
成年被後見人を賃借人とする賃貸借契約の裁判所許可の要否
当社は賃貸の媒介業者である。賃借人となる者は高齢で成年被後見人であり、成年後見人である長女が被後見人の代理人として賃貸借契約を締結する。また、後見人は、今後、被後見人の自宅の賃貸を検討しているほか、今回契約する賃貸借契約をいずれ解除して被後見人を老人施設へ入所させたいと考えている。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者である。賃貸マンションの賃貸借の媒介をするが、賃借人は成年被後見人である。被後見人は体調を崩して入院していたが、従来から軽い認知症を患っており、入院中に進行したため、1人で生活することや財産管理は難しいと家族が判断し、後見開始の審判により、他の兄弟の同意を得て長女が成年後見人となった。被後見人である父は、入院前は隣町の自宅に1人暮らしであったが、退院後、病状は小康状態を保っている。日常生活の体力はあり、見た目は普通である。しかし、高齢でもあり、退院を機に長女の自宅に近接する賃貸マンションに住まわせ、長女が父の身の回りの世話をすることにした。マンションも見つかり賃貸人と賃貸借契約を交わすが、父親には財産があり、賃料等は父親の預貯金から支払うことにしている。賃借人を父親として、後見人である長女が父親に代わって賃貸借契約の締結をすることになっている。長女は、いずれ、父親を施設に入所させることも考えている。
質 問
1. | 被後見人である父親が賃貸借契約の賃借人となる場合、後見人である長女は、家庭裁判所の許可を得ずに賃貸借契約をすることができるか。 | |
2. | 父親が賃貸マンションに入居すると父親の自宅は空家となるので、長女は、建物維持と収入確保のため、父親を賃貸人として賃貸することを考えているが、家庭裁判所の許可は不要と考えてよいか。 |
回 答
1. | 結 論 | |
⑴ | 成年被後見人が賃貸借の賃借人となるときは、後見人が被後見人の代理人として法律行為をすることが可能であり、裁判所の許可は不要である。なお、被後見人が賃借人となっている賃貸借契約を解除するときは、家庭裁判所の許可が必要となる。 | |
⑵ | 被後見人である父親の居住用財産である自宅を賃貸するには家庭裁判所の許可が必要である。 | |
2. | 理 由 | |
⑴ | ⑵について 超高齢社会を迎えた我が国は、認知症など精神上の障害を持ち、判断力を欠く状況にある者が増えつつある。精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者を保護する制度の一つとして、成年後見制度がある。本人、配偶者、四親等内の親族等の請求により、家庭裁判所は、後見開始の審判をすることができ、審判を受けた者は、成年被後見人とされ、後見人が付される(民法第7条、同法第8条)。後見人は、被後見人の生活、療養看護及び財産の管理を行う(同法第858条)が、財産に関する法律行為については被後見人を代表する(同法第859条第1項)。被後見人が行った日常生活に関する行為以外の法律行為は、被後見人である本人または被後見人の代理人である後見人等により取り消すことができ、取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされる(同法第120条、同法第121条)。 一方、後見人が、被後見人のためであっても、被後見人の居住用不動産の処分行為をする場合には、家庭裁判所の許可を得る必要がある。許可が必要な処分行為は、居住用不動産の売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分であり、被後見人が現在住んでいる土地建物のみならず、従前住んでいた建物を取り壊して更地になっている土地、将来居住する予定である土地建物も居住用不動産とされている(同法第859条の3)。被後見人の居住用不動産の処分は、被後見人の生活の本拠であり、処分をすることは被後見人の心身や生活に大きな影響を与えることを顧慮し、処分に関して裁判所の許可が必要とされている。 したがって、後見人が、被後見人を賃借人とする建物の賃貸借契約は、居住用不動産の処分に該当せず、許可を要する法律行為ではない。また、居住用以外の被後見人の所有不動産の処分等についても許可は不要であり、後見人の判断で処分することが可能である。なお、被後見人の身内が後見人となる場合は、後見監督人が家庭裁判所により選任されることが多いが、後見監督人が選任されていれば、後見人が被後見人の不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする一定の行為をする場合は、後見監督人の同意が必要である(同法第13条、同法第864条)。 なお、相談ケースの被後見人である父親が、将来、病院に再入院や施設に入所する場合、賃借した建物を後見人が代理して賃貸借契約を解除するときや自宅を賃貸するときにも、裁判所の許可が必要である(同法第859条の3)ことを留意しておきたい。 |
参照条文
○ | 民法第7条(後見開始の審判) | ||
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。 | |||
○ | 同法第8条(成年被後見人及び成年後見人) | ||
後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。 | |||
○ | 同法第9条(成年被後見人の法律行為) | ||
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。 | |||
○ | 同法第13条(保佐人の同意を要する行為等) | ||
① | 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。 | ||
一 | ・二 (略) | ||
三 | 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。 | ||
四 | ~九 (略) | ||
② | 〜④ (略) | ||
○ | 同法第120条(取消権者) | ||
① | 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。 | ||
② | (略) | ||
○ | 同法第121条(取消しの効果) | ||
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。 | |||
○ | 同法第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮) | ||
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。 | |||
○ | 同法第859条(財産の管理及び代表) | ||
① | 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。 | ||
② | (略) | ||
○ | 同法第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可) | ||
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。 | |||
○ | 同法第864条(後見監督人の同意を要する行為) | ||
後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第13条第1項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第1号に掲げる元本の領収については、この限りでない。 |
監修者のコメント
成年被後見人の居住していた不動産の処分について民法が家庭裁判所の許可を必要とした趣旨は、たとえ判断能力が欠けたり、不十分となったとしても、従来住んでいた所での生活では、精神的に安定していたにもかかわらず、たとえ医師が常駐し、各種介護設備が完備していた施設であっても却って精神が不安定となってしまうこともあるため、専門家の判断によることが適切だというのが主な理由である。もっとも、もう一つの理由は、成年後見人等の保護者の都合による恣意的な判断に基づく処分を防止しようということである。そこで、家裁の許可が必要な行為として民法に例示されているものは、「売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定」であり、これらはすべて、その居住用不動産から「離れる」きっかけとなるものばかりである。したがって、反対の「購入」とか「賃借」などは許可の対象としていないのである。