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1802-R-0185
借地上の建物賃借人による、借地人に代位しての地代の弁済の可否

 土地の賃借人が地代を滞納し、土地の賃貸人から土地賃貸借契約の解除を迫られているが、契約が解除された場合、借地上の建物賃借人は、建物を退去しなければいけないか。この解除を回避するため、建物賃借人が地代を支払うことは可能か。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。1年前に、借地上の建物を店舗として賃貸借する契約の媒介をした。しかし、その後、その建物の賃貸人である土地の賃借人が地代を数か月滞納し、土地賃貸人から土地賃貸借契約を解除されかねない状況となっている。建物賃借人は、店舗をその土地で継続することを望んでいる。

質 問

1.  土地の賃貸人と賃借人の土地賃貸借契約が解除されたときは、借地上の建物の賃借人は退去しなければならないか。
2.  借地上の建物の賃借人が、土地の賃借人に代わって土地の賃貸人に対して地代を支払うことにより、その建物を継続して使用することができるか。

回 答

1.  結 論
 土地の賃借人の債務不履行により土地の賃貸人から借地契約(借地権)が解除された場合、ただちにではないが、借地上の建物の賃借人は、退去しなければならない。
 借地上の建物賃借人は、土地の賃借人の意思にかかわらず、土地の賃借人が土地の賃貸人に支払うべき地代を、直接土地の賃貸人に支払うことができ、その場合、土地の賃貸借契約は解除されずに建物賃借人は建物の使用を継続することができる。
2.  理 由
について
 土地の賃借人の債務不履行により、土地の賃貸人から借地契約が解除された場合、賃借人は土地の使用権を失い、当然に借地上の建物を取り壊して土地を明け渡さなければならない(民法第541条)。それにより、土地の賃借人である建物の賃貸人と建物の賃借人との賃貸借契約は、建物賃借の履行不能により終了し、借地上の建物の賃借人は、建物を退去しなければならない(【参照判例①】参照)。土地賃貸人は、借地契約の解除により、建物の賃借人に対抗できる。
 なお、土地の賃貸人と土地の賃借人との間の借地契約が、期間満了になり、建物の賃借人が土地を明け渡さなければならないときは、建物の賃借人は、一定の条件を満たしていれば、裁判により1年以内の土地の明け渡しが猶予される(借地借家法第35条)。
について
 建物の賃借人は、借地権の消滅を防止することに法律上の利益を有しているので、土地の賃借人に代わって地代を支払うことが認められる(【参照判例③】参照)。したがって、土地の賃借人が土地の賃貸人に対して支払うべき地代を、建物の賃借人が直接土地の賃貸人に支払うことができ(民法第474条)、そのことによって土地の賃貸借契約は継続され、建物の賃借人は建物の使用を続けることが可能となる。
 しかし、土地の賃貸借の解除については、賃貸人は、賃借人に対して催告すれば足りる。土地の賃貸人は、地上の建物の賃借人に対して、必ずしも土地の延滞賃料の支払いの機会を与えなければならないものではない(【参照判例②】参照)とされているため、建物の賃借人が必ずしも保護されるわけではない点は、注意しておく必要がある。

参照条文

 民法第474条(第三者の弁済)
 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
 同法第541条(履行遅滞等による解除権)
 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
 借地借家法第35条(借地上の建物の賃借人の保護)
 借地権の目的である土地の上の建物につき賃貸借がされている場合において、借地権の存続期間の満了によって建物の賃借人が土地を明け渡すべきときは、建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することをその1年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、建物の賃借人の請求により、建物の賃借人がこれを知った日から1年を超えない範囲内において、土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。
 前項の規定により裁判所が期限の許与をしたときは、建物の賃貸借は、その期限が到来することによって終了する。

参照判例①

 最高裁昭和45年12月24日 判タ257号145頁(要旨)
 土地の賃貸借が借地人の債務不履行により解除された場合においても、その地上の建物の賃貸借はそれだけでただちに終了するものではなく、土地賃貸人と建物賃借人との間で建物敷地の明渡義務が確定されるなど、建物の使用収益が現実に妨げられる事情が客観的に明らかになり、ないしは、建物の賃借人が現実の明渡を余儀なくされたときに、はじめて、建物を使用収益させるべき賃貸人の債務がその責めに帰すべき事由により履行不能となり、建物の賃貸借は終了するにいたると解するのが相当であって、それまでは、建物賃借人の建物賃貸人に対する賃料債務は依然発生するものというべきである。

参照判例②

 最高裁昭和51年12月14日 判時842号74頁(要旨)
 賃貸人が賃料延滞を理由として土地賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、地上建物の借家人に対して右延滞賃料の支払いの機会を与えなければならないものではない。

参照判例③

 最高裁昭和63年7月1日 判時1287号63頁(要旨)
 借地上の建物の賃借人はその敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有すると解するのは相当である。けだし、建物賃借人と土地賃貸人との間には直接の契約関係はないが、土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明け渡すべき義務を負う法律関係にあり、建物賃借人は、敷地の地代を弁済し、敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有するものと解されるからである。

監修者のコメント

 本ケースの法律上の問題点は、それを争点として最高裁まで争われ、回答にある3つの判例が各争点について判断を示している。そして、それぞれについて学説上も異論をみないので、その解釈が確立した判例理論と考えて差し支えない。
 なお、建物賃借人が代わって弁済した地代については、建物賃貸人に求償できることは当然であるから、本来支払うべき建物の賃料と対当額で相殺できる。

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