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1802-B-0241
売主は、過去に発生した修繕済みの瑕疵の存在を報告・説明する義務があるか

 当社が媒介した売買契約で、売主は、契約の際に過去に発生した雨漏りを告知しなかった。引渡後、当該箇所から雨漏りが発生した。買主は、売主の告知義務違反、及び当社に対し、調査説明義務違反を主張している。

事実関係

 当社は売買の媒介業者である。築25年の一戸建の売買契約の媒介を行った。契約は個人間売買で、瑕疵担保責任期間は3か月の約定をした。物件の引渡しから6か月後、雨漏りが発生し、買主は、雨漏り箇所を修繕した。その際、買主が工事業者に点検させたところ、雨漏り箇所には修繕した跡があった。当社は、売主から、4年前に東側の窓枠の腐食により外壁と窓枠の間から大雨時に雨漏りが発生し、雨漏り箇所を修繕したことを聞いていたが、その後、雨漏りはしていないとのことであった。契約の際、売主が作成した物件状況報告書の雨漏りの有無の欄に、「過去に雨漏りがあった」にはチェックせず、「現在まで雨漏りを発見していない」をチェックし、当社は記載されている内容に従って買主に説明した。
 買主は、売主に対し、物件状況報告書により、過去の雨漏りという瑕疵があったにもかかわらず、買主に告知しなかったのは、不法行為であり、瑕疵担保責任は免れず、買主が施した工事代金等を損害として賠償要求している。また、当社に対しては、雨漏りは買主の購買意欲を減退させる事項であるにもかかわらず、過去に雨漏りがあったことを認識していながら、契約時に買主に告知・説明しないのは故意に事実を告げてはならないという宅建業法上の説明義務違反であり、売主と連帯して損害賠償額を支払うことを要求している。

質 問

1.  売主は、過去に雨漏りがあったことを買主に対して告知する必要はあるか。
2.  媒介業者は、取引する売却物件の過去に雨漏りがあったことを知っていた場合、買主に説明する義務はあるか。

回 答

1.  結 論
 契約時に雨漏りがない限り、過去に発生した雨漏りを告知する必要はない。
 買主の売買をするか否かを決定づける重要な事情がない限り、媒介業者も過去に発生した雨漏りを説明する義務はない。
2.  理 由
⑴⑵ について
 瑕疵担保責任は、売買契約上予定されていた品質・性能を欠いていた場合、買主は売主に対し、損害賠償の請求ができ、契約の目的が達せられないときは、契約解除ができる(民法第566条、同法第570条)。また、物理的瑕疵については、約定により買主は売主に修復を求めることができる。瑕疵は、契約時に売主、買主が瑕疵の存在を認識していない隠れたる瑕疵が該当し、善意無過失であることが前提である。買主が瑕疵について告げられていたり、認識していた場合には悪意となり、売主に対し、損害賠償等の請求はできない。売主が瑕疵の存在を知りながら、買主に告げなかったときは、売主の債務不履行(不完全履行)(民法第415条)あるいは不法行為(民法第709条)により損害賠償責任を負う場合がある。
 過去に建物に雨漏りがあり、その箇所を修繕した後、契約時に現に雨漏りがなければ、売主は契約に際して過去の雨漏りを告知する必要はない。また、買主に建物を引き渡した後に雨漏りが発生しても、契約時における雨漏りの存在を買主が立証しない限り、隠れた瑕疵に該当せず、売主は責任を負うことはない。
 相談のように建物の築年数が経過している場合には、売主が修繕した箇所と同じ箇所が引渡後に雨漏りがあった場合、建物の経年変化もあり、契約時に発生していたことの立証は難しいであろう。
 裁判例でも、「過去に雨漏りや腐食があったこと自体は、それによって本件売買契約当時の建物の利用に支障を生じさせるものでない」と瑕疵を否定し、「修繕工事により雨漏りは止んだと推認でき、かつ本件売買契約は当時築23年以上である中古物件の取引であったのであり、過去に雨漏りや腐食が生じたという事実自体が、直ちに売買契約を締結するかどうかを決定付けるような重要な事項に客観的に該当するとまでは認め難く、媒介業者は、この点について説明義務を負うとは認められない」と媒介業者の説明責任がないことを容認している。説明責任がなければ、宅建業法(第47条第1項ニ)の故意に事実を告げない行為の責任も存在しない。売主が物件状況報告書に「過去に雨漏りがあった」ことを告知せず、「現在まで雨漏りを発見していない」と記載したことに関しても、「認識と異なる記載をしたとしても、その前提となる説明義務が存しない」ため、売主としての説明義務違反を認められないとしている(【参照判例】参照)。
 しかし、売主や媒介業者に責任がないとされるのは事案によるともいえるので、媒介業者は、過去に建物に不具合があり、売主が建物の修繕やリフォーム等をしたのであれば、その旨や時期、修繕内容等を物件状況報告書に記載して買主に説明することにより、不動産取引の無用なトラブルを防ぐことが重要といえる。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
 同法第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
 前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。
 同法第570条(売主の瑕疵担保責任)
 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
 同法第572条(担保責任を負わない旨の特約)
 売主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 宅地建物取引業法第47条(業務に関する禁止事項)
 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
~ハ (略)
 イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
・③ (略)

参照判例

 東京地裁平成27年11月30日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 過去に雨漏りや腐食があったこと自体は、それによって本件売買契約当時の建物の利用に支障を生じさせるものでなく、本件売買契約当時、本件建物が23年以上経過していたことも考慮すれば、本件建物の瑕疵ということはできない。(中略)
 中古建物売買においては、一般に経年劣化等によりさまざまな不具合が生じていることを前提として、売買代金等の条件が決定されていると考えられるから、建築から相当の年数を経た建物に雨漏りによる腐食が見られたとしても、それが当該建物の土台、柱、基礎部分等の建物の主要部分に当たるのではなく、又は、その程度が軽微なものにとどまる場合には、当該腐食の存在をもって民法第570条の瑕疵ということはできないものと解するのが相当である。(中略)
 本件においては、既に雨漏りが修繕済みであり、修繕工事後、本件売買契約当時まで約3年間、本件建物入居者から雨漏りの発生の指摘がなく、修繕工事により雨漏りは止んだと推認でき、かつ本件売買契約は当時築23年以上である中古物件の取引であったのであり、これらに照らすと、過去に雨漏りや腐食が生じたという事実自体が、直ちに売買契約を締結するかどうかを決定付けるような重要な事項に客観的に該当するとまでは認め難く、媒介業者は、この点について説明義務を負うとは認められない。したがって、仮に媒介業者が買主に対し、本件物件状況報告書の内容に従って、上記の事実がない旨を説明したとしても、当該事実についての説明義務自体が存しないから、媒介業者に説明義務違反による賠償責任が生じるということはできない。(中略)
 不動産売買の売主は、売買契約締結当時、買主が売買をするか否かを決定づけるような重要な事情を認識していたなどの特段の事情が認められる場合は、買主に対し、信義則上このような事情を説明する義務を負うものと解される。しかしながら、これらの事実が売買をするか否かを決定づける重要な事情に当たるとはいえないことは、前記で判示したとおりである。売主が、本件物件状況報告書において、「現在まで雨漏りを発見していない」等とその認識と異なる記載をしたとしても、その前提となる説明義務が存しないから、これをもって売主としての説明義務に違反したと認められないことは、媒介業者についての判断と同様である。

監修者のコメント

 回答及び参照判例の言うとおり、過去に雨漏りがあったとしても、契約締結当時に雨漏りがなければ、過去の雨漏りを告知すべき義務は、売主にも媒介業者にもないと解して良いであろう。ただ、参照判例の最後の部分すなわち「売主が本件物件状況報告書において「現在まで雨漏りを発見していない」等とその認識と異なる記載をしたとしても、その前提となる説明義務が存しないから、これをもって売主としての説明義務に違反したと認められない…」と判示している部分は、当該事案についての具体的妥当性を考慮したのかも知れないが、そのような論理を一般化することはできないと考えるべきである。本相談ケースでは、過去に雨漏りがあったにもかかわらず、「過去に雨漏りがあった」にはチェックせず、「現在まで雨漏りを発見していない」にチェックしたというのであるから、客観的事実と異なることを記載していることは否定できない。「現在まで雨漏りがなかった」場合と「雨漏りがあったが修繕をした」場合とでは、若干ではあるが建物に対する一般的評価は異なる。物件状況報告書には、「過去に雨漏りがあったが、修繕した」旨を記載すべきであった。媒介業者としても、その事実を聴かされていたのであれば、そのように売主を指導すべきであり、そうしていれば本件のような紛争は防止できた。

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