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1712-R-0183掲載日:2017年12月
テナントビルを賃借している飲食店から発生している悪臭を放置した賃貸人の責任
当社は賃貸の媒介業者である。テナントと居住用賃貸の複合ビルで、当社が媒介をした飲食店から悪臭が発生しているが、賃貸人は防止策を取らないでいる。当社媒介で従前より入居している衣料品店は、賃貸人に対し、損害賠償を請求すると言っている。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者である。都市近郊の住宅地と商業地域のほぼ境にあるビルのオーナーから入居者の媒介を依頼されている。ビルは5階建で、1階と地階は店舗、2階は事務所で、3階以上が複数の居住用ワンルームとなっている。
3年前に当社の媒介で入居した1階店舗の子供用の衣料品を販売する賃借人から、当社に対して、3か月前に当社媒介で地階に入居した飲食店から発生する悪臭が店内に入り込み、商品へ匂いが付着したり、来店客が不快感を示しているとの苦情があった。飲食店は、昼のランチや夜の営業をしているため、終日臭いが漂っている。この飲食店は和食中心の店であるが、以前に入居していたのはパスタ料理店で、麺を茹でたり、料理するときの多少の臭いがあったものの、悪臭と言えるほどの気になる臭いではなかった。
現在の飲食店は、魚料理を扱っており、焼き魚や煮魚を調理するときの臭いや、地階店舗の入口に置く、生魚を入れた発泡スチロール箱からの生臭いにおいなどが悪臭となることがある。
賃貸人は和食の店であれば、悪臭を発生することがないだろうと入居を承諾したものの、賃貸人が、衣料品店の賃借人から、悪臭の苦情を受けたときに、和食店の賃借人に対し、他の賃借人に迷惑のかかるような臭いを出さないようにと注意したが、賃貸人は、臭いの拡散に対する何らの防止策を取らないでいる。
衣料品店の賃借人は、このまま賃貸人が悪臭の発生を放置するのであれば、衣料品に臭いが付着することによる商品価値の低下、また、来店客の減少により、売上が落ちたときは、賃貸人に対し、損害賠償を請求すると言っている。
質 問
ビルの賃貸人は、賃借人が発生させた悪臭が、他の賃借人に対し被害を及ぼしたときは、その損害を賠償しなければいけないか。
回 答
1. | 結 論 | |
賃貸人は、賃借人に対し、賃貸物件を使用収益させる義務を負っており、使用収益に適した状態でなくなった状況を放置した場合は、賃貸人は被害を受けた賃借人に損害賠償責任を負う場合がある。 | ||
2. | 理 由 | |
賃貸借契約における賃貸人は、賃借物件を賃借人の目的に沿って使用収益させる義務があり(民法第601条)、他の賃借人が悪臭を発生することを防止し、拡散しないように対策を講じなければならない。しかし、あらゆる臭いの発生を防止すべき義務があるというものでなく、賃貸借の目的から見て、目的物をその目的に従って使用収益する上で、社会通念上、受忍限度を逸脱する程度の悪臭が発生する場合に、賃貸人が、これを放置したり、防止策を怠るのであれば、賃貸人の債務不履行責任が生ずる場合がある。 相談のケースのように、1階に衣料品店があり、後から地階に飲食店が入居した場合、飲食店の臭いが衣料品店に入り込み、商品である衣料品に臭いが付着したり、来店客の不快感で顧客が減少するなら、明らかな損害の発生と言える。損害を発生させる悪臭に対し、賃貸人は換気装置の改善や、衣料品店に臭気が侵入しないように、換気口を変更するなどの措置を講ずる必要があるにもかかわらず、賃貸人が放置し、解決策を取らないときは、賃貸人の債務不履行責任が認められ、損害賠償責任を負う(同法第415条、第416条)ことになる。 ただし、実際にどの程度の損害賠償が認められるかどうかについては、悪臭発生の有無、悪臭の程度、時間、当該地域、発生する営業の種類、態様などと、悪臭による被害の態様、程度、損害の規模、被害者の営業等を総合して、賃借人として受忍すべき限度内の悪臭か否かの判断をすべきとされている(【参照判例】参照)。 賃貸人は、衣料品店の使用収益目的を維持するためには、悪臭を発生する賃借人との間の賃貸借契約を解除することにより、迷惑行為を除去することも解決につながるが、立退き料等の問題が起こる可能性があろう。 |
参照条文
○ | 民法第415条(債務不履行による損害賠償) | ||
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。 | |||
○ | 同法第416条(損害賠償の範囲) | ||
① | 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 | ||
② | (略) | ||
○ | 同法第601条(賃貸借) | ||
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 |
参照判例
○ | 東京地裁平成15年1月27日 判タ1129号153頁(要旨) | ||
賃貸借契約における賃貸人の義務を考えるに、賃貸人にはあらゆる臭いの発生を防止すべき義務があるというものではなく、賃貸借の目的から見て、目的物をその目的に従って使用収益する上で、社会通念上、受忍限度を逸脱する程度の悪臭が発生する場合に、これを放置し若しくは防止策を怠る場合に、初めて、賃貸人に債務不履行責任が生ずるというべきであり、悪臭発生の有無、悪臭の程度、時間、当該地域、発生する営業の種類、態様などと、悪臭による被害の態様、程度、損害の規模、被害者の営業等を総合して、賃借人として受忍すべき限度内の悪臭か否かの判断をすべきである。 |
監修者のコメント
本ケースのような場合、悪臭が受忍限度を超えているときは、被害を受けている店舗から悪臭を出している店舗に対して不法行為(民法第709条)を根拠として損害賠償請求ができる。
だからといって、賃貸人が賃借人同士の争いだとして、拱手傍観できるわけではない。賃貸人は、賃貸借契約上の基本的義務として、賃借人が賃借目的に沿って適切に利用できるようにしなければならない。したがって、賃貸人は、回答にあるとおりの何らかの措置を取る義務があり、何らの解決策を取らないときは、不作為の債務不履行を構成する。