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1712-R-0182掲載日:2017年12月
一時使用目的の建物賃貸借契約の問題点
当社は、賃貸媒介業者である。賃借人が仮住まいのため短期の居住を希望しているが、一時使用目的の建物賃貸借契約で契約してもよいか。
事実関係
当社は、賃貸媒介業者であるが、自宅を建築する間、短期間の仮住まいを希望している顧客がいる。建築期間は、現在の自宅を取り壊して新築し、取壊し期間を含めたおおよそ5か月を予定している。物件を探したところ、新築する自宅の近くに短期間で貸したいという戸建の空家があり、空家の賃貸人は、息子家族が転勤先から戻る6か月後までであれば、貸してもいいと言っている。よって契約は、一時使用目的の建物賃貸借契約で、期間は賃借人が自宅を新築する6か月間と考えている。
質 問
1. | 今回、貸主の息子家族が転勤先から戻ってくるまでの期間を、借主と一時使用目的の建物賃貸借契約を締結しても問題ないか。その場合、もし、賃借人の自宅を新築する工期が延びてしまったとしても、退去しなければいけないのか。 | |
2. | 一時使用目的の賃貸借契約は、短期間の賃貸借の場合だけの適用なのか。契約期間を1年以上とした場合は、一時使用目的の賃貸借契約にはならず、普通賃貸借契約の扱いになってしまうのか。 |
回 答
1. | 結 論 | |
⑴ | 借主の自宅の新築期間のみ居住するという明確な目的があるため、一時使用目的の建物賃貸借契約を結ぶことは問題ない。ただし、一時使用目的の建物賃貸借契約は、更新がなく、賃貸人の正当事由の有無にかかわらず、賃借人は期間満了とともに建物を明け渡さなければならない。よって、本事例のような場合は、あらかじめ賃借人の自宅の新築の工期が延びた場合の対処を考えておく必要がある。 | |
⑵ | 一時使用目的の建物賃貸借契約は、その使用目的が客観的に見て明らかに一時的であるものが対象となり、賃貸借期間の長短による制約はない。よって、一時使用目的の建物賃貸借契約の期間を1年以上とすることも可能である。 | |
2. | 理 由 | |
⑴ | ⑵について 一時使用目的の建物賃貸借契約は、賃借人の事情により、その使用目的が一時的であることが要件であるが、「一時使用」の定義は必ずしも明確ではない。判例によると一時使用は、「賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される場合」(【参照判例①】参照)で、かつ、「賃借人もこれを了承しているような場合の賃貸借をさすものと解すべき」とされている(【参照判例②】参照)。 つまり、建物を賃貸借する動機、建物の使用目的、用途、利用期間、建物の種類、敷金の有無等の賃貸借条件などの事情が考慮され、一時使用目的に該当するか判断されることになる。賃借人の事情による一時使用と、賃貸人の希望による一時使用の場合があるが、原則は、賃借人の事情が一時使用目的かどうかが判断の基準となる。 一時使用にあたるものとして、よく例示されるのは、居住用では、本事例のような自宅建物の新築・増改築の際の仮住まいや、避暑等での別荘の賃借。事業向けでは、選挙事務所、展示会場、建物新築・増改築の際の仮店舗等である。 一時使用が客観的に判断されなければ、建物賃貸借契約書に一時使用目的と記載されていても、一時使用の建物賃貸借契約とは認められず(【参照判例③】参照)、契約時に賃借人が事由の如何を問わず明渡すことを約束していたとしても、当然に一時使用を目的とした賃貸借契約となるものではない(【参照判例④】参照)。一時使用と認められなければ、期間の定めのない普通賃貸借契約となり、賃借人保護が強くなるため、賃貸人からの解約申し入れには正当事由が必要となる。 一時使用目的の建物賃貸借契約では、1年未満の賃貸借契約を無効としている借地借家法は適用されないため(借地借家法第29条、第40条)、この賃借人には同法で保護されている権利は認められず、かわりに民法が適用されることになる。 もし、賃貸借の期間が満了した後も、一時使用目的の建物賃貸借契約の賃借人が賃借物の使用又は収益を継続している場合、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとされるが(民法第919条)、契約の期間満了後は、期間の定めのない賃貸借となる。期間の定めのない賃貸借の解約は、賃貸人及び賃借人ともに、どちらかからの解約申し入れから3か月後に賃貸借期間は終了する(同法第617条)。この場合、賃貸人からの解約申し入れについては、正当事由は不要である。 賃貸借契約は居住や事業(店舗・事務所など)としての生活基盤の場であり、「一時賃貸借」を巡って当事者の間でもめることがある。 本事例では、工事期間など詳細が決まっており、一時賃貸借が成立する。しかし、工事期間の遅延やその他の事情で賃借人の居住期間を変更せざるを得ない事態が起こった場合、明確な一時使用目的建物賃貸借契約であるので、期間満了とともに賃借建物を明け渡さざるを得ない。よって、本事例のような場合は、余裕を持った賃貸借期間の設定をしておくことが必要であろう。 なお、自宅の建築予定があるが、建築会社も決まっておらず建築時期も未定の場合、仮住まいとして期間を定めた一時使用目的の賃貸借契約を締結しても一時使用とはみなされず、普通賃貸借契約と認定される可能性が高い。この場合、借地借家法や消費者契約法の適用を受けることになるため、賃貸取引実務では、注意が必要である。 賃貸人が確実に賃借人の明渡しを望むのであれば、更新がなく、確実に期間の満了で賃貸借契約を終了させることができる、定期建物賃貸借契約にするべきである(借地借家法第29条)。 |
参照条文
○ | 民法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ) | |||
① | 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。 | |||
一 | (略) | |||
二 | 建物の賃貸借 3箇月 | |||
三 | 動産及び貸席の賃貸借 1日 | |||
② | (略) |
○ | 同法第619条(賃貸借の更新の推定等) | ||
① | 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。 | ||
② | (略) | ||
○ | 借地借家法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) | ||
建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。 | |||
○ | 同法第29条(建物賃貸借の期間) | ||
① | 期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。 | ||
② | (略) | ||
○ | 同法第30条(強行規定) | ||
この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。 | |||
○ | 同法第38条(定期建物賃貸借) | ||
① | 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。 | ||
② | 〜⑦ (略) | ||
○ | 同法第40条(一時使用目的の建物の賃貸借) | ||
この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。 |
参照判例①
○ | 最判昭和36年10月10日民集15巻9号2284頁(要旨) | ||
一時使用のための賃貸借といえるためには必ずしもその期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される場合であればよいのであつて、その期間が1年未満の場合でなければならないものではない。 |
参照判例②
○ | 大阪地裁昭和53年1月25日判時897号85頁 | ||
一時使用を目的とした建物の賃貸借とは、その期間が比較的短期間(必ずしも1年以内とは限らない)が定められており、かつ、その賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、該賃貸借を短期間に限って存続させる趣旨のものであることが客観的に判断され、かつ、賃借人もこれを了承しているような場合の賃貸借をさすものと解すべきである。 |
参照判例③
○ | 東京地裁平成2年7月30日判時1389号102頁(要旨) | ||
一時使用という文言が記載されていたからといって、それだけでは賃貸借が一時使用目的であることが明らかであるとは到底いえず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 |
参照判例④
○ | 東京地裁平成3年7月25日判時1416号94頁(要旨) | ||
賃借人が事由の如何を問わず明渡しを約束しただけで、賃貸借契約が当然に一時使用の目的となるものではない。一時使用の目的であることが当事者間に明確に合意されていなければ、借家法の適用除外にならない。 |
監修者のコメント
回答にあるとおり、一時使用目的の建物賃貸借には、借地借家法の借家関係の規定が適用されないと定められているため(第40条)、これを誤解して、契約書のタイトルを「一時使用目的賃貸借契約」としたり、「本契約は、借地借家法第40条に規定する一時使用目的の賃貸借であることを双方は合意した。」と特約したりすれば、一時使用として認められると考えている人が意外に多い。宅建業者としては、この点について、本回答のような内容に基づき貸主に適切なアドヴァイスをしていただきたい。