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1710-R-0181掲載日:2017年10月
賃貸借契約の終了後の賃借人の明渡遅延に対する損害賠償予定額を賃料の2倍と約定することの可否
当社が媒介した賃貸借契約が終了したが、賃借人が明渡しを遅延している。賃貸借契約では明渡しが遅延したときは、契約終了の翌日から明渡日までの期間の遅延損害金を賃料相当の倍額を約定している。賃貸人は、賃借人に対して約定の損害金を請求しても問題ないか。また、消費者契約法に抵触することはないか。
事実関係
当社は、賃貸の媒介業者である。当社が3年前に個人契約の居住目的で賃貸マンション1室の賃貸の媒介をした賃借人が期間満了で契約終了となり退去することになった。賃借人は、入居から1年後に経営している衣料品販売会社の資金繰りが悪化し、賃貸借期間中に滞納を繰り返していたため、賃貸人は、期間満了の6カ月前に解約を申し入れたところ賃借人も満了日をもって退去することに同意した。しかし、賃借人の会社の経営状態が改善しないこともあり、転居に必要な賃貸借契約費用や引越代等の捻出が難しく、賃料は支払うのでしばらく入居させてほしいとの依頼があった。賃貸人は、賃料支払の不安定な賃借人には退去してもらい、新たな賃借人の入居を希望している。なお、賃貸借契約書には、賃借人が契約終了にもかかわらず明渡しを遅延したときは、明渡し完了の日まで賃料の倍額に相当する損害金の支払をしなければならない旨の約定がある。
質 問
1. | 賃貸借契約が契約解除や期間終了になったにもかかわらず、賃借人が賃貸借契約期間後も賃借物件を明け渡さない場合、賃貸人は、賃借人に対して明渡完了までの期間の損害金を賃料の2倍の金額を請求することはできるか。 | |
2. | 賃貸借契約で明渡完了日までの遅延損害金を約定することは、消費者契約法に反しないか。 |
回 答
1. | 結 論 | |
⑴ | 質問1.について ― 賃貸借契約における明渡遅延損害金は、賃借人の明渡し遅延によって賃貸人に発生する損害を補填する目的があり、その目的と均衡を失するような高額なものでない限り認められると解されている。したがって、賃貸人は、賃借人に対し賃料の2倍相当の金額の損害金を請求することは問題ない。 | |
⑵ | 質問2.について ― 消費者契約法は、契約解除に伴う損害賠償(消費者契約法第9条第1号)、賃料の不払いの際の損害賠償(同法第9条第2号)を規定したものであり、明渡遅延損害金はいずれも対象ではないし、また、特に高額でなければ、同法第10条に抵触することはないと解されている。 | |
2. | 理 由 | |
⑴ | ⑵について 賃貸借契約において、賃借人の賃貸人に対する2種類の損害賠償予定額を定めているものが多い。一つは、賃借人の賃料支払の遅延に伴う損害金。2つ目は、当該相談ケースのように明渡期日以降に賃借人が賃借物を明け渡さない場合の明渡遅延損害金である。賃料支払遅延に伴う損害金の額は、支払約定額に年14.6%を乗じた額とする約定が多くみられるが、この額は、消費者契約法規定の上限の割合の額であり、その割合を超えた額は無効となる。支払遅延損害金は、賃貸借契約の約定された期日に、賃借人が賃料等を支払わない場合における予定損害賠償額、又は違約金の性格とされている。支払期日の翌日から支払をする日までの期間の日数に応じ、賃借人は賃貸人に対して支払うものである(消費者契約法第9条第1項)。 一方、賃借人が明渡期日を過ぎても賃借物を明渡ししないときの損害賠償額、又は違約金としての性格を持つ金銭である明渡遅延損害金について特別に定めた消費者契約法の規定はない。明渡遅延損害金は、賃借人が明渡しを遅延した場合における使用料相当の損害金一般について定めた規定であり、その対象となる損害は、契約の解除後に賃借人が賃借物件の返還義務を履行せずに使用を継続することによって初めて発生するものであって、契約の解除時においては、損害発生の有無自体が不明なものである。 賃貸人は、賃借人の明渡しを予定して、賃借物の補修等を予定していたり、次の借主の入居のための募集や新賃借人の入居日が決まっている場合もあり、賃貸借契約が終了したにもかかわらず、賃借人が契約の目的たる建物を明け渡さないために賃貸人がその使用収益を行えない場合には損害を生じることがある。 明渡遅延損害金は、そのような不測の事態に陥った場合に適用が予定されている条項であって、賃貸借契約終了後における賃借物件の円滑な明渡しを促進し、また、明渡しの遅延によって賃貸人に発生する損害を一定の限度で補填する機能を有するものである。その適用によって賃借人に生じる不利益の発生の有無及びその範囲は、賃借人自身の行為によって左右される性質のものである。これらのことからすれば、賃料の倍額相当額の賠償予定条項は、賠償予定額が上記のような目的等に照らして均衡を失するほどに高額なものでない限り、特に不合理な規定ではなく、信義誠実の原則(民法第1条第2項)に反せず、消費者契約法第10条にも該当しないとする裁判例がある(【参照判例】参照)。一方当事者の契約不履行が発生した場合を想定して、その場合の損害賠償額の予定又は違約金をあらかじめ約定することは、消費者契約に限らず、一般の双務契約においても行われていることである。 なお、明渡遅延損害金の額を賃料の2倍相当額を超えて約定することが合理的かどうかは、個別事情によって判断される場合があるので留意が必要である。賃貸借契約の媒介にあたっては、明渡遅延損害金の額は賃料の2倍相当までで約定しておくことが望ましいであろう。 |
参照条文
○ | 民法第1条(基本原則) | ||
① | (略) | ||
② | 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 | ||
③ | (略) | ||
○ | 消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効) | ||
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。 | |||
一 | 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分 | ||
二 | 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6%の割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分 | ||
○ | 同法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) | ||
民法、商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 |
参照判例
○ | 東京高裁平成25年3月28日 判時2188号57頁(要旨) | ||
本件倍額賠償予定条項は、契約終了の原因がいかなるものであるかにかかわらず、契約が終了した後において、賃借人が明渡し義務を履行せずに賃借物件の明渡しを遅延した場合における使用料相当の損害金一般について定めた規定であり、その対象となる損害は、契約の解除後に賃借人が賃借物件の返還義務を履行せずに使用を継続することによって初めて発生するものであって、契約の解除時においては、損害発生の有無自体が不明なものである。したがって、このような損害について賠償の予定額を定めた本件損害賠償予定条項を、消費者契約法第9条第1号に規定する消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し又は違約金を定める条項と解することは相当でないというべきである。-(中略)-。 本件倍額賠償予定条項は、賃貸借契約が終了したにもかかわらず、賃借人が当該契約の目的たる建物を明け渡さないために賃貸人がその使用収益を行えない場合に適用が予定されている条項であって、賃貸借契約終了後における賃借物件の円滑な明渡しを促進し、また、明渡しの遅延によって賃貸人に発生する損害を一定の限度で補填する機能を有するものである。このように一方当事者の契約不履行が発生した場合を想定して、その場合の損害賠償額の予定又は違約金をあらかじめ約定することは、消費者契約に限らず、一般の双務契約においても行われていることであって、その適用によって賃借人に生じる不利益の発生の有無及びその範囲は、賃借人自身の行為によって左右される性質のものである。これらのことからすれば、本件倍額賠償予定条項は、賠償予定額が上記のような目的等に照らして均衡を失するほどに高額なものでない限り、特に不合理な規定とはいえず、民法第1条第2項に規定する信義誠実の原則に反するものとは解されない。-(中略)-。本件倍額賠償予定条項において、使用料相当損害金の額を賃料等の2倍と定めることが不当であるとはいえない。-(中略)-。本件倍額賠償予定条項が設けられた趣旨及びその適用の前提を考慮すれば、倍額賠償予定条項だけをとらえて、賃借人側に一方的に不利益を強いるだけの条項であると認めることは相当でないというべきである。 |
監修者のコメント
建物明渡しの遅延の賠償予定額の有効性については消費者契約法10条との関係であろう。同条の後段は「民法第1条第2項に規定する基本原則(注:信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するもの」を無効とする旨、規定しているが、賃料の2倍相当の額は、参照判例もいうようにこれに該当しないと考えられる。
ただ、回答にあるとおり、信義則という一般的・抽象的な基準の判断であるので、個別事情により合理的か否かが判断されるので、2倍なら有効だが3倍ならダメと一律に決定することはできない。
なお、調停や裁判上の和解において、裁判所が関与するその調書に建物の明渡しの期限が守られなかった場合の遅延損害金を賃料の2倍相当額とすることは珍しいことではなく、また、稀ではあるが事情によっては3倍とするケースもある。