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1706-R-0176
賃貸借契約において、賃借人が賃料を滞納したときの賃料督促費用を賃借人負担とする特約の有効性

 当社は賃貸の媒介業者である。複数の賃貸不動産を所有している賃貸人が、最近、賃借人の滞納が増え、賃料支払催促に手間や金銭的な負担が増大しているので、これから締結する賃貸借契約には賃借人が延滞した時は延滞ごとに一定の督促費用を支払う特約を約定してほしいと相談されている。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。日頃から賃貸物件の媒介を依頼されている地主から賃貸借契約に際しての相談があった。地主は、市内に多数の賃貸用不動産を所有していたが、家族が役員となって設立した資産管理会社に賃貸用建物の所有権を移して管理運営をしている。会社は、地主が高齢となったため、相続に備えることと所得の分散効果を狙って設立したものである。賃貸不動産はアパート・賃貸マンション、戸建、小規模ビルと多様で管理戸数は100戸を超えている。
 管理は主に地主と長男が専業で行っているが、賃料の遅延や滞納に悩んでいる。遅延については、都度、賃借人に電話や内容証明郵送等により督促しているが、2か月滞納している賃借人に対しては、支払遅延の事情があることも考えられるので、出向いて直接督促と事情の聞き取りをしている。最近、賃料支払を遅延する賃借人が増え、滞納賃料を回収するまでの電話・郵送代や直接督促のため賃貸物件に行く際の交通費等の費用がかかり、また、督促業務をしている地主と長男の時間的な面や税理士や弁護士との相談の手間など、何かと負担が増加している。
 そのため、地主等は当社に対し、今後、当社が媒介する賃貸借契約書に、「賃借人が賃料を遅延した場合、賃借人は賃貸人に対して、督促ごとに一定の金額(3,000円を想定)を支払う」旨の、賃貸人の督促費用を賃借人に負わせる特約条項を追加してほしいと申し入れてきた。

質 問

1.  賃貸借契約書で、賃借人が賃料を滞納したときに、予め定めた金額を賃料督促費用として賃借人が負担する特約は有効か。
2.  賃借人が消費者の場合、消費者契約法では、賃借人が支払う損害賠償額を予定する条項や賃借人に不利な条項は無効とされているが、同法に抵触することはないのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃借人が負担する督促費用の約定額が過大でなければ有効と解される。
 質問2.について ― 賃借人が負担する額が相応の費用であれば、賃借人の利益を一方的に害するものでなく、また、消費者契約法上の損害賠償額や違約金に該当せず、同法に抵触しないと解する。
2.  理 由
⑵について
 不動産の賃貸借契約は、不動産以外の賃貸借と同様に、賃貸人が賃借物の使用収益を賃借人にさせ、賃借人は賃料を支払うことを約定する契約で(民法第601条)、賃借人は、賃料を契約で定められた時期に定期的に支払う義務がある(同法第614条)。賃借人が賃料を決められた期限までに支払わないときは、賃借人の履行遅滞(同法第412条)となり、賃貸人は、賃借人の債務不履行によって生じた損害賠償を請求できることになる(同法第415条)。賃借人が消費者の場合、賃料支払遅延に対する損害賠償額の上限は、消費者契約法で定められており(消費者契約法第9条第2号)、一方、消費者契約においては消費者の義務を加重する一定の条項は無効とされている(同法第10条)。
 裁判例では、「賃貸人の賃借人への賃料の遅延賃料の支払督促には相応の費用を要することがあり、督促手数料の約定は信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるということはできない」と容認したものがある。そして、約定額が過大でない限り、催告手数料は、賃貸人の督促にかかる費用の補填として「実際に要した費用が定められた金額を超える場合でも賃借人は定められた金額を支払えば足りるという点では賃借人に有利な面もあり、このような条項が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるということはできない」とした上で、賃借人が賃料を支払わない場合の損害賠償額の予定又は違約金を定めた条項ではないと解し、消費者契約法に抵触しないと判示している(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第412条(履行期と履行遅滞)
 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
・③ (略)
 同法第415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
 民法第420条(賠償額の予定)
 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
 違約金は、賠償額の予定と推定する。
 同法第601条(賃貸借)
 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第614条(賃料の支払時期)
 賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。
 民法第485条(弁済の費用)
 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
 消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
 (略)
 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
 同法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

参照判例

 大阪高裁平成25年10月17日 消費者法ニュース98号283頁(要旨)
 賃借人が賃料の支払を遅滞した場合には、賃貸人は、単に普通郵便で催告するのみではなく、督促の電話をかけたり、内容証明郵便を送ったり、場合によっては、現地に従業員を赴かせて直接督促したりするなど、相応の費用を要することが少なくないと考えられる。上記の催告手数料は、このような費用を補填する観点から、あらかじめ一定の額を催告にかかる費用と定めたものであって、実際に要した費用が定められた金額を超える場合でも賃借人は定められた金額を支払えば足りるという点では賃借人に有利な面もあり、このような条項が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるということはできない。また、その額も、滞納1回当たり3150円であって、催告に要する費用を補填するという観点に照らし、高すぎるということもできない。(中略)本条項は、賃借人が家賃を滞納し、賃貸人が賃料支払の催告をしたときに、それに要する費用をあらかじめ一定額に定めたものであって、消費者契約法第9条2号にいう消費者契約に基づき支払うべき金銭を支払わない場合の損害賠償額の予定又は違約金を定めた条項でないことは明らかである。

監修者のコメント

 賃料督促費用を賃借人に負担させる特約は、【参照判例】の言うように、消費者契約法第9条第2号が予定する損害賠償の予定ではないとしても、一方当事者に債務不履行があった場合に当該当事者に約定した一定額を負担させるというのであるから、民法第420条に定める損害賠償額の予定の一種であることは間違いない。そして、問題となるのは消費者契約法第10条との関係であるが、相談事案の金額程度であれば、同条後段の「信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」とは言えないであろう。

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