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売買事例 1706-B-0230掲載日:2017年6月
宅地建物取引業者の業務に付随した相続対策相談における、相続人への遺産分割交渉の可否
当社は、売買及び賃貸の仲介を主にする宅建業者である。当社が管理している賃貸物件の地主が亡くなり、相続人の一人の話によると、当社が管理している物件以外にも不動産や金融資産などがあり、ざっと計算してみたところ相続税が課税されると見込まれるとのこと。その相続人からは、具体的な税額は把握していないが、相続税の支払いにあてるために上記の不動産の中から土地を一か所売却したいとの相談を受けた。なお、相続人は3人おり、遺産分割協議は調っていない。相続人間の協議に当社が関与することは、問題ないか。
事実関係
当社は、売買及び賃貸の仲介を主にする宅建業者である。2か月前に当社が管理している賃貸物件の地主が亡くなり、相続人である長男によると、当社が管理している物件以外にも不動産や金融資産などがあるそうで、ざっと計算してみたところ、相続税が課税されると見込まれるとのこと。長男からは、具体的な税額は把握していないが、相続税の支払いにあてるために上記の不動産の中から土地を一か所売却したいとの相談を受けた。なお、相続人には、長男のほか、他所に住む次男と嫁いだ長女がいる。被相続人の死後、相続人間で遺産分割協議はしていないが、相続が起こる前に兄弟間で万一に備え遺産分割について話し合った際には、長男と次男との意見が合わなかったそうである。 最近、相続税法改正にともない相続対策への人々の関心が高まっており、生前の相続対策や、本事例のように相続発生後の遺産の処分や有効活用について相談を受ける機会が増加している。そのため、当社の宅建士も相続に関する知識を習得しているが、どの程度まで関わっていいのか、苦慮する毎日である。 |
質 問
1. | 弁護士でない者が遺産分割協議に関与した場合、弁護士法に規定されているいわゆる非弁行為にあたるか。 | |
2. | 非弁行為にならないためには、どの程度の関与であればいいのか。 | |
3. | 相続相談の際に相続税の計算をしたり、通常の不動産仲介業務においても売買に係る譲渡所得税等の税金の概算を示したりすることもあるが、税理士法上の問題はないか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | ⑵ 質問1.と質問2.について ― 宅建業者が、法律事務を報酬を得る目的で取扱ったのでない限り、非弁行為にはあたらないが、関与の仕方やその内容によっては非弁行為に該当する場合があるので、注意が必要である。相続相談では争い事が内在していることも多く、助言程度にとどめておくべきであろう。 | ||
⑶ | 質問3.について ―宅建業者が一般論として概算を示すだけなら、税理士法違反とはならない。 | ||
2. | 理 由 | ||
⑴ | ⑵について 弁護士法では、弁護士の資格のない者が報酬を得る目的で法律事務を取扱うことを禁止している(弁護士法第72条)。宅建業者が複数の相続人の間に入り、各人と遺産分割に関する交渉や分割案の提示をしたり、協議の場に参加して分割方法等を主導したりすることは、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱うことにあたるが、その行為で報酬を得ることを目的としてはいない場合は、非弁行為には当たらない。 相続にあたって、宅建業者による相続人間の調整行為が、媒介報酬の受領に帰結していたとしても、調整行為そのもので報酬を得ることを目的としていない限り、違法とは言えないと解する。 ただし、不動産コンサルティングに関連して、具体的な相続分等について依頼者以外の相続人と交渉を行うことや、相続人間の調整行為を行うことなどは、報酬を得ることを目的とする業務と認定されて同法違反となる可能性が高く、そうなれば罰則も適用される(弁護士法第77条)。 なお、相続発生後の遺産分割協議については、相続人間の協議が原則であり、協議が調わない場合は、家庭裁判所に分割の請求をすることができる。 宅建業者による相続に関する相続人間の調整行為は、相続人間の微妙な問題が内在していることもあるため、特に争い事の当事者への交渉は、避けるべきである。 宅建業者が相続における不動産等の遺産の分割を相談されたときは、依頼者に対する助言や提案が基本となることを再確認すべきである。また、協議の場に同席を求められた場合でも、同様のスタンスを保つか、せいぜい進行役に徹するぐらいが適当であろう。相続人個別の遺産分割に関する交渉等は控え、調整役にはならないことを肝に銘じるべきである。 |
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⑶ | について 相続に限らず、宅建業者が土地建物の売買取引に際し、当事者から税金に関する質問を受け回答することは日常的にある。また、税金に関する小冊子を用意している業者も多い。 特に不動産の売主からは譲渡所得やその特例等、また買主からは軽減税率や諸費用にかかる税額等が寄せられる質問の大半であり、売主にとっては売却額から税引後の手取額、買主は購入時に準備する税金等も含めた総額が、それぞれ関心事である。宅建業者は、契約の成就に向け、税額の概算を示すこととなる。本事例のような相続相談の場合は、相談者は相続税の適否や課税額に関心があるため、宅建業者は概算額を示すことがある。 税理士法では報酬を得る目的の有無にかかわらず、税理士ではない者が一定の税務業務を行うことを禁じており、弁護士法同様罰則の規定がある。禁じられている税務業務には、税務代理(税務申告他)、税務書類の作成(申告書他)に加え、相談業務も対象となっている(税理士法第2条、同法第52条)。 問題は、宅建業者はどこまでの内容、範囲の説明及び計算であれば税理士法の禁止規定に抵触しないかである。前述のとおり、宅建業者は税金の説明なしに業務の遂行は難しいともいえる。宅地建物取引士資格試験においても、税金の知識を問われている。結論としては、税金計算は必須であるが、税額は概算として示し、正確な税額は税務署又は税理士に確認するよう誘導すべきと考える。後日の税額計算の誤りによる紛争を防ぐためにも、専門家に委ねることを顧客に明確に伝えておくことだ。 なお、不動産取引に関係のある、司法書士法や行政書士法でも、資格者でなければ業務ができない独占業務について規定されている。宅建業者は、様々な専門分野を相談された場合に備え、専門資格士を紹介できるようネットワークを作っておくことが重要であり、問題解決のコーディネーターとしての役割を果たすことである。 |
参照条文
○ | 弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止) | ||
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 |
○ | 弁護士法第77条(非弁護士との提携等の罪) | ||
次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。 | |||
一 | ・二 (略) | ||
三 | 第72条の規定に違反した者 | ||
四 | (略) |
○ | 税理士法第2条(税理士の業務) | |||
① | 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税(地方税法(昭和25年法律第226号)第10条の3第2項に規定する道府県法定外普通税及び市町村法定外普通税をいう。)、法定外目的税(同項に規定する法定外目的税をいう。)その他の政令で定めるものを除く。第49条の2第2項第10号を除き、以下同じ。)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。 | |||
一 | 税務代理 (以下略) | |||
二 | 税務書類の作成 (以下略) | |||
三 | 税務相談(税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。) | |||
② | ・③ (略) |
○ | 税理士法第52条(税理士業務の制限) | ||
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。 |
○ | 税理士法第59条 | |||
次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。 | ||||
一 | ~三 (略) | |||
四 | 第52条の規定に違反した者 |
監修者のコメント
弁護士法第72条の「非弁行為」は、「報酬を得る目的」で法律事務を行うことであり、一切報酬を貰わないのであれば、禁止されない。現行の弁護士法は、昭和24年に制定されたが、わが国では村や町で起きた紛争を地域の有力者が間に入って解決するという文化風土があり、無償で行うものまで禁止すれば、このような行為もできなくなってしまうため、報酬を得て行うことを禁じた。したがって、遺産分割の調整は同条の「法律事務」であるが、宅建業者であろうとなかろうと、あくまでも無償であれば非弁行為にはならない。なお、同条は報酬を「得る目的」と言っているが、最初はその目的がなくても、あとで報酬をもらえば、これに該当する。
次に、税理士法は、回答のとおり、弁護士法と異なり、報酬の有無を問わず無償でも税理士以外の者が、一定の税務事務を行うことを禁止している。税務相談もこの対象であり、宅建業者がたとえ無償でも税務相談をすることはできない。しかし、宅建業者が仲介業務を行う上で、必要な譲渡所得税や不動産取得税、登録免許税などの計算をして説明することは差し支えないと解釈されている。要するに、不動産仲介に附随する税金については、法に抵触しないが、不動産取引に直接関係しないものは抵触することになる。本ケースでの相続税の計算は、不動産仲介に関係しない。
なお、税理士法の問題とは別に、宅建業者が税金の計算を誤って、その責任を追及される訴訟もあるので、十分に注意されたい。