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賃貸事例 1704-R-0172掲載日:2017年4月
定期建物賃貸借契約の期間満了後の終了通知の有効性
定期建物賃貸借契約において、期間満了日までに契約終了の通知をしなかった場合、契約はどのようになるか。
事実関係
当社は、賃貸の媒介業者である。3年前に、分譲マンションの賃貸借を媒介し、定期建物賃貸借契約を締結した。1年前に建物所有者が亡くなり、現在、その建物を相続した長男から、賃借人を賃貸している建物から退去させたいとの相談を受けている。相続した時点では、長男は、亡父が賃借人との間でどのような契約を結んでいるか知らなかったが、最近になって賃貸借契約書を確認したところ、定期建物賃貸借契約を締結していることが分かった。契約条項によると契約期間は3年間で、父の死後に契約が満了した。既に満了後3か月が経過しているが、賃借人は引き続き居住しており、家賃も滞納などはなく毎月支払われている。
長男は、同居している子息が近々結婚するので新居を探しており、相続したマンションが通勤や生活面でも便利なので、賃借人に建物を明渡してもらいたいと考えている。
質 問
定期建物賃貸借契約において、期間満了後に契約終了の通知をした場合でも、通知の日から6か月後に賃借人に明渡しを求めることができるか。
回 答
1. | 結 論 | |
期間満了後になってから定期建物賃貸借契約の終了通知をしても、通知の日から6か月後までに、賃借人に建物を明渡してもらうことができる。 しかし、通知が期間満了日から長期間経過してからなされたときは、普通賃貸借契約が締結されたものとみなされうる。 |
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2. | 理 由 | |
借地借家法では、公正証書等の書面による、契約の更新がない定期建物賃貸借契約の締結について規定しており、この場合、契約の更新がないことを有効に定めることが可能であり、契約は期間満了によって終了する(借地借家法第38条)。 借地借家法では、賃貸借の契約期間が1年以上の定期建物賃貸借契約を期間満了により終了させるためには、契約期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して期間満了により契約が終了することを通知しなければ、賃借人に対して期間満了時に明渡しを求めることができない(同法第38条第4項)。期間満了の1年前から6か月前という通知期間が設けられているのは、賃借人が期間を失念していた場合、代替する借家をまだ見つけていないという可能性も十分あり、期間満了により直ちに建物を明渡さなければならないとすると、賃借人にとって酷な事態になりかねないからである。そのため、賃借人に契約終了について注意喚起し、代替物件確保に必要な期間として、6か月の明渡の猶予期間を定めている。 なお、1年前から6か月前までの通知期間での通知を怠ったが、期間満了までの間、例えば期間満了の3か月前に賃貸人が終了通知をしたときは、賃借人は通知の日から6か月後までに明渡しをしなければならない(同法同項但し書き)。 では、契約期間満了後に終了通知をした場合はどうなるか。判例では、「契約終了通知が期間満了前にされた場合と期間満了後にされた場合とで異なるものでないと解する」(【参考判例】参照)というものがあり、満了前になされた終了通知と同様の効果を認め、賃借人は通知の日から6か月後には明渡しをしなければならないとされている。通知期間経過後及び期間満了後に期間満了を通知した場合に賃借人が退去するまでに6か月の期間を設けているのも、前記と同様の趣旨と解するとしている。 なお、契約終了通知は、通知期間経過後又は期間満了後、いつまでに通知すればいいか法的に規定されておらず、判例もない。しかし、賃貸人が期間満了後も賃借人に対していつまでたっても終了通知をしないことは、建物の使用継続を希望する賃借人の地位を不安定にするものであり、期間満了後も賃借人が長期にわたって使用継続しているような場合は、黙示的に新たな普通賃貸借契約が締結されたものと解し、一般条項を適用する場合があるとしている(【参考判例】参照)。一般条項である信義則や権利の濫用が適用となれば、必ずしも賃借人の明け渡しに関し、賃貸人に有利になるとは限らない。 宅建業者は定期建物賃貸借契約にかかわるときは、賃貸人に対し、契約終了に際しては、法定期間内に契約の終了通知をしなければならないことを十分に理解させることが必要である。 |
参照条文
○ | 民法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ) | ||
① | 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。 一 (略) 二 建物の賃貸借 3箇月 三 (略) |
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② | (略) | ||
○ | 同法第619条(賃貸借の更新の推定等) | ||
① | 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。 | ||
② | (略) | ||
○ | 借地借家法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) | ||
建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。 | |||
○ | 同法第38条(定期建物賃貸借) | ||
① | 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。 | ||
② | 〜③ (略) | ||
④ | 第1項の規定による建物の賃貸借において、期間が1年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の1年前から6月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6月を経過した後は、この限りでない。 | ||
⑤ | 〜⑦ (略) |
参照判例
○ | 東京地裁平成21年3月19日判時2045号98頁(要旨) | ||
定期建物賃貸借契約は期間満了によって確定的に終了し、賃借人は本来の占有権原を失う。契約期間1年以上のものについては、賃借人に終了通知がされてから6か月後までは、賃貸人は賃借人に対して定期建物賃貸借契約の終了を対抗することができないため、賃借人は明渡しを猶予されるのであって、このことは、契約終了通知が期間満了前にされた場合と期間満了後にされた場合とで異なるものでないと解するのが相当である。 期間満了後、賃貸人からなんら通知ないし異議もないまま、賃借人が長期にわたって使用継続しているような場合には、黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解し、あるいは法の潜脱の趣旨が明らかな場合には、一般条項を適用するなどの方法で、統一的に対応するのが相当というべきである。 |
監修者のコメント
期間満了による終了通知を法の定める通知期間に行わないまま、期間が満了し、その後に終了通知を行った場合のことについては、借地借家法は特に明文の規定を置いていない。そこで、その点について、ごく一部の法律実務家の中には、期間満了までに終了通知を出さなかった場合は、定期借家から普通借家に転換するという見解もある。借家人保護の解釈が、法の趣旨に合致するとの考えであるが、回答にある裁判例の考え方が一般的であると思われる。6カ月前までに終了通知をしなかった場合は、「契約が終了しない」のではなく、「契約終了を賃借人に対抗できない」(法38条4項)として、契約は終了したが、明け渡せとはいえないという規定の仕方や、まず何よりも契約締結時点で、定期借家であることを書面で説明しなければならないとして、更新がない契約であることを借家人が明確に認識していることを前提としていることを考えると裁判例の考えのほうが説得力がある。ただ、裁判例も言うように、期間が満了してから長期間(たとえば、2年とか3年)を経過してからでも、全く同じというのは問題があるので、一般条項(信義則、権利の濫用、公序良俗など)を適用して貸主の主張を認めないということもあり得るということである。一般条項の適用というのは、個々のケースの具体的事情を総合的にみて判断するということである。質問のケースは、貸主の長男は親がどのような契約をしているのか知らなかったということであり、特段の事情のない限り、明渡しを求めることは、信義則に反するとか、権利濫用になるということにはならないと考えられる。