不動産相談

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ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1702-R-0170
個人営業の賃借人が法人化した場合の賃貸借契約における借家権無断譲渡又は無断転貸の当否

 個人名義で賃貸借契約した賃借物を、賃貸人の承諾を得ずに、賃借人の法人化により引続き使用した場合、賃借人は賃借権の無断譲渡又は無断転貸の違反行為となり、賃貸人は契約を解除することができるか。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。1年半前に期間3年とする事務所の賃貸借契約の媒介をした。賃借人は、企業やインターネットサイト業者等からホームページのデザイン制作を個人で請負っている個人事業者である。賃貸借契約は、賃借人の個人名義で締結し、賃借物件は事務所兼制作場所として使用している。
 賃借人は、事業のデザイン制作請負が順調に推移しており、社会的信用性と税金対策のために、会社組織に改める予定である。会社組織といっても、当面は、賃借人が現状と同様に1人で業務をするので、賃借人が取締役に就任し、資本金も用意する。賃借人は、将来的には、知人のデザイン制作仲間とともに、経営体制を確立し、第三者の資本の導入や従業員を増員して、経営の拡大を計りたいと考えている。

質 問

 個人名義で締結した賃貸借契約を、賃借人が、賃貸人の同意を得ないで個人事業を法人化して引続き同種の事業を行っている場合、法人は賃貸借契約の当事者とは言えず、賃借人の第三者への賃借権の無断譲渡又は賃借物の無断転貸となり、賃貸人は、賃借人に対し、賃貸借契約の解除と建物明渡しを要求することができるか。

回 答

1.  結 論
 個人事業者である賃借人が、事業を法人化しただけで、営業実態が変わらないのであれば、個人と法人は同一性があり、形式的には第三者に対する賃借権の譲渡・転貸に該当するが、解除権は発生せず、賃借人は、引続き賃借物の使用が可能である。
 しかし、法人化により実質的な経営権が第三者に移転した場合などは、賃借人と法人の同一性は失われ、賃借人が、賃貸人の承諾を得ずに賃借物を使用していれば、賃借権の無断譲渡・転貸と判断され、賃貸人に対する背信的行為に該当し、賃貸人は賃貸借契約の解除ができると考えられている。
2.  理 由
 賃借人が、個人名義で賃貸借契約を締結し、賃借物を事業の用途に使用していたが、賃借人が個人事業を法人化し、会社組織で事業を継続した場合、契約当事者である個人の賃借人が、第三者である会社に借家権の譲渡又は転貸していると見ることができる。
 法律上、不動産の賃貸借契約において、賃借人は賃貸人の承諾を得ずに賃借権を第三者に譲渡したり、転貸することは禁止され(民法第612条第1項)、賃借人がこの規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる(民法第612条第2項)と規定されている。相談ケースの場合では、賃借人の賃貸人との賃貸借契約の違反により、賃貸借契約の解除が可能とも思える。
 しかしながら、裁判では、賃貸人が賃貸借契約を解除できるかどうかは、賃借人に「背信的行為と認めるに足りない特段の事由があるか否か」により判断される。
 賃貸借は賃貸人と賃借人の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であり、当然ながら、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借権を譲渡し又は転貸した場合は、賃貸借関係を継続するに堪えない賃借人の背信的行為として、賃貸人から一方的に賃貸借関係を終止することができる。
 しかし、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、解除権は発生しないものと解するとされている(【参照判例①】参照)。
 また、個人である賃借人が賃借家屋を個人企業と実質を同じくする会社に使用させたからといって、賃貸人との間の信頼関係を破るものとはいえないから、背信行為と認めるに足りない特段の事情あるものとして、賃貸人らが主張するような民法第612条第2項による解除権は発生しないとした他の裁判例がある(【参照判例②】参照)。
 なお、法人の設立時や設立後に、法人の実態である経営者が交代したり、第三者の資本割合が増加して実質的経営権が移転したり、別会社との経営合併があったときは、賃借人の同一性は失われたものとして、賃借人の背信的行為に該当し、賃貸人は、契約解除ができるとした裁判例がある(【参照判例③】参照)。
 背信的行為に当たるか否かは、賃借人個人と賃借物を使用収益している法人との同一性や、使用状況の変更の有無、違反性の軽重、法人使用の動機等が総合的に判断されていると言える。
 賃貸の媒介業者及び管理業者は個人契約の賃貸借の賃借人が法人化したときは、当初の賃貸借契約を合意解除し、法人を賃借人とする新たな契約を締結するか、当事者変更の契約を締結する2通りの方法があり、明確化しておくことにより、後日の紛争を防止することになるであろう。

参照条文

 民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

参照判例①

 最高裁昭和28年9月25日 民集第7巻9号979頁(要旨)
 民法第612条は、賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、賃借人は賃貸人の承諾がなければ第三者に賃借権を譲渡し又は転貸することを得ないものとすると同時に、賃借人はもし賃貸人の承諾なくして第三者をして賃借物の使用収益を為さしめたときは、賃貸借関係を継続するに堪えない背信的所為があったものとして、賃貸人において一方的に賃貸借関係を終止せしめうることを規定したものと解すべきである。
 したがって、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同上の解除権は発生しないものと解するを相当とする。

参照判例②

 最高裁昭和39年11月19日 判タ170号122頁(要旨)
 個人である賃借人が本件賃借家屋を個人企業と実質を同じくする会社に使用させたからといって、賃貸人との間の信頼関係を破るものとはいえないから、背信行為と認めるに足りない特段の事情あるものとして、賃貸人らが主張するような民法第612条第2項による解除権は発生しないとした原審の判断は正当である。
 (同様に、土地賃貸借の個人企業の賃借人が、実質を同じくする会社に使用させたからといって、背信行為と認めるに足りない特段の事情あるものとして、賃貸人の解除を認めなかった判例=最高裁昭和43年9月17日 判タ227号142頁)。

参照判例③

 福岡高裁昭和49年9月30日 判タ320号188頁(要旨)
 当初の賃借人が右会社に対し全くその支配権を及ぼし得なくなった時点において、新たに賃借権の譲渡ないし転貸と目すべき会社経営権の異動について、改めて賃貸人の了解を得られない場合は、賃借権の無断譲渡ないし転貸といわざるを得ない。

監修者のコメント

 賃借権の無断譲渡又は賃借物の無断転貸について貸主からの解除権を制限する理論として判例上確立している理論が、「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」であり、この特段の事情があるときは、契約の解除権が発生しないというものである。この事情がある場合としては、次の形態があげられる。
 賃借不動産で個人営業していた賃借人が、税金対策等のため、これを企業組織にしたため、形式的には法人格が変化したが、会社の実権はすべて賃借人が掌握し、実態も従前と変わっていない場合。
 譲渡や転貸の当事者が親族間などの特殊な関係にあり、営利性もない場合。
 義務違反が軽く、かつ営利性も弱い場合、たとえば譲渡や転貸の期間が一時的であるとか、その対象が賃借不動産のごく小部分である場合。
 いずれにせよ、契約解除が認められるか否かは、譲渡や転貸の規模、動機、利用状態の変化、中間的利益の存否、その額、元の賃借権設定の目的等諸般の事情を総合して判断しなければならない。

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