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掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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1702-R-0169
媒介業者は、賃借希望者の信用情報等を調査する義務があるか

 当社は賃貸の媒介業者であるが、アパートの入居を媒介した賃借人が家賃を滞納している。賃貸借契約前に賃借人から取得した入居申込書には、勤務先と年収に事実と異なる虚偽の記載がしてあり、このままでは家賃支払の見込みもない。賃貸人は、賃貸依頼を受けている媒介業者は賃借人の信用調査等をする義務があり、もし損害が発生するようであれば、当社に請求すると主張している。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。6か月前、当社が賃貸人より媒介の依頼を受けているアパートに賃借人を紹介して、賃貸借契約を締結したが、このたび、賃貸人から賃借人が家賃を3か月間も滞納しているとの連絡があった。賃貸人の話では、当社が賃借人から取得した入居申込書に記載されていた勤務先には、賃借人は過去に勤めてはいたが入居申込時には既に退職しており、実際は無職で収入は雇用保険の失業給付金のみという、勤務先も年収も虚偽の記載をしてあった。
 賃貸人は、媒介業者に賃借人のあっせんを依頼した以上、媒介業者が、賃借希望者から取得した入居申込書に記載された事項の真偽を調査する義務があり、もし、家賃滞納が続いて賃貸借契約が解除となる事態になり、賃貸人が損害を被ったときは、媒介業者である当社に損害賠償を請求すると言っている。
 当社は、賃借人となった賃借希望者から入居申込書を取得して賃貸人に提示したが、賃貸人からは、特に賃借人の身元や勤務先についての質問等はなかった。

質 問

 媒介業者は、賃貸借の媒介をする上で、賃借希望者の身元や職業等の属性、信用に関する事項について調査し、賃貸人に報告する義務はあるのか。

回 答

1.  結 論
 媒介業者は、原則として、賃借希望者の身元や職業等を調査する必要はなく、賃借希望者の申し出た事項を賃貸人に伝えれば足りるが、プロとしての善管注意義務を負うので、賃借希望者が申し出た事項に不審な点や正常な賃貸借関係を築けないような事情があれば、独自で調査して、依頼者に注意を促すなどが必要と考える。
2.  理 由
 賃貸借契約は、賃貸人にとって賃借人との継続的な契約であり、長期間にわたることも多い。それゆえ、賃貸人にとって、賃借人の属性は重大な関心事である。特に、家賃滞納のおそれがなく家賃を継続的に支払うことができるか、賃借建物を大事に使用してもらえるか、他の入居者とトラブルなく生活できるか等々は、賃貸人が不動産賃貸業を安定的に営むうえで、非常に重要な要素である。
 媒介業者は賃借人のあっせんに際し、賃貸人が賃貸借契約を締結するか否かの判断材料となる入居申込書を賃貸人に提示する。この入居申込書は、賃借希望者により、契約当事者の住所・氏名・年齢、入居予定者及び人数、勤務先・年収、保証人の住所氏名・年収等の必要事項が記入済みのものである。賃貸媒介業者は、入居申込書の裏付けとして、住民票や勤務先の従業者証(自営業では、商業謄本等)、源泉徴収票(同、納税証明書等)を取得している場合も多いようだが、必ずしも証明書類を取得しているとは限らない。
 本相談のように、賃借希望者が入居申込書に虚偽の事項を記載する恐れもあるが、賃貸の媒介業者には、入居申込書に記載された事項をどの範囲まで調査・確認する義務があるのか。
 媒介業者には、賃借希望者のプライバシー保護が求められていたり、調査権限に制約があったりするので、調査できる範囲や内容には、限界がある。媒介業者の調査義務に関して、判例では、「賃借希望者自らの申し出た身元、職業等の事項を委任者である賃貸人に伝えるをもって足り、―(中略)- (媒介業者が)独自に調査し、賃貸人に報告する義務はない」としている(【参照判例】参照)。
 しかし、不動産取引のプロである宅建業者は、善良な管理者の注意をもって当事者間の媒介業務を行うことが義務付けられており(民法第644条)、また、取引の関係者に対して、信義誠実に業務を行うことが求められている(宅地建物取引業法第31条第1項)。よって、賃貸の媒介に際し、宅建業者は、賃借希望者の申し出事項に疑問があったり、賃借人の入居後に居住する上でのトラブルが予想されたりするようなことがあれば、媒介業者自らが調査して、賃貸人にその結果を報告する、あるいは、トラブル等が予想される旨を媒介業者が賃貸人に伝えて注意を促す義務がある(【参照判例】参照)。
 なお、賃借希望者等から取得するプライバシーに関する情報の取り扱いについては、細心の注意をはらう必要がある(同法第45条)。賃貸人に賃借希望者との賃貸借契約を締結するか否かの判断を求める場合(いわゆる賃貸人の入居審査)には、賃借希望者に対し、賃貸人の入居審査のために入居申込書の内容を賃貸人に伝えることの了解を求める必要があり、賃貸借契約不成立で不要になった入居申込書は、速やかに処分することが望まれる。

参照条文

 民法第644条(受任者の注意義務)
 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
 宅地建物取引業法第31条(宅地建物取引業者の業務処理の原則)
 宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。
   宅地建物取引業者は、第50条の二第1項に規定する取引一任代理等を行うに当たつては、投機的取引の抑制が図られるよう配慮しなければならない。
 同法第45条(秘密を守る義務)
 宅地建物取引業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅地建物取引業を営まなくなつた後であつても、また同様とする。

参照判例

 東京地裁昭和56年7月15日 判タ455号123頁(要旨)
 賃借希望者の身元、職業等の調査報告義務について考えるに、不動産賃貸の仲介者は、原則として賃借希望者自らの申し出た身元、職業等の事項を委任者である賃貸人に伝えるをもって足り、右以上に右項目につき独自に調査し、賃貸人に報告する義務はないものと解され、このことは仲介者が宅地建物取引業法の適用を受ける仲介業者であっても同様であるが、仲介者は善良なる管理者の注意をもって当事者間の媒介をする義務を負うものであるから(民法644条)、仲介業者としての通常の注意を払うことにより賃借希望者の申し出た事項に疑問があり、ひいては正常な賃貸借関係の形成を望み得ない事情の存することが窺われる場合には、その点につき適当な方法で自ら調査し、又は、その旨を委任者である賃貸人に伝えて注意を促す義務があるものと解すべきである。

監修者のコメント

 回答の東京地裁の裁判例は、ビル賃貸における賃借希望者の身元、職業に関する仲介業者の調査義務に関する数少ない裁判例であるが、事案は普通の人間が借りに来たが、結局は過激派のアジトに使用され、バリケードなどに起因して、ビルの賃料収入が激減したというものである。同判決は、結論的には仲介業者の注意義務違反はなかったとしているが、判決中に、賃借希望者の申し出た事項その他に疑わしい事情がない限り、調査義務はない、とするものであり、どのような場合でも、身元、職業、信用等についての調査義務はないとしているのではない。
 しかし、質問のケースのようなトラブルは、しばしば生ずるので、賃借希望者の入居申込書の記載事項について、社員証、源泉徴収票等によって確認することが望ましい。これらの確認は、正当な理由があるので、プライバシーの侵害にはならない。

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