公益財団法人不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター) > 不動産相談 > 売買 > 売却する建物にぼや程度の火災があった場合の売主の告知義務及び媒介業者の説明責任の有無

不動産相談

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~16:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

== 更に詳しい相談を希望される方は、当センター認定の全国の資格保有者へ ==

不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

売買事例 1612-B-0223
売却する建物にぼや程度の火災があった場合の売主の告知義務及び媒介業者の説明責任の有無

 売却した建物で、過去に小規模な火災があったことが、引渡後に判明した。売主は売買契約時に火災のあったことを買主に告知しなかったが、小規模な火災は、建物の瑕疵になるのか。また、その旨を買主に説明しなかった媒介業者が、責任を問われることはあるか。

事実関係

 当社は不動産売買の媒介業者である。土地建物の売買契約で、売主から買主へ物件を引渡した後に、買主が建物の外壁の一部が煤けているのを発見し、当社に対して連絡があった。当社が当該建物の外観を目視したところ、台所付近の外壁にわずかであるが煤けている部分があった。
 当社が売主に確認したところ、2年前に売主の奥さんが台所で調理中に不注意でぼや(小火災)を出し、天井から窓にかけて炎が広がった。すぐに消防へ連絡したが、消防車の到着前に自宅の消火器で消し止めたため、大事には至らなかった。火災後、売主は、天井及び天井裏の炭化した部分のリフォーム工事を行い、その後は雨漏りすることもなく、住宅としての不都合もなかった。そのため、売買契約の際にあえて告知はしなかった、との回答を得た。

質 問

1.  売買契約において、ぼやを起こした建物は、修理やリフォームをしたことで住宅としての性能に支障がなければ、売主は、買主に告知する必要はないか。
2.  仲介業者である当社は、売買対象の建物で過去にぼやがあったことを売主から聞かされておらず、その事実を知り得ない以上、当然に調査・説明をする必要はなく、買主に対して責任はないと考えてよいか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 売主は、たとえ住宅の性能に支障がないとしても、ぼやがあった事実について告知する必要がある。告知しなかった場合、住宅の隠れたる瑕疵(心理的瑕疵を含む)にあたるとされることがあれば、売主は買主に対して損害賠償責任を負うことがある。
 質問2.について ― 売主が媒介業者に火災のあったことを告知していない場合には、原則的に媒介業者の説明責任はない。しかし、媒介業者が火災のあった事実を容易に知り得る場合は、媒介業者の調査・説明義務違反が問われることがある。
2.  理 由
について
 売買取引における対象建物で過去にぼやがあり、その焼損部分をリフォーム等の修理をしたことで、物理的に耐久性や安全性に問題がなかったとしても、火災による損傷を受けている場合、通常の経年変化を超える損傷があるものと考えられ、買主が売主からそのことを知らされてなければ、隠れたる瑕疵にあたると解されている。
 また、火災が起きてすぐに消防に連絡したが、消防が消火活動をする前に売主家族が火を消し止めたとしても、たとえぼやであっても火災があったという事実は近隣にも公知の事柄であり、買主の購入の意思判断を左右するものでもある。もし、買主がぼやのことを知っていれば、購入しない、あるいは取引金額の減額を求めたかもしれない。
 建物の客観的交換価値は、物理的な価値のみによって構成されるものではなく、買い手の側の購買意欲を増進し又は減退させる、物理的価値以外の建物に係る事情によっても左右されると考えられている。
 火災があったという事実及び損傷が隠れたる瑕疵にあたるときは、売主は買主に対して損害賠償責任を負うことになる(民法第570条、【参照判例】参照)。
について
 売買の依頼を受けた住宅にぼやがあったことは、必ずしも周知の事実とはいえず、たとえば建物の内部のみで火を消し止め、きれいにリフォームして火災の痕跡がなくなってしまっていたりすると、一見しただけではわからず、売主が媒介業者に告知しない限り、媒介業者は火災のあったことを知り得ず、よって媒介業者の説明責任はないといえる。しかし、建物の外観など、一目で火災があったことが認識できるときは、媒介業者は売主に火災の有無を確認する必要がある。もし、火災の事実を確認した場合は、更に、建物の性能や状態を調査したうえで、火災の建物への影響等について、買主に重要事項として説明しなければならない。
 媒介を依頼された媒介業者は、売主から提供された情報のみに頼るだけではなく、土地建物の媒介物件であれば、建物の外観・内部、土地の境界や越境の有無、周辺の状況(近隣関係や事件・事故等含め)について、通常の注意を払えば認識することができる範囲で、物件の瑕疵等の有無を調査してその情報を買主に説明する善管注意義務等がある(民法第644・656条、宅地建物取引業法第31・47条)。
 相談ケースのように、外壁の一部が煤けているようなときは、媒介業者は、当該建物の失火や近隣からのもらい火等を予見することができるため、事実関係について確認する必要がある。
 不動産取引のプロである宅建業者に求められる善管注意義務は、その専門性ゆえに、高度な注意義務が要求されると解されている。
 媒介業者は、調査すれば容易に瑕疵等が判明することを調査及び説明しなかったときは、債務不履行(調査説明義務違反)により取引の相手方に対して損害を賠償しなければならない場合がある(民法第415条、【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
 同法第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
  ・③ (略)
 同法第570条(売主の瑕疵担保責任)
 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
 同法第644条(受任者の注意義務)
 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
 同法第656条(準委任)
 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
 宅地建物取引業法第31条(宅地建物取引業者の業務処理の原則)
 宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。
   (略)
 同法第47条(業務に関する禁止事項)
 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為。
~ハ (略)
 イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
・三 (略)

参照判例

 東京地裁平成16年4月23日 判時1866号65頁(要旨)
 売買の目的建物が火災に遭ったことがあり、これにより損傷を受けているということは、通常の経年変化ではなく、その程度が無視し得ないものである場合には、通常の経年変化を超える特別の損傷等があるものとして、建物の瑕疵にあたるということができる。そして、この火災や損傷の事実を買主が知らされていなかった場合には、隠れたる瑕疵にあたることになる。
 建物の客観的交換価値は、物理的な価値のみによって構成されるものではなく、買い手の側の購買意欲を増進し又は減退させる物理的価値以外の建物に係る事情によっても左右されるというのが相当である。
 本件損傷等は、通常の経年変化を超える無視し得ない特別の損傷等であって、本件建物の瑕疵にあたるということができる。
 売主と買主の双方から仲介を依頼された仲介業者は、売主の提供する情報のみに頼ることなく、自ら通常の注意を尽くせば仲介物件の外観(建物内部を含む。)から認識することができる範囲で、物件の瑕疵の有無を調査して、その情報を買主に提供すべき契約上の義務を負うと解すべきである。

監修者のコメント

 住宅が過去に火災に遭ったという事実についての忌避感は、人によってかなり異なると思われるが、一般的には、やはり縁起が悪いという意味で、当該住宅には心理的瑕疵があると言えるであろう。回答に引用された裁判例の判決も、たとえボヤであって、しかもその後修補されていたとしても買い手の購買意欲を減退させるとみて、瑕疵を認めている。もっとも、当該物件は、土地住宅合わせて2,980万円の代金であったが、買主は火災による価値の減少を400万円として、413万円余の損害賠償を請求したのに対し、裁判所は60万円と認定し、売主と仲介業者連帯して60万円の損害賠償の支払いを命じた。心理的な影響による住宅価値の減少としては、殺人、自殺、暴力団事務所等の他の心理的瑕疵に比べて、一般的には少ないといえるであろう。

より詳しく学ぶための関連リンク

“スコア”テキスト丸ごと公開! 「瑕疵担保責任(瑕疵担保責任の期間と内容)」
“スコア”テキスト丸ごと公開!「心理的瑕疵」

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~16:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

更に詳しい相談を希望される方は、
当センター認定の全国の資格保有者へ

不動産のプロフェッショナル

過去の事例(年別)

  • 賃貸
  • 売買

ページトップへ

single