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賃貸事例 1610-R-0165
賃貸借契約時の重要事項説明に使用する、登記事項証明書について

 当社は賃貸媒介業者兼管理業者であるが、賃貸借契約の重要事項説明に記載する登記事項については、1か月前に取得した登記事項証明書を使用しても問題ないか。

事実関係

 当社は、賃貸媒介業者兼管理業者である。賃貸借契約の媒介をするときは、登記所で登記事項証明書を取得して、その内容を確認した上で重要事項説明書を作成している。賃貸人から複数の貸室がある新築アパートの賃貸媒介を依頼された時も、契約が決まった貸室から順次賃貸契約をするため、当初取得した登記事項証明書を後日の契約の際にも利用しており、契約の都度、登記事項証明書の取得はしていない。登記事項証明書の発行後、概ね1か月を経過したら、再取得して新しいものに更新するようにしている。

質 問

 複数の貸室がある新築アパートで、最初の貸室の賃貸借契約時に取得した登記事項証明書を、時間が経ってからその他の貸室の契約をする際に使ってもいいか。賃貸借契約をする際の登記事項証明書の取得のタイミングは、いつ頃がいいのか。登記事項証明書の取得時期と賃借人に重要事項を説明するときとの期間があいた場合、どのような問題が起こることが想定されるか。

回 答

1.  結 論
 媒介業者は、売買契約はもちろん賃貸借契約でも、重要事項説明にあたっては、直近の登記事項を確認した上で説明しなければならない。そのためには、契約時には最新の登記事項証明書を取得しておく必要がある。
 登記事項証明書の取得から時期が経過していた場合に、その間に所有権者の変更や所有権以外の抵当権等の登記がされると、その後の賃借人の賃借利用が阻害されるおそれがある。
2.  理 由
 宅建業者には、購入者や賃借人の利益の保護と、宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることが求められており(宅地建物取引業法第1条)、準委任とされる媒介業務では、受任者である媒介業者は、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負っている(民法第644条、同法第656条)。また、重要事項説明にあたっては、登記事項の内容はかならず購入者や賃借人に説明しなければならない(宅地建物取引業法第35条)。
 不動産の権利関係が、時の経過とともに媒介業者の知らないうちに変動することは十分考えられることである。所有名義人が変わっているのにもかかわらず、登記内容を再調査しないで以前に取得した内容のまま重要事項を説明すると、契約の当事者が異なるなど権利関係で齟齬が生まれ、契約の当事者間にトラブルを引き起こすことになりかねない。
 賃貸借契約で、建物の所有者名義と貸主が異なることは、時々ある。それは、賃貸人が所有者の代理または転貸(サブリース含む)だったり、相続に伴う名義変更の未了だったりだが、所有権の登記名義人と賃貸人が同一人でない場合は、賃借人が当該物件を賃借できる権限を確認したうえで、説明しておく必要がある。
 また、当初取得した登記事項証明書には抵当権の設定登記がなされていなかったが、賃借人が賃貸契約をするまでの間に抵当権が設定された場合、もし、抵当権が実行され競売になった時には、競落人は6か月後までに賃借人に対して退去を求めることができ、その時は、賃借人が抵当権の設定について契約時に知っていたかどうかにかかわらず、退去せざるを得なくなる(民法第395条)。
 一方、賃貸借契約後に抵当権が設定された場合は、競落によって賃貸人が替わっても、賃借人は居住が継続でき、新所有者から退去を要求されることはない。抵当権設定の有無や設定時期は、賃借人の居住権に大きな影響を与えるということを媒介業者としては肝に銘じておきたい。
 このように、契約後に不測の事態も起こり得るので、媒介業者は、登記事項に担保権や差押、仮登記等の設定の有無の確認と、登記内容の調査義務があるといえる。媒介業者は、所有権等の帰属や登記内容を調査して賃借人に説明する義務があり、契約時に既に賃借物件に抵当権が設定されていた場合は、競落によって賃借人は退去しなければいけない可能性があることを、重要事項として当然説明しておかなければならない。もし、調査不足により賃借人に損害を与えた時は、損害賠償責任を負うこともあり(民法第709条、【参照判例①】、【参照判例②】)、宅建業者の行政処分の対象ともなりうる。
 実務としては、登記事項の調査・確認は、契約の直前(前日、または当日の朝)にすることが必要である。かつては登記所で調査するしかなかったが、現在ではインターネットによる「登記情報提供サービス(一般財団法人 民事法務協会が運営)」で登記情報の取得、確認ができるようになっているのでぜひ活用したい。

参照条文

 民法第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
 (略)
 同法第644条(受任者の注意義務)
 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
 同法第656条(準委任)
 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 宅地建物取引業法第1条(目的)
 この法律は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする。
 同法第35条(重要事項の説明等)
 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
 当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあつては、その名称)
 (以下略)

参照判例①

 東京地裁昭和59年2月24日判時1131号115頁(要旨)
 建物賃貸借の仲介斡旋をする場合、不動産仲介業者は、客が損害を被らないよう、善良な管理者の注意で当該建物の所有権の帰属を調査し、これを客に報告すべき義務を負っているとみるべきである。

参照判例②

 東京地裁昭和57年4月21日判時1047号119頁(要旨)
 不動産仲介業者は、不動産仲介の委託を受付け、報酬を得て仲介行為をするのであるから、委託の趣旨に則って委託者に不測の損害を与えないように、しかも完全に履行がなされるように努力する義務があるものと解する。

監修者のコメント

 弁護士が契約の立会人になる場合は、売買でも賃貸借でも契約直前の登記記録を見る必要があると言われている。所有者の何らかの動きを察知した債権者が仮差押や処分禁止の仮処分を申請し、その登記がなされることがあるからである。その登記がなされた後の売買や賃貸借の契約は、債権者に対抗できない。
 このことは、不動産の媒介をする宅建業者も同じである。店舗の賃貸借を仲介した宅建業者がその物件の登記簿を見なかったため、その前からある競売開始決定による差押登記を知らずに成約させ、裁判所から引渡命令を受け、明渡した賃借人が仲介業者に損害賠償請求を行い、これが認められたという事例はかなりある。
 売買はもちろん賃貸借の仲介業者が、登記記録を見ないで、または見ても見落として仲介をした場合の調査義務違反は抗弁の余地がない。
 現在では、回答にあるとおり、登記所に行かなくても容易に調べることができるので、午後の契約では午前中に、午前の契約では前日の午後に登記記録を見る慎重さが必要である。

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