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賃貸事例 1608-R-0163
賃借人の死亡に伴う建物賃貸借契約の行方

 建物賃貸借契約の賃借人が死亡したが、賃借人には相続人がおらず、本物件には内縁の妻が同居していた。賃借人の死亡後、賃貸借契約はどの様になるのか。

事実関係

 当社は、賃貸媒介業者兼管理業者であるが、当社が管理している賃貸マンションの賃貸人から、賃借人が1週間前に亡くなったとの連絡を受けた。
 賃貸人によると、賃借人は病気のため2か月入院していたが、入院期間を含め3か月分の家賃を滞納し、現在も未払いのままとなっているとのこと。当社はこのマンションの管理については家賃収納代行をしていないため、賃料未納があったことは賃貸人からこの時初めて聞かされた。家族は同居していた内縁の妻だけで、賃貸人によるとこの賃借人には親族はおらず、遺言書もないため、相続人はいないようだ。そのため、賃貸人から未払い賃料の回収と今後の賃貸借契約について相談されている。

質 問

1.  賃借人が死亡したときは、賃借人の賃貸借契約は誰が引き継ぐのか。今回のケースのように相続人はいないが内縁の妻が同居していた場合は、どうなるのか。
2.  賃借人の死亡前後3か月の賃料滞納について、今回のように相続人がいないときは誰が支払うのか。内縁の妻に請求することはできるのか。また、賃貸人は賃借人の死亡及び賃料未払いを理由に退去を求めることができるか。
3.  もし、本事例で賃借人に相続人がいたとしたら、賃借権を相続できる相続人により、内縁の妻を退去させることはできるか。

回 答

 質問1.について ― 賃借人に相続が発生したときの賃借権は、被相続人の財産に属し、他の財産とともに相続人に継承される(民法第896条参照)。相続人が明らかでないときには、相続財産は、家庭裁判所の相続財産管理人の選任を経て(同法第951条参照)、所定の手続きに従い(同法第952条、同法第958条参照)、特別縁故者に分与されるか(同法第958条の3参照)、国庫に帰属する(同法第959条参照)。なお、遺言があるときはそれに従う(同法第964条参照)。
 今回のケースのように、賃借人に相続人がなく内縁の妻が同居していた場合は、契約を承継することができるが、賃借人の死亡を知った後1か月以内の意思表示をすることにより、その者が賃貸借を承継しないという選択をすることも可能である(借地借家法第36条第1項)。
 なお、貸主から無償で住宅等を使用してする使用貸借の場合は、それを使用していた借主の死亡により使用貸借は終了する(民法第599条参照)。
 質問2.について ― 建物賃貸借契約をしていた賃借人の、死亡前後3か月の未払賃料など生前の債務と死亡後の賃料については、今回のケースのように相続人不在で、内縁の妻が賃貸借を承継した場合は、生前及び相続後の債務は当然に内縁の妻が支払義務を負う(借地借家法第36条第2項)。賃貸人は、居住を継続する内縁の妻に対し催告して滞納賃料を回収できれば、新賃借人との信頼関係の破壊に至ったとまでは言えないであろう。賃借人の入院、死亡という事情もあり、債務不履行があったというだけで、賃貸人からの即時解約を要求するのは難しいと考える。もし、内縁の妻が賃貸借契約を承継しないという選択をした場合は、3か月分の賃料は、未収のままになる。
 なお、複数相続人がいる場合は、未払賃料など生前の債務については、相続人全員が、その相続分に応じて共同で承継する(民法第896条、同法第898条参照)。つまり相続人の各法定相続分に応じての支払義務が生じる。しかし、相続発生後の賃料については、生前の債務の承継とは異なる。遺言がなく賃借人が死亡した場合、賃貸借契約は他の遺産と同様に、遺産分割協議により賃貸借契約を相続する者が決まるまでの間、共同相続人が、相続分に応じて承継する(民法第899条参照)。賃料そのものは金銭債務であり、分割可能であるが、賃貸借の共同賃借人はそれぞれ1つの賃借物の全部を使用するという不可分な債務であり、賃料については、相続人全員が連帯して支払う義務を負い、賃貸人は共同相続人の1人に対し、賃料全額の支払いを請求することができる。(民法第430条、同法第432条、同法第434条参照)。
 質問3.について ― 前出の通り借地借家法第36条では、死亡の賃借人に相続人がいない場合の内縁の妻の権利を保護しているが、相続人がいるときの内縁の妻の権利は規定されていない。家屋の所有権の相続人が、死亡した被相続人と同居していた内縁の妻に家屋の明渡請求した裁判において、内縁の妻には居住権はないとしながらも、明渡請求は相続人の権利濫用とし、明渡請求を否定したものがある(【参照判例①】参照)。しかし、相続人に正当理由があり、相続人がその家屋に居住する必要があれば、居住権のない内縁の妻等は退去せざるを得ない場合があり、必ずしも居住することが保護されているとは言い難く、内縁の妻の居住する権利は不安定である。
 また、賃借権を相続した相続人がいる場合、賃借人死亡により賃貸人から内縁の妻への退去要求は認められるかどうかだが、裁判例では、相続人の賃借権を援用することで内縁の妻の居住する権利を認めている(【参照判例②】参照)。
 これらの裁判例から考えると、亡くなった賃借人と同居していた内縁の妻の居住する権利は認められるのが裁判例の傾向である。

参照条文

 民法第430条(不可分債務)
 前条の規定及び次款(連帯債務)の規定(第434条から第440条までの規定を除く。)は、数人が不可分債務を負担する場合について準用する。
 同法第432条(履行の請求)
 数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
 同法第434条(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
 連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。
 同法第599条(借主の死亡による使用貸借の終了)
 使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。
 同法第896条(相続の一般的効力)
 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
 同法第898条(共同相続の効力)
 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
 同法第899条(共同相続の効力)
 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
 同法第951条(相続財産法人の成立)
 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
 同法第952条(相続財産の管理人の選任)
 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
 同法第958条(相続人の捜索の公告)
 前条第一項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。
 同法第958条の2(権利を主張する者がない場合)
 前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
 同法第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
 同法第959条(残余財産の国庫への帰属)
 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。
 同法第964条(包括遺贈及び特定遺贈)
 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。
 借地借家法第36条(居住用建物の賃貸借の承継)
 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。

参照判例①

 最判昭和39年10月13日判時393号29頁(要旨)
 内縁の寡婦に居住権はないが、諸事情のもとにおいては、相続人の家屋明渡請求は権利濫用にあたり許されない。

参照判例②

 最判昭和42年2月21日民集21巻1号155頁(要旨)
 家屋賃借人の内縁の妻は、賃借人が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができるが、相続人とともに共同賃借人となるものではない。

監修者のコメント

 正式な婚姻関係にない妻すなわち「内縁の妻」について、借家関係において、回答のとおり、一定の保護が図られているが、次の2点に注意されたい。
 その保護の対象となるのは、婚姻届は出していないが、建物の賃借人と事実上夫婦と同様の関係にあった同居者であって、愛人関係にあり、時々泊まることがあるとか、最近同棲を始めたという程度では、これに該当しないこと
 保護されるのは、あくまでも「居住の用に供する建物の賃借人が死亡した場合で、「業務用建物」はこれに当たらず、また「借地契約」では、このような特別な規定は設けられていないこと
である。

より詳しく学ぶための関連リンク

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