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売買事例 1606-R-0161
賃貸の客付業者が共同仲介者とならないことの是非

 賃貸の借主に対し、物件紹介・内見から条件交渉等の媒介行為をしたにも関わらず、元付業者の都合により客付業者が重要事項説明書など賃貸借契約に関与しないことができるか。また、関与しない場合でも報酬は受領できるか。

事実関係

 当社は、賃貸借契約の借主側の媒介業者(客付業者)である。貸主側媒介業者(元付業者)の媒介物件である賃貸マンションに借主を案内し、貸主の借主入居審査も通り、契約条件も合意した。元付業者と打合せの上契約締結の運びとなったが、元付業者から重要事項説明、契約締結は元付業者が単名で行うので、当社は共同媒介者にならなくていいと言われた。
 元付業者は貸主とは付き合いが古く、当該マンションも含め複数の収益物件を全面的に管理しており、媒介については元付け業者以外の関与を貸主に知られたくないようである。
 また、元付業者は借主からの報酬は当社が直接受領してほしいと言っている。

質 問

1.  元付業者の言に従った場合、当社は媒介業者を外れ、重要事項説明書及び賃貸借契約書に共同媒介者として記名・押印しなくてもいいか。また、当社は元付業者への顧客紹介者の立場となると考えていいか。
2.  報酬として仲介手数料を借主から直接受領していいのか。それとも元付業者が借主から受けとった報酬から当社が顧客紹介料として元付業者から受領したほうがいいのか。
3.  共同仲介とならなかった場合でも、元付業者が作成・交付した重要事項説明書の内容に誤り等があったときは、当社も責任を問われるのか。

回 答

 客付業者である貴社は、正に媒介行為をしているのであり、賃貸借契約においては媒介に関与した全ての宅地建物取引業者は、重要事項説明書の交付(宅地建物取引業法第35条)と賃貸借契約書の交付(同法第37条)が義務付けられている。
 借主は客付業者の媒介行為により契約に至ったのであり、媒介行為の結果として賃貸借契約の締結が行われる。客付業者である宅地建物取引業者が媒介に関与したにもかかわらず、連名にしない又は交付義務のある業務をしないことは宅地建物取引業法の義務違反となる。
 同法の義務違反が発覚した場合は、監督官庁により処分の対象となる。実際に処分された事例がある(後述、処分事例参照)。【監督官庁(某県)による処分事例】〈例1〉は相談事例にある客付業者、〈例2〉は元付業者に対するものである。
 報酬の受領であるが、宅地建物取引業者としての義務を果たしていない(重要事項説明や交付の義務違反)以上、借主から直接の受領はできないと考える。媒介行為は民法での準委任と解釈され、受任事項の履行をしていない限り、報酬を請求することができず(民法648条2項)、受領もできない。
 なお、元付業者から顧客紹介料等の名目で受領するのは可能であろうか。事実行為として、借主又は貸主、元付業者のために行った客付業者の行った行為により、宅地建物取引業者は商人として相当の報酬を請求することは可能である(商法第512条)。ただし、当然ながら宅地建物取引業法の義務違反が解消するわけでない。
 一方、事実関係にあるように元付業者のみで契約締結した場合の客付業者の責任については、契約の成約に向け物件紹介・内見から条件交渉など媒介行為を行っており、客付業者の重要事項説明や契約条項などを要因とするトラブルが起きた場合、貴社も責任を迫られることになろう。
 いずれにしても事実関係にあるようなケースの際は、元付業者の理解を求め、関与した宅地建物取引業者は共同仲介者として法律上に定められた責任を果たさなければならない。

参照条文

 宅地建物取引業法第35条(重要事項の説明等)
 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第5号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。(後略)
 宅地建物取引業法第37条(書面の交付)
 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。(後略)
 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の貸借に関し、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
(後略)
 宅地建物取引業者は、前2項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名押印させなければならない。
 民法656条(準委任)
 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
 民法644条(受任者の注意義務)
 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
 商法第512条(報酬請求権)
 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
 民法648条(受任者の報酬)
 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。
 委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。

監督官庁(某県)による処分事例

〈例1〉※借主からの報告により発覚
1  被処分者は、平成25年2月12日付けで締結された建物賃貸借契約において、賃借人の媒介業者として取引に関与したが、その一切の業務を、賃貸人から媒介の依頼を受けた宅建業者に任せ、その結果、本件取引に係る重要事項説明書の交付義務及び法第37条に基づく書面の交付義務の履行を怠った。これは、法第35条第1項及び法第37条第2項に違反する。
2  本件賃貸借に係る契約が成立するまでの間に、供託所等に関する説明を行わなかった。これは、法第35条の2に違反する。
〈例2〉※行政による立入検査により発覚
1  重要事項説明書不交付について
 被処分者は、重要事項説明書に自らの商号、所在地、免許番号等を記載せず、借主に対し、交付主体を明らかにせずに、共同で媒介を行った他の宅地建物取引業者をして重要事項説明書を交付させた。これは、重要事項説明書不交付に該当し、法第35条第1項に違反する。
2  供託所等に関する説明不履行について
 被処分者は、貸借の契約が成立するまでの間に、当該業者が保証協会の社員である旨、当該協会の名称等及び供託所等について説明しなかった。これは、法第35条の2に違反する。
3  法第37条書面の不交付について
 被処分者は、賃貸借契約書に自らの商号、所在地、免許番号等を記載せず、借主及び貸主の間で賃貸借契約を締結させた。これは、契約の各当事者に対し、当該契約の対象となる建物の表示や借賃の額及び支払い時期等を記載した書面の交付を義務付けた法第37条第2項に違反する。

監修者のコメント

 借主に対し、物件紹介、内見、条件交渉等の行為をしたのは、借主との媒介契約があることを前提としての契約の履行行為である。その媒介契約は、委任者である借主から受任者である業者に対する信頼の上に成り立っている。したがって、質問に対する答えは、回答のとおりであって付け加えることはない。ただ、重要事項説明、契約書面の交付の前の段階で、借主との媒介契約を合意解約し、その後は元付業者の双方媒介の型式をとることは可能と思われる。ただ、そのためには、借主の了解が必要であり、また借主から報酬を受領することができないのは当然である。

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