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賃貸事例 1606-R-0160掲載日:2016年6月
法定更新後の期間の定めがない契約における借主からの解約申入れ
賃貸マンションの契約更新でトラブルがあり、合意による更新ができない。このような場合、契約は法定更新されることになると思うがどうか。法定更新されるということは、契約期間の定めがない契約として更新されることだと思うが、そのような理解でよいか。法定更新後、借主から契約を解約する場合には、民法第617条の規定に基づいて3か月前の予告が必要になると思うが、そのような理解でよいか。このようなトラブルの解決に向けて、何か良い方法はあるか。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者兼管理業者であるが、先日来、賃貸マンションの貸主と借主との間で更新を巡るトラブルがあり、貸主は借主が賃料の値上げに応じなければ更新しないと言い、借主は賃料の値上げには応じられないと言う。このようなことではいつまで経っても更新の契約書がつくれない。ついては、当社の今後の対応の参考にするために、更新についての基本的な問題について確認をしたい。
質 問
1. | 貸主は、借主が賃貸借契約締結時に約束していた賃料の値上げに応じないので、更新をしないと言っているが、このような契約時の言った、言わないのトラブルの場合でも話し合いが付かなければ、契約は法定更新されると思うが、どうか。 | |
2. | 法定更新されるということは、契約の期間の定めがないものとして更新されることだと思うが、そのとおりの理解でよいか。 | |
3. | そのとおりの理解でよいとした場合、法定更新された場合には、契約の期間が定めのないものになるので、借主から契約を解約するには、民法第617条第1項の規定に基づいて、貸主に対し3か月前に予告をしなければならなくなると思うが、そのような理解でよいか。 | |
4. | 貸主は、借主に対し最後まで約束した賃料の値上げを要求していくと言っているが、その約束事が賃貸借契約書に定められていない以上、法的に認めさせることは難しいと思うが、どうか。何か良い解決方法はあるか。 |
回 答
⑴ | 質問1.について ― そのとおり。法定更新されると考えて差し支えない(借地借家法第26条第1項本文)。 | |
⑵ | 質問2.について ― 契約の期間については、そのとおりの理解でよい(借地借家法第26条第1項ただし書き)。 | |
⑶ | 質問3.について ― 更新前の賃貸借契約に、借主の解約権が留保されていれば(たとえば、借主からの解約申し入れは1か月前の予告を必要とするとか、2か月前の予告を必要とするといった定め(特約)があれば)、その定めに従うが、そのような定めがなければ、借主は民法第617条第1項の規定に基づいて3か月前の予告をもって解約の申入れをしなければならないということである。つまり法定更新というのは、従前の契約が、期間の定めだけはないものとして更新されるが、それ以外の定めはすべて同一条件で更新されるということである(借地借家法第26条第1項本文)。 なお、(参考までに、)貸主からの解約申入れは、法定更新後においても、「正当事由」を具備した6か月前の予告を必要とするのであり(借地借家法第27条、第28条)、法定更新になったからといって、正当事由なしに解約ができるようになるものではない。 |
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⑷ | 質問4.について ― 法的な解決方法としては、貸主から調停を申立て、調停が成立しない場合は訴訟事件として手続を進めていくことにより、裁判所に一定の判断をしてもらうことができるが(民事調停法第24条、第24条の2等)、そのためには、現在の賃料が近隣の類似物件に比較して安価であるとか、賃貸借契約の締結に際し当事者がどのような約束事をしたのかについて、貴社が証人に立つなどして協力をしないと、迅速な解決は得られないであろう。 |
参照条文
○ | 民法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約申入れ) | ||
① | 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。 | ||
一 | 土地の賃貸借 1年 | ||
二 | 建物の賃貸借 3箇月 | ||
三 | (略) | ||
○ | 借地借家法第26条(建物賃貸借契約の更新等) | ||
① | 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。 | ||
② | 、③ (略) | ||
○ | 同法第27条(解約による建物賃貸借の終了) | ||
① | 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。 | ||
② | (略) | ||
○ | 同法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) | ||
建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、(中略)、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。 | |||
○ | 民事調停法第24条(宅地建物調停事件・管轄) | ||
宅地又は建物の貸借その他の利用関係の紛争に関する調停事件は、紛争の目的である宅地若しくは建物の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定めるその所在地を管轄する地方裁判所の管轄とする。 | |||
○ | 同法第24条の2(地代借賃増減請求事件の調停の前置) | ||
① | 借地借家法(中略)第11条の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第32条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。 | ||
② | (略) |
監修者のコメント
貸主が更新拒絶をするためには、「正当の事由」がなければならないが、賃料の値上げに応じないというだけでは「正当の事由」にはならない。それが、既に約束した値上げだとしても同じである。それでは、約束など守らなくても良いのかという疑問を持つ向きもあるかも知れないが、そこが借地借家法の多くの規定が強行法規たるゆえんで、たとえば、「○年ごとに○%値上げする」という条項を合意で設けていても、そもそもその条項の有効性が争われるのである。また、家賃の減額請求権を排除するという合意も無効である。
質問4.に関して、賃料値上げの約束事が賃貸借契約書に定められていたとしても、当然にその効力が認められるわけではない。