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賃貸事例 1604-R-0157掲載日:2016年4月
建物賃貸借契約における火災保険への強制加入と消費者契約法
当社は賃貸の媒介業者であるが、貸主からの要請で、建物賃貸借契約を締結する場合には、借主に専有部分についての火災保険に加入してもらうことを入居の条件にしている。ついては、その保険への加入を条件にすることは、保険への加入を強制することになるのか。もし強制することになるとした場合、消費者契約法などに抵触することになるか。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者であるが、最近の新しい賃貸マンションの場合には、オーナー(貸主)からの要請もあって、そのほとんどすべての借主に対し、専有部分の火災保険に入るよう勧めている。しかし、借主の中には、「なぜ、そのような保険に入ることを強制するのか。」「建物の火災保険は大家が入るものではないのか。」という異議を唱える者もいて、対応に苦慮することがある。
質 問
当社は、「貸主さんからの要請もあって、すべての借主の方々にお願いしています。」と答えるようにしているが、借主の中には、「保険に入らなければ入居を認めないというのであれば、それは強制ではないか。」と言われることがある。
その場合、当社は、「決して強制ではありません。しかし、保険に加入していただくことが入居の条件です。貸主さんからの要請です。」と答えているが、そのような回答では保険に加入することを強制していることになるのではないだろうか。もし強制しているとすれば、それは消費者契約法などの法令に抵触することになるのではないだろうか。
回 答
1. | 結 論 |
貸主は保険への加入を強制していることになる。しかし、強制といっても、その加入は賃貸借契約上の条件であるから、保険契約の内容が借主にとって不当なものでない限り、消費者契約法などの法令に抵触するというようなことはない。 | |
2. | 理 由 |
賃貸マンションなどの建物賃貸借契約においては、建物本体(躯体、共用部分)の火災保険は貸主(オーナー)が掛けるが、建物内部(専有部分)の壁面や設備についての火災保険は、家財等の損害保険と合わせて借主が掛けるということが多く行われている。 したがって、もし本件のケースもそのような保険の掛け合い(分担加入)であれば、それはむしろ借主にとってもメリットのあることでもあり、貸主側の要請なり契約上の条件が結果的に強制というかたちになったとしても、それは借主に不当な条件を課したものとはいえないので、消費者契約法やその他の法令に抵触するようなことはないと考えられる(消費者契約法第10条)。 なお、建物内部(専有部分)からの失火により、専有部分はもとより、建物本体(共用部分)に火災が及んだ場合には、借主は賃貸借契約上の債務不履行(善管注意義務違反)により、貸主に対しその損害を賠償しなければならず、失火法(失火ノ責任ニ関スル法律)があるからといっても、その責任を免れることができないので、保険を掛け合うことの意味があるといえる。 |
参照条文
○ | 消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) | |
民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 | ||
○ | 失火ノ責任ニ関スル法律 | |
民法第709条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス |
監修者のコメント
賃貸借契約を締結し、借主が入居したのちに保険への加入を強制することは一方的にはできない。契約内容の変更だからである。しかし、入居の条件とすることは、契約自由の範囲内のことであって、その負担がイヤな者は、そのような物件を借りなければよいということだけのことである。たしかに、保険は原則的には建物所有者が入るべきものであるが、特約により現実にその建物を占有する借主に加入を義務づけ、あるいは大家が加入する保険の保険料を借主の負担とすることは、消費者契約法10条の前段には該当するが、後段の民法第1条第2項の基本原則すなわち「信義則」に反するという要件には該当しないであろう。