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賃貸事例 1010-R-0082掲載日:2010年10月
事業用定期借地契約の存続期間中の建物滅失とその後の対応
当社が10年前に媒介した事業用定期借地契約の存続期間中に、建物が火災で焼失した。このような場合、事業用定期借地権はどうなるか。事業の関係で、借主が建物を再築する資金が調達できない場合、借主はどのような対応をとるべきか。
事実関係 | |
当社は不動産コンサルティング技能登録を受けてコンサル業務を行っている宅建業者であるが、先日当社が10年前に媒介した事業用定期借地契約の借主から、その所有する借地上の建物が火災で焼失したために、その後の対応をどうしたらよいかという相談を受けた。 | |
質問 | |
1. | この事業用定期借地権契約の期間は20年であるが、建物が契約期間中に滅失した場合、借地権が消滅するようなことはないか。 | |
2. | 借地権の第三者対抗要件に関する借地借家法第10条の規定によれば、建物が滅失した場合、建物の登記が残っていたとしても、第三者に対抗できないと読めるが、どうか。 | |
3. | 前記2.の場合に、借地人が同条第2項の掲示板を借地上に立てた場合は、事業用定期借地権であっても第三者に対抗できると思うが、どうか。 | |
4. | 借地人は、資金の関係上すぐには建物を建てることはできないので、前記3.の掲示板の代わりに、土地の所有者に事業用定期借地権の登記をしてもらうように頼みたいが、応じてもらえる可能性はあるか。そもそも、不動産登記法上事業用定期借地権の登記というのはできるのか。できるとすれば、どのような登記になるのか。 | |
回答 | ||
1.結論 | ||
(1) | 質問1.について — 建物が滅失しても、当事者間においては、契約期間内は借地権が消滅するようなことはない。 | |
(2) | 質問2.について — そのとおり。建物が滅失した以上、建物の登記が残っていたとしても、借地権を第三者に対抗することはできない。 | |
(3) | 質問3.について — そのとおり。事業用定期借地権であっても、その借地上に法定の条件を満たす掲示板を建てれば、借地権を第三者に対抗することができる。ただし、建物の滅失の日から2年以内に建物を再築し、その登記をしなければ、その2年を経過した日をもって掲示板による第三者対抗力は消滅する。 | |
(4) | 質問4.について — 不動産登記法上事業用定期借地権の登記はできるし、貸主に登記に応じてもらえる可能性がないとはいえない。なお、事業用定期借地権の登記内容は、後記【参照資料】を参照されたい。 | |
2.理由 | ||
(1)について | ||
事業用定期借地契約は、更新のない、「期間を定めた賃貸借契約」である。したがって、当事者間においては、契約期間内は建物の存否に関係なく借地権は存続する。 | ||
(2)について | ||
しかし、借地権の存続期間中に建物が滅失すれば、その建物の登記は実体のない無効な登記となるので、登記簿上に建物の登記が残っていても、その登記は第三者対抗力のないものとなる(借地借家法第10条第1項の反対解釈)。 | ||
(3)について | ||
ただ、建物の滅失により、一時的に第三者対抗力のない借地権になったとしても、その借地人が借地上に法定の条件を満たす掲示板を立てた場合には、その消滅した第三者対抗力がその時点から復活するとされている(借地借家法第10条第2項本文)。この点については、事業用の定期借地権であっても同様である(同法第23条)。 しかし、その掲示板の効力も、建物の滅失があった日からそのまま2年を経過した場合には、その効力がその時点で消滅するとされているので、借地人としては、その2年の間に再度建物を建ててその登記をしなければならない(同法第10条第2項ただし書き)。 |
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(4)について | ||
したがって、借地人が事業の都合上どうしても2年以内に建物を再築することが難しいというのであれば、借地人としては土地の所有者に多少の費用を支払ってでも、事業用定期借地権の登記をお願いするしかない(不動産登記法第3条第8号)。なお、土地の所有者にとっては、もともと事業用の定期借地権は更新がないのであるから、その登記自体を拒む積極的な理由はなく、むしろ土地の所有者に対外的なメリットがあるという側面もあるので、全く登記に応じないということはないであろう。 | ||
参照条文 | ||||
○ 借地借家法第10条(借地権の対抗力等) | ||||
(1) | ||||
借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。 | ||||
(2) | 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たな築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から2年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。 | |||
(3) 、 (4) (略) | ||||
○ 同法第23条(事業用定期借地権等) | ||||
(1) | ||||
専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。次項において同じ。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を30年以上50年未満として借地権を設定する場合においては、第9条及び第16条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第13条の規定による買い取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。 | ||||
(2) | 専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を10年以上30年未満として借地権を設定する場合には、第3条から第8条まで、第13条及び第18条の規定は、適用しない。 | |||
(3) | 前2項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。 | |||
○ 不動産登記法第3条(登記することができる権利等) | ||||
登記は、不動産の表示又は不動産についての次に掲げる権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅をいう。次条第2項及び第105条第1号において同じ。)についてする。 | ||||
一 | 所有権 | |||
二 | 地上権 | |||
三 | 永小作権 | |||
四 | 地役権 | |||
五 | 先取特権 | |||
六 | 質権 | |||
七 | 抵当権 | |||
八 | 賃借権 | |||
九 | 採石権(採石法(昭和25年法律第291号)に規定する採石権をいう。第50条及び第82条において同じ。) | |||
参照資料 | ||||||||||||||||||||
○ 事業用定期借地権の登記(土地登記簿乙区記録例) | ||||||||||||||||||||
(1) | ||||||||||||||||||||
法第23条第2項の事業用定期借地権(期間が10年以上30年未満のケース) | ||||||||||||||||||||
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※ 平成19年12月28日民二第2828号民事局長通達 | ||||||||||||||||||||
(2) | 法第23条第1項の事業用定期借地権(期間が30年以上50年未満のケース) | |||||||||||||||||||
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※ 平成19年12月28日民二第2828号民事局長通達 | ||||||||||||||||||||
監修者のコメント | |
事業用定期借地権については、平成20年1月1日施行の改正により、従来「10年以上20年以下」とされていた契約期間について、事実上「10年以上50年未満」とされ、実質的には上限のないものとなった(50年以上のときは、一般定期借地権で設定できる)。 事業用定期借地権が普通の借地権と異なるところは、契約期間、その更新の問題、契約終了時の建物買取請求権及び建物の再築による契約期間の延長などの規定が適用されないことであって、それ以外の借地借家法の規定は、あくまでも借地権であるから適用がある。質問との関係では、借地権の対抗力(同法第10条)は、そのまま適用がある。 |
より詳しく学ぶための関連リンク
・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「事業用定期借地」