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売買事例 1602-B-0211
重要事項説明における「嫌悪施設」の調査範囲

 当社は、住宅地にある一戸建ての中古住宅の売買の媒介をしたが、最近になって取引した物件の近隣に下水道処理施設の建設が予定されていることが判明した。売買契約の決済・引渡しはこれからだが、売買契約前の重要事項説明では説明していないため、追加の重要事項説明をしようと考えている。このような対応でいいか。

事実関係

 当社は個人所有の一戸建ての媒介をしたが、最近になって同業者から取引物件より約200m先に下水道処理施設の建設が予定されていることを聞いた。行政に確認したところ、既に事業は決定されており、近々、着工されるということである。
 売買契約は締結したが、決済・引渡はこれからである。売買契約の際の調査ではこの件について調べていなかったので、重要事項説明書には当然記載せず、説明もしていない。売主からの告知も特になかった。

質 問

1.  建設予定の下水道処理場は、嫌悪施設として重要事項説明で伝える必要があるか。説明する必要があるとすると、既に契約してしまっているが、買主にはどのように説明すればいいか。
2.  買主がこの事実を知り、物件の瑕疵を主張して契約解除を申し出た場合、契約解除はできるか。
3.  重要な事項として説明すべき嫌悪施設には、どのようなものがあるか。また、取引物件からどのくらい距離が離れていれば、説明しなくてもいいのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 下水道処理施設は、嫌悪施設にあたる。既に契約してしまっているが、宅建業者が説明すべき重要な事項として認識した段階で、追加説明すべきである。
 質問2.について ― 瑕疵を主張しての契約解除は、難しいであろう。
 質問3.について ― 通常、嫌悪施設と言われるものには、生活への重大な支障や心理的に影響を与える様々な施設、たとえばごみ焼却場、鉄道、墓地のようなものが該当する。
2.  理 由
について
 必ずしも、嫌悪施設と考えられるものすべてを重要事項として説明する必要はない。しかし、買主の購入の判断に影響を与えるもの、居住する上で生活に支障がでるおそれや健康に害を及ぼす等の予測ができる施設と思われる場合には、説明する義務がある。
 今回の事例の場合、買主には、契約後ではあるが『その他重要な事項』として、追加の重要事項説明をする必要がある。当該施設はこれから建設予定なので、説明内容としては、施設の着工・竣工時期、規模及び施設概要、近隣への影響の有無、影響がある場合の対策等の調査結果となろう。宅地建物取引業法第35条で規定されている重要事項説明と異なり、同法第47条の重要な事項についての説明は必ずしも文書(重要事項説明書)でなくてもよいが、後日のトラブルを避けるためにも文書(重要事項説明書の追加)で説明し、買主から説明受領の署名捺印を求めておくのが望ましいであろう。
について
 影響度合いによって判断が分かれるが、相談のケース(物件から嫌悪施設が200m離れている)の場合、瑕疵又は売主の告知義務違反を理由としての契約解除は難しいであろう。建設予定であり、その影響の度合いが未知であり、かつ売主の認識もないためである。
 ただし、隣地に既存の嫌悪施設があり、生活上重大な影響があるのにもかかわらず告知しなかった場合には、告知義務の債務不履行の可能性が問われることがある。この場合、宅建業者としての責任問題が問われる可能性もある。説明すべき重要な事項に該当する場合、契約前に当然の注意義務を怠り調査しなかったことにより損害等が発生した場合、買主からの損害賠償請求及び行政の監督処分対象となることがある。
 宅建業者には、宅建業法第35条に規定されている重要事項を説明する義務があるだけではなく、国土交通省の示す宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 ― 第35条第1項関係 ― では、「これらの事項(35条事項)以外にも場合によっては説明を要する重要事項があり得る」ともされている。加えて、その他重要な事項として、「宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便 ―(中略)― に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの(宅地建物取引業法第47条)」を説明しなくてはならないとして、説明すべき広範な重要な事項があることを予定している。
について
 通常「嫌悪施設」と言われるものには、騒音や振動の発生、煤煙や臭気(悪臭)の恐れ、危険を感じさせる、心理的に忌避されるものなどがあるが、嫌悪施設の明確な定義はないと言わざるを得ない。嫌悪を感じるかどうかは個々人により判断が異なり、また、時代背景や技術の進歩により嫌悪感が薄れることもあり、一概に言えない。宅建業者はそれらを踏まえ、説明すべきかどうかの判断をせざるを得ない。
 物件から嫌悪施設までどのくらい離れていれば説明不要か、あるいは、どの程度の影響であれば説明しなくていいのか等の基準はない。宅地建物取引業者及び宅地建物取引士として、物件付近の相当範囲内を地図上で確認する、物件周辺を現地調査するなどし、嫌悪施設をピックアップし、売主や近隣住民のヒヤリングをして、役所や施設に確認した上で、取引物件のある場所に居住する際の生活上の影響度を予測し、説明すべきかの要否を判断する必要がある。

<住宅地近辺における主な嫌悪施設>

現 象施 設
騒音や振動の発生高速道路等の主要道路、飛行場、鉄道、地下軌道、航空基地、大型車両出入りの物流施設 等
煤煙や臭気(悪臭)の発生工場、下水道処理場、ごみ焼却場、養豚・養鶏場、火葬場 等
危険を感じさせるガスタンク、ガソリンスタンド、高圧線鉄塔、危険物取扱工場、危険物貯蔵施設、暴力団組事務所 等
心理的に忌避される墓地、刑務所、風俗店、葬儀場 等

参照条文

 宅地建物取引業法第47条(業務に関する禁止事項)
 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
~ハ (略)
 イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現 在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
~三 (略)
 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(第35条第1項関係)
1  重要事項の説明について
(略)
 本項各号に掲げる事項は、宅地建物取引業者がその相手方又は依頼者に説明すべき事項のうち最小限の事項を規定したものであり、これらの事項以外にも場合によっては説明を要する重要事項があり得る。
2 ~4(略)

監修者のコメント

 媒介業者の説明・告知義務の基準時は、売買等の締結時であるが、近時の下級審の裁判例に、媒介業者が売買契約締結時には知らなかった売買物件内の自殺を決済・引渡し前に知ったケースについて、これを決済前に告げれば、買主は契約解除の検討ができたはずで、その機会を失わせたとして媒介業者の責任を認めたものがある。
 このことは、嫌悪施設の計画が分かった場合も同じことであるが、本ケースは200m先と比較的離れており、その間に住宅が立ち並んでいるのであれば、物件の瑕疵とまでいえず、回答のとおり、買主の解除は難しいであろう。そして、瑕疵でないとすれば、媒介業者の説明・告知義務も特に買主からの附近の施設の質問、照会がなければ、ないことになる。ただ、法的な責任の議論とは別に、やはり追加の重要事項説明をしておいたほうが良いことは回答のとおりである。そして、この説明によって買主が購入を止めたいという場合は、売主を説得して契約を白紙に戻すのが適切と考える。なぜなら、たとえ200m先であっても住宅地に近い所に下水道処理施設が建設される場合は、反対運動や仮にそれがなくても、市の広報などで知らされるのが通常であり、売主がそのことをまったく知らなかったということは考えられず、売主の告知義務が問題となるからである。

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