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売買事例 1602-B-0210
雨漏りの可能性があることを告知した場合の瑕疵担保免責の効力

 築後35年が経過した戸建住宅の売買の媒介において、売主が、過去に建物の雨漏りがあったことと、今後も雨漏りが発生する可能性があることを告知したが、引渡して2か月後に大雨による雨漏りが別の箇所から発生した。この雨漏りは売主の瑕疵担保責任期間である3か月以内の雨漏りであるが、売主は、雨漏りが発生する可能性があることを告知しているので、責任はないと主張している。この主張は正しいか。

事実関係

 当社は、先日築後35年が経過した戸建住宅の売買の媒介をした。その際に、売主から提出された告知書に基づいて、買主に対し過去に屋根からの雨漏りがあったことを告知したが、引渡し2か月後に大雨があり、その過去の雨漏り箇所とは異なる箇所に屋根からの雨漏りが発生した。売主の瑕疵担保責任の期間は買主の要望により3か月としたが、その代わりに売主の要望により、本件の建物が相当古いので、過去の雨漏り箇所以外にも雨漏りが発生する可能性があることを告知書に記入し、かつ、重要事項説明書や売買契約書にもその旨を特記事項として記載し説明をした。

質 問

1.  このような【事実関係】において、売主には本件の大雨による屋根からの雨漏りについての瑕疵担保責任が発生するか。
2.  売主は、過去に雨漏りがあったことを告知し、更に本件の建物が相当古いので、他の箇所にも雨漏りが発生する可能性があることも告知しているので、責任はないと主張しているが、この主張は正しいか。
3.  このような場合、媒介業者としてどのように対応したらよいか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 売主には瑕疵担保責任が発生すると考えるべきである。
 質問2.について ― 売主が他の箇所から雨漏りが発生する可能性があることを買主に告知したからといって、それだけで売主の瑕疵担保責任が免責になることはないと考えるべきである。
 質問3.について ― まずは当事者間で話し合ってもらい、それでも話し合いが付かなければ、それぞれが建築や法律の専門家に相談してもらうしかない。
2.  理 由
⑵について
 一般に、建物の経過年数が経っているものほど、屋根や外壁、開口部から雨水が浸入しやすくなるといわれている。したがって、本件のように築後35年を経過した建物であれば、多少のメンテナンスを行っても、かなりの大雨や長雨、台風などが発生した場合には、その被害の発生は免れないものと考えられる。そのために、売主は瑕疵担保責任の期間を比較的短い3か月とし、更に過去の雨漏り以外にも雨漏りが生じる可能性があることを告知したうえで契約に臨んでいる。その点からは、本件の大雨による雨漏りも売主にとっては予想し得る雨漏りであり、それはむしろ顕在化させた表に現れた瑕疵であり、民法第570条が定めている「隠れた瑕疵」ではないと主張し得る余地があるようにも思える。
 しかし一方、被害を受けた買主側から見た場合には、その告知された「その他の箇所からも雨漏りが発生する可能性がある」という告知は、あくまでも、売主が責任を負うべき引渡しから3か月を経過した後に生じるであろう雨漏りであり、仮にそれがその3か月以内に発生するであろう雨漏りを含むものであったとしても、買主にとっては、それについて具体的に雨漏りが生じるであろう箇所を示して告知されたわけではないので、このようなあいまいな告知ではこれを表に現れた瑕疵として免責にする法的根拠にはならないと考えられる。
 なお、本件の事例と似て非なる裁判例(東京地判平成26年1月15日)として、築後38年経ったマンションの1室が、暴風雨でサッシや躯体のヒビ割れ部分から雨水が浸入した事案について、売主の瑕疵担保責任を認めなかった事案があるが、これは売主・媒介業者からの建物についての「物件状況等報告書」による事前の建物の経年劣化や通常使用に伴う損耗・摩耗があることの告知により、その建物には「通常有すべき品質・性能に欠けるところはない」、すなわちその雨水のサッシや躯体のヒビ割れ部分からの浸入は「隠れた瑕疵によるものではない」と判断されたものであって、本件のような売主の瑕疵担保責任期間中、それも引渡しから2か月という短期間内に発生した屋根からの雨漏りについて、その事前の告知内容がその屋根からの雨漏りの責任を免責するものかどうかが問題になっている事案とは、事実関係において大きく異なるからである。
について
 (略)

監修者のコメント

 本ケースは、仮に裁判になったとしても裁判所はその判断に迷う大変難しい案件である。争点は、回答も述べている「隠れた」瑕疵と言えるかであるが、このように瑕疵の「可能性」を売主が買主に告げたからと言って「隠れた」という要件を満たさなくなるとは一概に言えない。売主側が瑕疵の可能性を告げたとしても、それが「ほとんどあり得ないが、可能性がないわけではない」というニュアンスを含んだもので、買主もそう理解している場合と、「ほとんどその可能性がある」というニュアンスを含んだもので、買主もそう理解しているものとでは、明らかに異なり、前者は「隠れた瑕疵」になるが、後者は、もはや「隠れた瑕疵」とはいえないということになると考えられる。
 雨漏りでなく、軟弱地盤の事例であるが、最近の裁判例の中に、売主から買主に交付されたパンフレットに「造成地のため地盤調査後、地盤改良が必要となる場合があります。」と記載されていたが、結局は地盤改良工事費用が252万円ほどかかったとして買主が売主に対して瑕疵担保に基づく損害賠償請求をしたものがある。第一審は、買主は「パンフレットの記載を知っており、軟弱地盤である可能性が高いことを甘受して本件土地を購入している」等を理由に売主の責任を否定したが、第二審の高裁は、「本件の記載はあいまいであって、地盤改良の必要性が高いことをうかがわせる具体的記載もない」等の理由をあげて売主の瑕疵担保責任を認めている。
 本ケースでは、単に過去に雨漏りがあったことを告知書に記載しただけでは、現在の雨漏りのことを何も言っていないので、瑕疵を告げたことにならないが、今後も雨漏りが起こり得ることを説明し、「それでもいいですネ」と買主に念を押しているような事実があれば、買主から雨漏りの責任追及はできないと解される。

より詳しく学ぶための関連リンク

“スコア”テキスト丸ごと公開! 「瑕疵担保責任(瑕疵担保責任の期間と内容)」

・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「地盤と基礎」

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