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賃貸事例 0901-R-0054掲載日:2009年1月
マンションの火災による後片づけと失火元の責任
当社は賃貸マンションの管理業者であるが、2階からの失火により、放水で1階店舗の商品が水浸しになり、使いものにならなくなった。しかし、店舗の借主も失火元の借主も行方がわからないため、商品の後片づけができない。
ついては、管理業者が、店舗の借主に代わって商品の撤去を行ってもよいか。その費用や店舗の損害は、当然2階の失火元に請求できると思うが、どうか。
事実関係 | |
当社は賃貸の媒介と管理をしている宅建業者であるが、先日、当社で管理をしているマンションの2階から、タバコの火の不始末による「過失」により火が出て、そのすぐ下の1階店舗の商品が放水で使いものにならなくなった。 ところが、その商品を片づけたくても、店舗の借主も、火を出した2階の借主も、いずれも火災保険に入っていないために、事後対応で忙しいらしく、2人とも行方がわからなくなり、焦げ臭い商品が店内に散乱したままになっている。 なお、その店の商品というのは、衣類や布団の類で、火が出たのがあいにくその店の休業日だったため、すべての商品が、2階の焼け跡から流れ落ちてくる黒い水によって、販売のための商品にはなりえないことが一目瞭然という状態になっている。 |
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質問 | |
1. | このような状況の中で、他のマンション居住者からの苦情も出ているし、消防や警察の検証も終わっているので、この際、当社が店舗の借主に代わって、商品を撤去したいと考えているが、法的に問題ないか。 | |
2. | 万一、商品の撤去について店舗の借主から苦情が出ても、その責任はもともと2階の失火元にあるのだから、その2階の借主に文句を言うのが筋だと思うが、どうか。 | |
3. | 本件の店舗の損害については、店舗の借主は、当然失火元である2階の借主に請求できると思うが、どうか。 | |
回答 | |
1.結論 | ||||||||
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2.理由 | ||
(1)について 商品が客観的に、誰の目から見ても廃棄物(いわゆるゴミ)であるというのであれば、あとで特に責任追及をされるということはないと考えられるが、問題は、その1階の店舗がまだ店舗の借主の占有下にあるということである。 したがって、いかに他の入居者のためであっても、マンション管理業者にはその店舗内の商品を撤去する権限はないので、どうしても行うということであれば、貸主自身がその賃貸借契約に(注)基づいて、自らの責任で(実際の作業は管理業者が行うにしても)撤去すべきである。 (注)通常、賃貸借契約書の中には、緊急の場合の貸主の居室内等への立ち入りを許諾する条項が定められているし、必要な行為をなすこともできるようになっている。また、仮にそのような条項が定められていなくても、貸主が借主のために「事務管理」(民法第697条)として店舗内の商品(廃棄物)を撤去することも、本件のようなケースにおいては許されよう。 |
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(2)について 本問についての質問者の主張(筋論)は、自分(管理業者)が、他人(店舗の借主)の占有する建物の中に無断で立ち入り、その中の商品を(たとえ無価値状のものであったとしても)無断で撤去する行為の責任を、他人(火を出した2階の居住者)の責任にする主張であり、到底正論とは言い難い。 |
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(3)について 本件の2階の借主は、タバコの火の不始末という「過失」により火を出したということであるから、その過失が「重過失」と認定されない限り、1階の店舗の借主に対しては、当然には責任を負わない(失火ノ責任ニ関スル法律)。 ただ、貸主に対しては、2階の借主は契約上の債務不履行責任(善管注意義務違反=民法第400条)を負うので、1階の共用部分のほか、店舗の内装等について貸主自身が施したものがあるとすれば、少なくともその貸主の損害については、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生すると考えられる。 |
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参照条文 | ||
○ 民法第697条(事務管理) | ||
(1) | 義務なくして他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。 | |
(2) | 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。 | |
○ 失火ノ責任ニ関スル法律 | ||
民法第七百九条(不法行為による損害賠償)ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス | ||
○ 民法第709条(不法行為による損害賠償) | ||
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 | ||
○ 同法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務) | ||
債権の目的が特定物の引渡しで(注)あるときは、債務者は、その引渡しをするまでは、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。 (注)この「引渡し」には、「売買」の場合に限らず、寄託物の返還(引渡し)や賃貸借契約の終了に伴う目的物の返還(引渡し)の場合も含まれる(東京地判昭和51年2月24日判時827号72頁、東京地判昭和57年9月30日判タ486号93頁)。 |
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参照判例(失火ノ責任ニ関スル法律に関するもの) | ||
○ 最判昭和30年3月25日民集9巻3号385頁(要旨) | ||
債務不履行による損害賠償には本法(失火ノ責任ニ関スル法律)の適用はない。 | ||
○ 最判昭和42年6月30日民集21巻6号1526頁、民商58巻1号135頁(要旨) | ||
被用者が重大な過失により失火したときは、使用者は被用者の選任・監督について重大な過失がなくても、民法715条による賠償責任を負う。 | ||
監修者のコメント | |
失火責任法は、わが国では木造家屋が多く、失火による被害が甚大になり、失火者にそれに伴う損害の賠償をさせることは極めて酷であることを考慮し、一般不法行為(民法第709条)の特則として、故意又は重過失のある場合にだけ賠償責任があるとした特別法である。これにより、失火者が単なる過失(軽過失)の場合は、免責される。 ただ、【参照判例】にあるように、同法は債務不履行責任には適用されない、というのが最高裁判例で通説でもあるので、本ケースでの2階の借主は【回答】のように貸主との関係では免責されないことになる。 なお、質問のケースの後片づけは、やむを得ない最小限のことを行うという姿勢と後日のために写真を多く撮っておくことが必要である。 |