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賃貸事例 0810-R-0048
借地上のアパートが競売された場合の借地権の帰すうと賃借人の立場

 借地上の建物(アパート)が競売された場合、借地権はどうなるか。また、賃借人の立場はどうなるか。

事実関係
 当社は、賃貸の媒介業者兼管理業者であるが、当社が管理をしているオーナーの中に、地主から土地を借りて、その土地上に自分の住まいを兼ねた賃貸アパートを所有している者がいる。
 このオーナーは、建物を建てるときにローンを利用したため、建物に抵当権が設定されているのであるが、このたび、その抵当権が実行された。
 
質問
(1)  抵当権は建物だけに付いているので、競売は建物だけについてなされた。このような場合、借地権(土地賃借権)の行方はどうなるのか。
(2)  建物のオーナー(債務者=建物の貸主)は1階に住んでいるが、2階・3階は他人に貸している。このような場合、競落後のオーナーや賃借人の立場はどうなるか。
 
回答
(1)  質問1.について — 土地の賃借権は、建物と一緒に競落人に譲渡される。しかし、このような競売による譲渡の場合であっても、競落人は、その賃借権の譲り受けについて土地の所有者(借地権設定者)の承諾が必要となる。したがって、土地の所有者が競落人の譲り受けを承諾しない場合には、競落人は、代金納付後2か月以内に限り、裁判所にその承諾に代わる許可の裁判を申し立てることができる(借地借家法第20条第3項)。
(2)  質問2.について — オーナーは債務者であり、建物の所有者でもあるわけだから、当然建物を競落人に明渡さなければならない。

 しかし、賃借人については、そのオーナーから建物を賃借し引渡しを受けた時期が抵当権の登記より前であれば、競落人に対抗できるので、そのまま住んでいられるが、抵当権の登記より後に引渡しを受けた場合には、(競落人との間で新たな賃貸借契約でも締結されない限り、)競落人が所有権を取得した時(競売代金の全額を支払った時)から6か月以内に建物を明け渡さなければならない(民法第395条)。

 なお、本件の賃借人とオーナーとの賃貸借契約が平成16年3月31日以前のもので、その期間が3年以内のものであれば、従前の「短期賃貸借」の保護の制度の適用があるので(民法附則第5条)、そのような賃借人については、競売の開始決定の登記(差押えの登記)より前の更新の場合には、その賃貸借が存続する期間内に限り入居し続けることができるが、後の場合には、競落人の代金納付日(競落日)に賃貸借契約が終了し、建物を明け渡さなければならなくなる(後記【参照判例】参照)。
 
参照条文
  ○ 借地借家法第20条(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)
(1)  第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。(以下、略)
(2) (略)
(3) 第1項の申立ては、建物の代金(競売代金)を支払った後2月以内に限り、することができる。
(4)(5) (略)
 
○ 民法第395条(抵当建物使用者の引渡し猶予)
(1)  抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げる者(中略)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
  
二 (略)
(2) (略)
 
○ 民法附則(平成15年8月1日法律第134号)第5条(短期賃貸借に関する経過措置)
 この法律の施行の際現に存する抵当不動産の賃貸借(この法律の施行後更新されたものを含む。)のうち民法第602条に定める期間を超えないものであって当該抵当不動産の抵当権の登記後に対抗要件を備えたものに対する抵当権の効力については、なお従前の例による。
 
参照判例
  ○ 最判昭和38年8月27日民集17巻6号871頁、判時351号31頁、判夕154号58頁(要旨)
 民法395条の短期賃貸借においても、(中略)抵当権実行による差押えの効力が生じた後に右賃貸借の期間が満了したような場合には、借地法5条、借家法2条の適用はなく、右賃貸借の更新を抵当権者に対抗できないと解するのが相当である。
 
監修者のコメント
 借地上の建物が競売された場合、買受人(競落人)は、建物だけではなく、その借地権も取得するのが通常である。しかし、競売の場合でも借地権が地上権でなく賃借権である以上は、その賃借権の移転について土地所有者(地主)の承諾が必要である。土地所有者が、これを承諾しないときは、【回答】にあるとおり、競落人は、その代金を納付して、現実に所有権を取得してから2ヵ月以内に限り、裁判所に許可の申立てをすることができる。その場合、土地所有者が自ら建物と賃借権を譲渡・転貸を受ける旨の申立(介入権)ができることになっている(借地借家法第20条第2項、第19条第3項)。

より詳しく学ぶための関連リンク

“スコア”テキスト丸ごと公開!「差押えの効力と買受人適格」

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