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賃貸事例 1510-R-0152掲載日:2015年10月
賃貸でペット飼育を認める際のトラブル防止の特約と規約の定め方
賃貸でペット飼育を認める場合に、原状回復時や入居中にトラブルを起こさないための特約や飼育規約の定め方を知りたい。
そもそも、ペット飼育に関する法的規制というのはあるのか。
事実関係
当社は賃貸物件の媒介・管理業者であるが、最近、ペット飼育を禁止する貸主が増えている反面、どうしても飼いたいという入居者もいる。そこで当社は、そのための折衷案として、どうしてもペットを飼いたいという入居者に対しては、通常の敷金のほかに、更に1~2か月分のペット用の敷金を受領し、そのペット用の敷金を建物の明渡し時に全額償却するという方法を考えたが、それでも原状回復の際に、その償却額だけでは補修費用として足りないとか、逆に余りがあるのに通常の敷金から入居者の居住に伴う原状回復費用を差し引くのはおかしいといったトラブルが生じる可能性があるし、入居中においても、ペットの飼育に関し他の入居者との間でトラブルが生じる可能性もあるので、本当にペット飼育を認めてよいのかという不安をもっている。
質 問
1. | このような不安やトラブルを生じさせないようにするための何か良い方法はないか。 | |
2. | そもそも、これらのペット飼育に関する法的規制というのはあるのか。 | |
3. | 貸主がペット飼育を認める場合に、入居者に最小限遵守してもらう事項を規約に定めたいが、何か参考になるものはあるか。 | |
4. | 入居者が前記3.の規約を守らなかった場合に、貸主は借主に対し何ができるか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 決定的なものはないが、1つの方法としては、追加で受領する敷金を「敷金」とせずに、ペット飼育のための「承諾料」とし、かつ、その承諾料を「ペット飼育に伴う損害賠償額の予定(民法第420条)を兼ねた承諾料」として授受する旨を明記した特約を定めるとともに、入居中のトラブル対策としては、別途「ペット飼育規約」をつくり、その規約の遵守を契約の条件にするという方法が考えられる。 | ||
⑵ | 質問2.について ― ペット飼育に関する法的規制はある。具体的には、主として動物の保護及び管理に関する法律およびそれに伴う都道府県条例による規制である。 | ||
⑶ | 質問3.について ― 1つの例として、東京都衛生局(現:福祉保健局)で定めている「集合住宅における動物飼養モデル規程」の中の「飼い主の守るべき事項」が参考になろう。 | ||
⑷ | 質問4.について ― その規約が賃貸借契約と一体のものであれば、貸主は借主に対し、借主の違反によって生じた損害について賠償請求ができるとともに、違反の程度によっては、賃貸借契約を解除することもできる(東京地判昭和58年1月28日判時1080号78頁、東京地判昭和61年10月7日判時1221号118頁ほか)。 | ||
2. | 理 由 | ||
⑴ | について 「ペット用の敷金」といっても、それを原状回復時に全額償却した場合に、その償却額全額がペット飼育に伴う原状回復費用相当額なのか、それともその一部なのか、更には借主がペットによって室内をひどくキズ付けたり、汚した場合には、その償却額だけでは足りないということで、本来の敷金から更にその不足分を差し引くということが考えられる。したがって、このようなトラブルを避けるためには、その1つの方法として、追加で受領する敷金を単なる「ペット用の敷金」としてではなく、結論(1)で述べたような「ペット飼育に伴う損害賠償額の予定を兼ねた承諾料」としてペットによる損害の大小にかかわらず、受領することができるように定めることが適当と考えられるからである(民法第420条第1項)。 |
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⑵ | について ペット飼育に関する法的規制としては、まず民法において、ペットの所有者に対する「法令の制限内」における所有物の使用・収益・処分という規定が適用され(民法第206条)、更にその適用される具体的な法令として、「動物の保護及び保管に関する法律」(以下「動管法」という。)が定められている。そしてその規制の内容として、動管法第4条は、動物の所有者・占有者に対し、「動物を適正に飼養・保管することにより、(中略)他人に迷惑を及ぼすことがないように努めなければならない。」という義務を課し、その第9条において、そのペットの「繁殖制限」の義務を課し、それを受けた総理府告示「犬及びねこの飼育及び保管に関する基準」において、ペット飼育ができなくなったり、増えたペットをどうしても譲り受けてくれる者がいない場合には、都道府県知事(政令市においては当該政令市の長)への引取りを求めるように定めている(そのための条例が定められている)。 もちろん、ペットが他人を傷つけたり、他人の建物などを汚損・毀損した場合には、その損害はペットの所有者・占有者等が賠償をしなければならず、その責任は、加害者が「相当の注意」をもって保管していたことを証明しない限り、免れることができない(民法第718条)。 |
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⑶ | について 東京都衛生局(現:福祉保健局)が定めている規程はかなり詳細なものであるが、入居者に最小限守ってもらうべき事項としては、その中の下記「飼い主の守るべき事項」だけでも規約として定めれば、それなりの効果があると考えられるからである。 |
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「集合住宅における動物飼養モデル規程」(抜すい)
(飼い主の守るべき事項) | |||
第 | 3 飼い主は、次に掲げる事項を守り、動物を適正に飼わなければならない。 | ||
⑴ | 基本的な事項 | ||
ア | 動物は、自己の居室又は管理組合等により指定された場所(以下「指定された場所」という。)で飼うこと。 | ||
イ | 自己の居室又は指定された場所以外で、動物にえさや水を与えたり、排せつをさせないこと。 | ||
ウ | 動物の異常な鳴き声やふん尿等から発する悪臭によって、近隣に迷惑をかけないこと。 | ||
エ | 動物は、常に清潔に保つとともに、疾病の予防、衛生害虫の発生防止等の健康管理を行うこと。 | ||
オ | 犬、猫には、必要な「しつけ」を行うこと。 | ||
カ | 犬、猫等には、不妊去勢手術等の繁殖制限措置を行うよう努めること。 | ||
キ | 動物による汚損、破損、損害等が発生した場合は、その責任を負うとともに、誠意を持って解決を図ること。 | ||
ク | 地震、火災等の非常災害時には、動物を保護するとともに、動物が他の居住者等に危害を及ぼさないよう留意すること。 | ||
ケ | 動物が死亡した場合には、適切な取扱いを行うこと。 | ||
⑵ | 他の居住者等に配慮する事項 | ||
ア | 自己の居室又は指定された場所以外で、動物の毛や羽の手入れ、ケージの清掃等を行わないこと。 | ||
イ | 動物の毛や羽の手入れ、ケージの清掃等を行う場合は、必ず窓を閉めるなどして、毛や羽等の飛散を防止すること。 | ||
ウ | 犬、猫等が自己の居室又は指定された場所以外で万一排せつした場合は、ふん便を必ず持ち帰るとともに、衛生的な後始末を行うこと。 | ||
エ | 犬、猫等を散歩させる時には、砂場や芝生等(具体的な場所は、各集合住宅で定める。)の立入りを禁止された場所に入れないこと。 | ||
オ | 廊下、エレベーター等では、動物は抱きかかえ、又はケージ等に入れ、移動すること。犬、猫には、必要な「しつけ」を行うこと。 | ||
カ | エレベーターを利用する場合は、同乗者に迷惑のかからないよう配慮すること。 |
⑷ | について | |
(略) |
参照条文
○ | 民法第420条(賠償額の予定) | |||
① | 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。 | |||
② | (略) | |||
③ | 違約金は、賠償額の予定と推定する。 | |||
○ | 民法第718条(動物の占有者等の責任) | |||
① | 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。 | |||
② | 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。 | |||
○ | 動物の保護及び管理に関する法律第4条(適正な飼養及び保管) | |||
① | 動物の所有者又は占有者は、その動物を適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。 | |||
② | (略) | |||
○ | 同法第9条(犬及びねこの繁殖制限) | |||
犬又はねこの所有者は、(中略)、生殖を不能にする手術その他の措置をするように努めなければならない。 | ||||
○ | 犬及びねこの飼養及び保管に関する基準(昭和50年7月16日総理府告示第28号) | |||
第 | 五 その他 | |||
一 | (略) | |||
二 | 譲渡又は引取り | |||
⑴ 犬又はねこの所有者は、やむを得ず犬又はねこを飼養することができなくなった場合には、(中略)当該犬又はねこを譲渡するように努め、新たな飼養者を見出すことができないときは、都道府県知事(政令市の住民にあっては、当該市の長)に引取りを求めること。 | ||||
⑵ (略) |
監修者のコメント
質問に対する回答には、付け加えることはないが、その賃貸マンションやアパートで従来ペット飼育を禁止し、厳格に運用してきた場合に、方針を変更して飼育を認めるときは、また別の配慮が必要である。世の中には、ペットを好きでない人もおり、そのマンション、アパートではペットが飼われないことを重視して物件を選択した人もいるからである。
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