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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
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売買事例 0904-B-0098掲載日:2009年4月
買主からの内金の支払と売主からの所有権移転請求権保全の仮登記を約定した場合の履行の着手いかん
宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者以外の者が買主になる契約で、買主は手付金のほかに内金を支払い、売主はそのために所有権移転請求権の仮登記をする場合、それらの行為は「履行の着手」になるか。その特約は、「買主に不利な特約」として、宅地建物取引業法39条3項の規定により、無効となるか。
事実関係 | |
当社は媒介業者であるが、宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者以外の者が買主になる売買契約で、お互いに手付解除を防止するために、両当事者の希望により、契約の締結時に、買主が手付金(売買代金の20%)以外に売買代金の10%相当額の内金を支払い、それに対し売主が所有権移転請求権保全の仮登記を行う旨の合意をしたい。 | |
質問 | |
1. | このような合意をすれば、契約の当事者は互いに手付解除を防止することができるか。 |
2. | このような合意は、宅地建物取引業法第39条第3項の規定により、無効とされることはないか。 |
回答 | ||
1.結 論 | ||
(1) | 質問1.について — 本件のケースの場合には、手付解除を防止することができると考えられる。 | |
(2) | 質問2.について — 本件のケースにおいては、原則として無効とされることはないと考えられる。 | |
2.理由 | ||
(1)について 民法第557条の規定によれば、「買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方(相手方)が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。」と定められている。したがって、逆に言えば、「当事者の一方(相手方)が契約の履行に着手したときは、手付解除ができない」ということになる。 そこで、本件の場合に、買主が行う「内金の支払」と、売主が行う「所有権移転請求権保全の仮登記」がいずれも履行の着手にあたるのかどうかということになるのであるが、本件の場合は、契約の当事者がお互いに手付解除を防止するために、内金を授受し、仮登記を行うのであるから、今までの裁判所の考え方においても、そのいずれもが履行の着手にあたると考えられ(末尾【参照判例】参照)、したがって、その考え方に従えば、本件の場合に手付解除はできないということになる。 |
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(2)について 本件の事例においては、売主・買主とも、お互いに手付解除を望まないということで、あらかじめ当事者の希望により、買主からは「内金の支払」を行い、売主からは「所有権移転請求権保全の仮登記」を申請する旨の合意をするということであるから、それらの特約が果して、宅地建物取引業法第39条第3項に定められている「買主に不利なもの」になるのかどうかということである。 思うに、本件の特約は、あくまでも当事者の希望で定めるものであるから、その特約は、むしろ「買主に有利な」「買主のための」特約ということになる。したがって、本件の特約を定めるにあたって、売買契約を途中でキャンセルさせないために、売主業者や媒介業者が主導して定めたというような事情がない限り、「買主に不利な特約」として無効になるというようなことはないと考えられる。 |
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参照条文 | ||
○ 宅地建物取引業法第39条(手付の額の制限等) | ||
(1) | 宅地建物取引業者は、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2をこえる額の手付を受領することができない。 | |
(2) | 宅地建物取引業者が、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付の性質がいかなるものであっても、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。 | |
(3) | 前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。 | |
参照判例 | ||
○ 最判昭和40年11月24日民集19巻8号2019頁(要旨) | ||
・ | 履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す。 | |
・ | 解約手付の授受された売買契約において、当事者の一方は、自ら履行に着手した場合でも、相手方が履行に着手するまでは、本条1項に定める解除権を行使することができる。 | |
監修者のコメント | |
手付解除ができる時期について民法の条文上は「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」となっているが、最高裁は参照判例にあるように、本条を制限的に解釈し、自らが履行に着手しても相手方が履行に着手していなければ手付解除が可能であるとし、これが確立した判例として、実務でも完全に定着している。そして、では「履行の着手」とは何をもっていうのかという次の問題があるが、最高裁の基準からみて、まず内金の支払いは、それが実質は手付金の一部なのに単に名目を内金としたのでない限り、代金の一部支払いであるから、買主の履行の着手に当たり、所有権移転仮登記は、本登記のような明らかな履行の着手とは言い切れないとしても、売主の履行の着手とみて差し支えないと考えられる。少なくとも履行の準備段階を超えているからである。そうすると、本ケースでは、いずれの当事者からみても「相手方」が履行に着手している以上、手付解除ができないことになり、宅建業法39条の趣旨とは関係しないと解される。ただ、買主からの手付解除を封じるために、買主の法的知識の欠如に乗じて仮登記をしたという場合は、別次元の問題として、買主からの手付解除が容認される余地があるが、本ケースではそのような事情はないようである。 |