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売買事例 0706-B-0022
倒産のうわさのある会社の社長個人名義資産の売却

倒産のうわさのある会社の社長の個人名義になっている業務用土地を売却するにあたり、どのようなことに注意して媒介したらよいか。

事実関係
   当社はある土地の売買の媒介をするが、その土地はある会社の業務用倉庫として使われていた土地である(最近建物を解体した)。
 どういうわけか、その土地の名義は社長個人の名義になってはいるが、以前からその会社には倒産のうわさがあり、今までにもいくつかの会社資産を売却したようである。
質問
   そのような状況下にあって、社長個人の名義になっている土地とはいえ、売ったあとに何かあってはいけないので、事前に打てる手は打っておきたい。どのような点に注意して媒介したらよいか。
回答
1.結論
 あらかじめ次の調査を行い、その結果いかんによっては、取引を中止すべき場合もあると考えられる。
<1> その土地の不動産登記記録を入手し、社長の個人名義に所有権が移転した日と、その相手方および登記原因ならびに相手方の所有権取得の日およびその登記原因
<2> その会社の商業登記記録を入手し、設立年月日、資本金の額、役員(同族性の有無)およびその異動状況(内紛の有無)
<3> 会社の資産状況、信用力および社長個人の経歴
<4> 社長本人からの本件土地の取得の経緯および売却理由のヒアリング
2.理由
(1)  上記<1>〜<2>の調査は、すべて本件土地の社長個人への所有権移転が、会社の倒産前の財産隠匿行為に該当するか否かを調べるための調査である。なぜならば、もし本件土地の社長個人への所有権移転が会社財産の隠匿行為に該当するとした場合、その所有権移転が会社債権者により取り消される可能性があるからである(民法第424条)。
(2)  調査の結果については、まず<1>の調査で、会社の本件土地の取得が数年前であるにもかかわらず、社長個人への所有権移転が最近であったり、その登記原因が「真正な登記名義の回復」による所有権移転とか、「錯誤」による持分の更正移転であったような場合には、会社財産の隠匿行為を疑ってみる必要がある。
(3)  また、<2>の調査で、役員が同族のみで固められている場合には、(極めて例外的なことではあるが)その会社の法人格そのものが否認される可能性もないとはいえない。これは、「法人格否認の法理(注)」(最判昭和44年2月27日他)といわれ、もし、本件の会社が会社とは名のみで、実体は個人企業の場合には、その会社としての法人格が否認され、その会社としての責任がすべて個人の責任とされるということもありうるということである。したがって、もし、本件の会社がこのような会社であった場合には、<1>の調査結果と合わせて、ますます会社財産の隠匿行為と疑われ、会社の債権者による詐害行為取消権の行使による訴えや所有権移転前の仮処分や仮差押なども十分に考えられるので、もし、その可能性が強い場合には思い切って取引を中止すべきであろうが、それ以外の場合には、本件の取引の対応の1つとして、「即金取引」(代金一括払取引)による媒介ということも選択肢の1つにはなりうる。
(注) 会社法上、一旦与えた法人格を剥奪するという制度に会社の解散命令などがあるが(会社法第824条)、この場合には会社が会社でなくなってしまうのであって、「法人格否認の法理」の場合は、会社の法人格は認めたままにしておきながら、特定の法律関係において法人格を否認し、実体に即した法律判断をしようとするものである。
(4)  しかし、さらに<3><4>の調査をし、特に社長本人からのヒアリングの結果、本件土地の取得の経緯や売却の理由が曖昧な場合には、思い切って取引の中止を決断するのもやむを得ないものと考えられる。
参照条文
○民法第424条(詐害行為取消権)
(1)  債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
(2) (略)
監修者のコメント
 社長の個人名義になっていることが、会社の詐害行為として、詐害行為取消訴訟の対象となる事例はかなりあるが、その取消訴訟の要件について争われるケースは多いので、【回答】のように、個人名義となっている経緯を十分に調べることが必要である。

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