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売買事例 1010-B-0123掲載日:2010年10月
広告が禁止されている売物件(自宅)の広告と名誉毀損の有無
当社は媒介業者であるが、当社が受託した戸建住宅の売却にあたり、依頼者から禁止されていた売物件(自宅)の外観写真を広告に出してしまった。そのため、売主から、「貴社の行為は名誉毀損である。もう物件を売ることができなくなってしまったのだから、貴社で買い取れ」と言われている。どのように対応したらよいか。本当に名誉毀損になるのだろうか。
事実関係 | |
当社は媒介業者であるが、先月中古の戸建住宅の売買の媒介依頼を受けた。その際依頼者から、「外聞をはばかるので、自宅(売物件)の外観写真だけは広告に載せないで欲しい」と言われていた。 ところが、今月になって担当者が替わったため、連絡不徹底で売物件の外観写真を広告に載せてしまった。 それを知った売主が、「もう物件を売ることができなくなってしまった。黙って物件を買い取れ」と言ってきた。 |
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質問 | |
1. | 当社は、物件を買い取らなければならないか。 | |
2. | 依頼者は、当社の行為について「名誉毀損だ」と言うが、本当に名誉を毀損したことになるのか。 | |
3. | 当社にはどのような責任があるのか。そのためには、当社はどのように対応したらよいか。 | |
回答 | |||
1.結論 | |||
(1) | 質問1.について —(【事実関係】を見る限り、)買い取らなければならないという理由が見当たらない。 | ||
(2) | 質問2.について —(【事実関係】を見る限り、)名誉を毀損したと判断する根拠が見当たらない。 | ||
(3) | 質問3.について — 貴社の責任は、貴社が「売物件の写真を広告に載せてはいけない」という約束を破ったことである。 したがって、その結果、依頼者に損害が生じれば、貴社はその損害を賠償しなければならないということであるから(民法第710条)、貴社の対応としてはまずは依頼者に対し丁重に詫びるとともに、話し合いの結果、何がしかの慰謝料を解決金として支払わざるを得ないと判断した場合には、その旨を早目に相手に伝えるということであろう。 なお、買い取りを考える場合は、多少の価格調整はあるにしても、基本はあくまでも商業ベースで考えればよいであろう。 |
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2.理由 | |||
(1) | 貴社の行為は、依頼者との間の媒介契約上の重要な条件違反であり、その条件違反は媒介契約の解除原因にもなると考えられる。 | ||
(2) | ところで、自宅を売却する依頼者の多くは、内心はあまり仰々しく広告を打って欲しくないと思っているが、その一方で、大きな広告を打って沢山の買い希望者が現われて欲しいとも思っている。 マンションの場合には後者を希望する依頼者が圧倒的に多いが、一戸建住宅の場合には前者を希望するケースも多い。それは、一戸建住宅の場合は、建物の外観から、どこの誰の家が売りに出されているかが、広告の写真からすぐに判るからである。 |
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(3) | この「自宅の売却」という事実を隠したいという心情は、社会的地位の高い人ほど強く現われてくるため、【事実関係】にあるような(これ以上、自宅を「売り物」としてさらしたくないので、)「もう物件を売ることができなくなってしまった。黙って買い取れ」というような言動になってくるものと思われる。 このように考えてくると、本件の場合にも、その売主が「名誉毀損だ(名誉を傷つけられた)」と言うのも理解できないことではない。 しかし、法が保護している「名誉」というのは、そのような主観的な「名誉感情」のことではなく、その人が「社会から受ける客観的な評価(社会的評価)」のことであり、その社会的評価を傷つけるような行為を名誉毀損というのであるから(最判昭和45年12月18日民集24巻13号2151頁)、本件のような自宅の売却のための広告が果たしてその売主の社会的評価を傷つけるものなのかを考えた場合、その売主に特別な事情がない限り、社会的評価を傷つけることにはならないと考えるのが普通であろう。 |
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参照条文 | |||
○ 民法第709条(不法行為による損害賠償) | |||
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 | |||
○ 民法第710条(財産以外の損害の賠償) | |||
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。 | |||
監修者のコメント | |
売却の依頼者の媒介業者に対するいろいろな注文や条件が、それを守ると業者が宅建業法に違反することになる場合はともかく、広告中に物件の写真を載せないで欲しいという注文は、回答が言うとおり、何ら不当ではない。したがって、この約束に反したというのは、初歩的ミスと言わざるを得ない。この際、内部のチェックシステムをしっかり整備すべきである。 しかし、顧客の言う「名誉毀損」というのが、刑法上の「名誉毀損罪」(第230条)の成立を言うものであれば、明らかな誤りである。名誉毀損罪となる行為は、具体的に人の社会的評価を低下させるに足りる事実を不特定または多数人が認識できる状態においてこれを告げ、その人の社会的評価の害される危険を生じさせることである。その人が物件を売却することを世間に知られる状態にすることは、これに当たらない。また、その人に対する軽蔑の表示をしたものでもないから、侮辱罪(同法第231条)にもならない。 もっとも、民事的観点でいえば、媒介契約上の基本的義務違反とまでは言えないとしても、少なくとも債務不履行にはなる可能性が高いので、回答のような解決が現実的であろう。 |