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売買事例 1008-B-0119掲載日:2010年8月
建築工事請負契約と同日付の建築条件付土地売買契約の手付解除等
建物の建築工事請負契約と同日付で締結した建築条件付土地売買契約を手付倍返しで解除したい。この場合、建物の建築工事請負契約は自動的に解除になるか。それとも、請負契約の方も手付倍返しをしなければならないか。
建築確認取得前の建築工事請負契約と同日付の建築条件付土地売買契約の問題点は何か。
事実関係 | |
当社は宅建業者兼建築業者であるが、1か月前に一般の消費者との間で建築条件付の土地売買契約を締結し、同日付で戸建住宅の建築工事請負契約も締結した。 ところが、当社が設計した所定の「建築プラン」について発注者が二転三転するのでなかなか決まらず、これではいくら時間をかけて話し合っても、工事中や工事完了後にトラブルの発生が予想されるので、この際当社から手付を倍返ししてでも契約を解除したいと考えている。 |
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質問 | |
1. | 停止条件付の土地売買契約書には、売主・買主とも手付解除ができる旨を定めているが、本件のように停止条件がすでに成就しているのに、手付解除はできるのか。もしできるとした場合、当社が土地売買契約を解除したときは、建物の建築工事請負契約の方も自動的に解除になると考えてよいか。 なお、この土地の売買契約書には、「売主と買主が別途締結する建築工事請負契約の成立を停止条件とする」旨の定めはあるが、建物の建築工事請負契約の方には、土地の売買契約の成立を停止条件とする旨の定めや、その土地売買契約の解除や失効を解除条件とする旨の定めはない。 |
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2. | 当社はいつもこの建物の建築工事請負契約の締結を、土地の売買契約の締結と同時に行っているが、何か問題があるか。あるとすれば、それはどのようなことか。 なお、本件の建築工事請負契約の締結にあたっては、当社が事前にその土地の形状に合うかたちで設計した平面プランとパースおよび標準仕様書に基づいて土地の買主に説明し、工期や価格の了承も得たうえで契約を締結したが、その際に多少の設計変更であれば、無料で応じるということで契約している。したがって、建築確認はまだ取得していない。 |
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3. | 土地の買主は、「この請負契約は、まだ平面プランも決まっていないので、そもそも建築確認をとれる段階になく、契約が成立していないのではないか」と言っている。この主張は正しいか。もし正しいとした場合、この請負契約の方にも手付金が授受されているので、当社が土地の売買契約を手付解除した場合に、当社はその手付金を返すだけでよいか。それとも他に何か損害を賠償する必要があるか。 もしこの土地の買主の主張が正しくないとした場合(請負契約が成立しているとした場合)、当社が土地の売買契約を手付解除したときは、この建物の請負契約の方も手付解除(手付倍返し)をしなくてはならなくなるか。 |
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回答 | |||
1.結論 | |||
(1) | 質問1.について — 土地の売買契約、建物の請負契約のいずれかにおいて、相手方(土地の買主)からすでに内金(中間金)が支払われているなど、当事者間に特別な事情がない限り、貴社は手付解除ができる(民法第557条)。その場合、建物の請負契約の方についても、その前提となる土地の取得が土地の売買契約の解除によりできなくなるので、自動的に解除になると解される。 | ||
(2) | 質問2.について — 本件のように、1つの土地に1つの建築プランというようなかたちで行う建築工事請負契約と同日付の土地売買契約は、その名目が仮に建築条件付土地売買契約になっており、かつ、請負契約の締結前に土地の購入予定者との間で建築プランについての打合せがなされていたとしても、建物について建築確認を取得していない限り、建売住宅の脱法的行為として、宅地建物取引業法第36条の契約締結等の時期の制限規定に抵触するおそれがあると考えられ、また、本件の契約について広告を出しているとすれば、その行為についても、同法第33条の広告の開始時期の制限規定、さらには不動産の表示に関する公正競争規約第6条の建築条件付土地売買の場合の表示規定にも抵触するものと考えられる。 | ||
(3) | 質問3.について — 質問2.における事実関係(なお書き)を見る限り、土地の買主の主張は必ずしも正しいとはいえない。 しかし、いずれにしても、請負契約の成否のいかんにかかわらず、当事者間にすでに履行に着手しているなどの特別な事情がない限り、貴社が土地の売買契約を手付解除(手付倍返し)すれば、建物の建築工事請負契約の方も自動的に解除となり、その手付解除の効果が結果的に請負契約の方にも及ぶと考えられるので、貴社が土地の買主に対し、請負契約の締結について何か特別の損害を与えていない限り、貴社は請負契約の締結時に受領した手付金を(特約がなければ法定利息(年利5%)を付けて=民法第545条)返還すればよいと考えられる。 |
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2.理由 | |||
(1)について 本件の契約には、停止条件付の土地の売買契約とその土地上に建築する建物の工事請負契約の2つが存在する。そして、その土地の売買契約の方は建物の工事請負契約の成立が停止条件となっているが、建物の請負契約の方は土地の売買契約の成立が停止条件になっていたり、その解除・失効が解除条件になっていないことが事実関係から明らかになっている。 したがって、土地の売買契約が手付倍返しによって解除されたとしても、建物の工事請負契約が当然に解除になるということにはなっていないが、そもそもこの請負契約は、土地の売買契約によって取得する土地の存在を前提にしているため、その前提となっている土地の売買契約が手付解除によって消滅すれば、その土地上に建築する建物の工事請負契約はその前提を失うことになるので、その契約の効力も消滅すると解さざるを得ないことになる。 |
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(2)について 本件のように、1つの土地に1つの建築プランというかたちで行われる建築条件付の土地売買契約においては、土地の買主は建築プランについての選択肢がなく、多少の設計変更ができるとしても、事実上その指定された建築プランによって建物の工事請負契約を締結せざるを得ないことになる。したがって、もし本件の契約において大幅な設計変更ができないというのであれば、その契約の締結が土地の売買契約と同時に行われているだけに、その契約は、建築工事請負契約というより建売住宅の売買契約と実質的に変わりはないということになる。まして、建築材料について内外装の仕様まで請負業者が指定するもので行わざるを得ないとすればなおさらである。とすれば、本件の建築条件付土地売買は、建物について建築確認をとっていないだけに、建売住宅の脱法的行為として、宅建業法第36条の契約締結等の時期の制限規定に抵触する可能性があるものとなろう。 |
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(3)について 建築工事の請負契約が成立するための要件としては、必ずしも建設業法第19条(後出)に定められているすべての要件を満たす必要はなく、その要素は、1.工事内容、2.請負金額(報酬)、3.工事完成の時期であって、他に何等の合意がなくても請負契約は成立するとされている(新潟地裁高田支判昭28年11月14日下民集4巻11号1687頁=後記【参照判例】参照)。 したがって、本件についてはその要素たる要件は満たされていると思われるが、問題は1.の工事内容である。 1.の工事内容は、必ずしもすべての設計図や仕様が決まっていなくても、少なくともその基本となるもの、すなわち建築確認が申請できる程度のものが決まっていれば、契約は有効に成立すると解されており、その一旦決まったものが、その後の打合せで変更等になったとしても、契約の成立には影響はないと解される。 |
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参照条文 | |||||||||||||||||||||||||||
○ 民法第557条(手付) | |||||||||||||||||||||||||||
(1) | 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。 | ||||||||||||||||||||||||||
(2) | (略) | ||||||||||||||||||||||||||
○ 民法第545条(解除の効果) | |||||||||||||||||||||||||||
(1) | 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。 | ||||||||||||||||||||||||||
(2) | 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。 | ||||||||||||||||||||||||||
(3) | 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。 | ||||||||||||||||||||||||||
○ 宅地建物取引業法第36条(契約締結等の時期の制限) 宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、当該工事に関し必要とされる都市計画法第29条第1項又は第2項の許可、建築基準法第6条第1項の確認その他法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあった後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物につき、自ら当事者として、若しくは当事者を代理してその売買若しくは交換の契約を締結し、又はその売買若しくは交換の媒介をしてはならない。 |
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○ 同法第33条(広告の開始時期の制限) | |||||||||||||||||||||||||||
宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、当該工事に関し必要とされる都市計画法第29条第1項又は第2項の許可、建築基準法(昭和25年法律第201号)第6条第1項の確認その他法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあった後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告をしてはならない。 | |||||||||||||||||||||||||||
○ 不動産の表示に関する公正競争規約第6条(建築条件付土地取引に関する広告表示中に表示される建物 に関する表示) |
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前条の規定は、建築条件付土地取引に関する広告表示中に表示される当該土地に建築すべき建物に関する表示については、次に掲げるすべての要件を満たすものに限り、適用しない。 | |||||||||||||||||||||||||||
(1) | 次の事項について、見やすい場所に、見やすい大きさ、見やすい色彩の文字により、分かりやすい表現で表示していること。 | ||||||||||||||||||||||||||
ア | 取引の対象が建築条件付土地である旨 | ||||||||||||||||||||||||||
イ | 建築請負契約を締結すべき期限(土地購入者が表示された建物の設計プランを採用するか否かを問わず、土地購入者が自己の希望する建物の設計協議をするために必要な相当の期間を経過した日以降に設定される期限) | ||||||||||||||||||||||||||
ウ | 建築条件が成就しない場合においては、土地売買契約は、解除され、かつ、土地購入者から受領した金銭は、名目のいかんにかかわらず、すべて遅滞なく返還する旨 | ||||||||||||||||||||||||||
エ | 表示に係る建物の設計プランについて、次に掲げる事項 | ||||||||||||||||||||||||||
(ア)当該プランは、土地の購入者の設計プランの参考に資するための一例であって、当該プランを採用するか否かは土地購入者の自由な判断に委ねられている旨 | |||||||||||||||||||||||||||
(イ)当該プランに係る建物の建築代金並びにこれ以外に必要となる費用の内容及びその額 | |||||||||||||||||||||||||||
(2) | 土地取引に係る第8条に規定する必要な表示事項を満たしていること。 | ||||||||||||||||||||||||||
○ 建設業法第19条(建設工事の請負契約の内容) | |||||||||||||||||||||||||||
(1) | 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従って、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。 | ||||||||||||||||||||||||||
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(2) | 請負契約の当事者は、請負契約の内容で前項に掲げる事項に該当するものを変更するときは、その変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。 | ||||||||||||||||||||||||||
(3) | (略) | ||||||||||||||||||||||||||
参照判例 | |||
○ 新潟地裁高田支判昭和28年11月14日下民集4巻11号1687頁 | |||
建設業法第19条は前記建設業法の立法趣旨に則り注文者と請負人間の法律関係に疑義紛争をなからしめる為に具体的にその主要な事項を書面化して明確ならしめんとする目的で規定せられたものであるが、本来請負契約は請負人が仕事を完成することを約し、注文者がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することによって成立する双務諾成契約である、即ちその要素は工事の請負においては工事内容、請負代金の額(報酬)、工事完成の時期であって、他に何等の合意をしなくても請負契約は成立するのであって、同法第19条に列挙する11項目全部を約し之を書面化する必要なく、同法同条は当事者間の法律関係の疑義紛争を防ぐ為請負契約当事者を指導せんとする注意的規定と解すべきである。 | |||
監修者のコメント | |
本ケースにおいて、土地の買主が中間金など代金の一部を支払ったのであれば、それは「履行の着手」に当たるので、売主からの手付解除はできなくなるが、その事実がないようであるので、売主は手付倍返しによる解除が可能である。それにより、土地上の建物建築請負契約も自動的に失効すると解される。なぜなら、その2つの契約は形式上は2つ存在しても、実質的には一体となったものであって、当事者の意思解釈としても、買主がその土地を取得できなければ、請負契約自体も全く意味がないと考えていると解するのが素直だからである。そして、その場合は請負契約自体は、手付解除により契約が消滅するのではないから、手付倍返しは要せず、通常の原状回復の問題として、手付を返還すれば足りると解される。 また、宅建業法第36条(契約締結時期の制限)との関係は、本ケースのような事実関係からみて、回答のとおり、実質は「建売り」であり、同上の潜脱行為といわざるを得ない。 |