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売買事例 0704-B-0008掲載日:2007年4月
売渡承諾書と買付証明書の効力
売渡承諾書と買付証明書の宛名交付の仕方いかんにより、売買契約が成立することもあるのか。
事実関係 | |
当社は媒介業者であるが、最近、売渡承諾書や買付証明書の宛名が媒介業者の名前になっているものが多く、やや奇異に感じている。 |
質問 | ||
1. | 宛名を買主や売主の名前にしたものと媒介業者の名前にしたものとでは、法的な違いがあるのか。 | |
2. | 宛名を買主の名前にして売渡承諾書を発行した売主が、契約直前になって、買主に無断で他の買主に売却した場合、買主は売主に対し、何がしかのペナルティを請求することができるか。 | |
3. | 売主と買主が直接会って、それぞれ相手方の名前の入った売渡承諾書と買付証明書を交換した場合、売買契約が成立したといえるか。この場合にキャンセルがあったら、当然にペナルティの請求ができると考えてよいか。 |
回答 | ||
1.結論 | ||
(1) | 質問 1.について (使い方いかんにもよるが)基本的には違いはない。 |
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(2) | 質問2.について (状況いかんにもよるが)基本的にはできないと考えた方がよい。理論的には、過失ある売主には損害賠償請求をすることができるが、仮にできるとしても、その額は僅かなもの(信頼利益)になる可能性の方が高いので、かえって買主に迷惑をかけるケースの方が多いからである。 |
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(3) | 質問3.について (一般的には)売買契約が成立したとはいえないと解するのが判例である。しかし、売渡承諾書と買付証明書に記載されている内容や交換の経緯等を総合的に判断することにより、売買契約の予約が成立したと認められる可能性もある。しかし、この場合のペナルティの請求については、質問2.の場合と同様、信頼利益程度の損害しか認定されない可能性の方が高い。「信頼利益」とは、契約が有効に成立すると信じたことによって受けた損害のことであり、そのために無駄になってしまった支出費用などである。 |
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2.理由 | ||
(1)について 売渡承諾書や買付証明書は、買主が金融機関から購入代金の融資を受けるため、あるいは媒介業者が自らの媒介活動を円滑に行うために発行してもらうもので、その使い方も、媒介業者がその依頼を受けた売主または買主にあらかじめ売却あるいは買い受けの意思のあることを文書で求め、これを相手方業者に示し、あるいはその写しを交付することにより、媒介活動を確実に行っていくことを目的にしたものである。 したがって、後者の目的の場合は、本来の目的からすれば、その宛名はそれぞれの媒介の依頼を受けた業者の名前になっていなければならないのであるが、実務においては、その媒介活動の過程で、それぞれの契約の相手方である買主や売主が浮上してきたときに、その段階で買主または売主宛てにそれぞれ売渡承諾書または買付証明書を発行してもらうということもありうる。 しかし、いずれにしても、それらの書面が(本来の目的である)業者間で授受されている限りにおいては、(前述(質問3.とその【回答】)のとおり)それだけでは売買契約やその予約さえも成立したとはいえず、したがって、その宛名が業者名であろうと買主・売主名であろうと、法的には何ら変わりはないということになる。 |
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(2)(3)について (略) |
監修者のコメント | |
売渡承諾書や買付証明書の交付によって売買契約が成立したか否かについて裁判で争われる例があるが、裁判所はその書面の交換が行われたとしても、いまだ売買は成立しないと判断する傾向にある。その理由は、売渡承諾書は当該物件を売ってもよいという意思を表明した書面にすぎず、買付証明書も購入の希望を表明したものにすぎず、当事者の意思として売買の合意が確定的に認められるとはいえないのであり、そのことは不動産の取引業界でも知られていることなのである。 売買契約が成立したというためには、特別な合意のない限り、物件の特定のみならず、売買代金額、支払時期、引渡・移転登記の時期など、少なくとも売買の基本的要素について確定的に合意がなされたということが必要であろう。 ただ、契約自体が成立しなくても、契約締結の準備段階に入った者同士は、互いに相手方に不測の損害を与えないという信義則上の義務があり、信義則に反するような形で突然契約締結を拒否した者は相手方に対し【回答】にあるような信頼利益の損害責任が生ずると解されている(これを「契約締結上の過失」という)。 |