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売買事例 1404-B-0178掲載日:2014年4月
宅建業者である法人とその代表者である個人が共有する不動産を売却する場合の瑕疵担保責任等に関する諸問題
当社は、宅建業者であるA社とその代表取締役であるa氏との共有の不動産の売却にあたり、A社の持分についての瑕疵担保責任の期間を2年とし、a氏の持分についての瑕疵担保責任を免責とする特約を定めることは、法的に認められるか。
もし認められるとした場合、売買契約書や重要事項説明書を1本にして媒介業務を行ったとしても、法的に問題ないか。この場合、売主業者であるA社は、a氏の持分の売買についての媒介をすることができるか。このような場合、A社の隠れた瑕疵に対する損害賠償の範囲(額)は、持分に応じた額だけでよいということになるのか。
事実関係
当社は、宅建業者であるA社とそのA社の代表取締役であるa氏との共有(持分各2分の1)になっている不動産の売却の媒介をすることになった。
ところが、a氏がかなり高齢になってきており、面倒なことを避けたいということから、その売却の条件として、A社の持分については宅建業者としての責任である2年間の瑕疵担保責任を負うが、a氏の持分については、これを免責にして欲しいと言ってきた。
なお、本件の不動産は、もともとa氏の個人所有であったものを、業容の拡大とともに、その持分の2分の1をA社に譲渡したものであり、現在a氏の持分2分の1はA社に賃貸されている。
質問
- このような共有の不動産の売主(A社、a氏)が負う瑕疵担保責任の内容が共有者間で異なる売却条件の設定は、法的に認められるか。
- もし認められるとした場合、当社が売買契約書や重要事項説明書を1本にして媒介業務を行ったとしても、法的に問題ないか。
- この場合、売主業者であるA社は、a氏の持分についての売買の媒介をすることができるか。
- 本物件の引渡し後、実際に「隠れた瑕疵」が発見された場合、A社の損害賠償義務の範囲(額)は、その持分に応じた2分の1だけを賠償すればよいということになるのか。
回答
1. | 結 論 | |
⑴ | 質問1.について ― 法的には認められるが、そのような条件設定は、相手(買主)があることでもあり、実際に「隠れた瑕疵」が発見された場合の権利義務関係を複雑にするので、できることなら、a氏も引渡しから6か月間から1年間位は瑕疵担保責任を負うという特約を設定すべきであろう。 | |
⑵ | 質問2.について ― 法的に特に問題だというわけではないが、法人(会社)と個人は別人格であり、それぞれに税務上の取り扱いも異なるので、重要事項説明書はともかく、少なくとも売買契約書は別々に作成すべきであろう。 | |
⑶ | 質問3.について ― 法理論的には可能であるが、本件の場合は媒介業者(貴社)が別にいるのだから、何も売主の取引実績や手数料を上げるために、そこまで事を複雑にする必要はないであろう。 | |
⑷ | 質問4.について ― そのとおり、2分の1だけを賠償すればよいと解される(民法第427条)。 | |
2. | 理 由 | |
⑴について | ||
共有物件の各共有者は、共有者間に特約その他特段の事情がない限り、それぞれその共有持分を自由に第三者に譲渡することができる。なぜならば、共有持分権の本質は、基本的に所有権だからである(民法第206条)。したがって、各共有者は、その共有持分を第三者に譲渡するに際し、同じ譲受人に対し、異なる条件を付すこともできる。 しかし、そうはいっても、本件のようなケースで売主の瑕疵担保責任について共有者が異なる条件を付した場合には、たとえばa氏は瑕疵担保責任を負わないといっても、本件の不動産がもともとa氏の所有物であったことから、a氏がその瑕疵を知っていたのではないかとか(民法第572条)、A社イコールa氏といえるような実体がある場合には、a氏だけが責任を免れることが信義則上許されないというようなケースも考えられるので(民法第1条第2項)本件のようなケースの場合には、結論で述べたように、少なくともa氏も6か月間程度の責任は負うような特約を設け、媒介するのが適切な媒介といえよう。 |
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⑵について | ||
共有物件の売買を媒介する場合に、その共有者すべてが同じ条件で売却するのであれば何ら問題はないが、本件のように、共有者であるA社とa氏が瑕疵担保責任について異なる条件を付けて売却するということであるから、この2つの取引はそれぞれに権利義務関係が異なることにもなるし、税務処理上の問題もあるので、少なくとも売買契約書については、契約書を別々に作成するのが適切な業務処理といえよう。 | ||
⑶について | ||
要は、貴社がどうしてもA社の意向を無視できないのであれば、貴社が受領する媒介手数料の額を減額するなり、A社分を免除するなりして調整すればよいのであるから、無理にA社を媒介に立たせる必要はない。ただ、貴社がA社をかませることによって、媒介業者としての責任を少しでも軽くしたいというのであれば、A社が売主でもあることから、それなりの意味はあるであろう。 | ||
⑷について | ||
共有者が共有物に対して持っている権利のことを「持分(権)」という。そして、その共有持分権の本質は所有権であるから、共有者は、その共有不動産に対する瑕疵担保責任も共有持分に応じて負担することになる。そして、その共有者が負担する瑕疵担保責任に基づく損害賠償債務は、通常金銭をもって賠償することになるので(民法第417条)、その債務は「分割債務」ということになり(民法第427条)、共有者はそれぞれの持分に応じた債務を負担することになる。したがって、本件の場合にa氏が瑕疵担保責任を負わない特約をした場合には、A社だけがその持分に応じた損害賠償債務を負担することになるからである。 |
参照条文
○ | 民法第1条(基本原則) | |
① | (略) | |
② | 権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 | |
③ | (略) | |
○ | 民法第206条(所有権の内容) | |
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。 | ||
○ | 民法第417条(損害賠償の方法) | |
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。 | ||
○ | 民法第427条(分割債権及び分割債務) | |
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。 |
監修者のコメント
共有の持分権は、回答にあるとおり、それ自体が所有権であるから、別々の処分ができる。したがって、各質問についての回答の法的解釈に付け加えるべきことはなく、また現実的対応の方法も適切妥当と思われる。
なお、本物件の売主2人が、それぞれ共有持分の分について引渡すということは不可能であるから、売主としての「引渡債務」は不可分債務(民法第430条)である。そのことに関連して、瑕疵担保に基づく損害賠償でなく、解除については、売主の1人に免責特約があったとしても、もう1人に対してのみ解除というのは論理的に無理であるので、売買契約全体の解除ができると解される(解除権の不可分性・民法第544条)。