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賃貸事例 1402-R-0129掲載日:2014年2月
短期間での明渡しの場合のいわゆる原状回復費用の全額負担の是非
建物賃貸借契約において、借主が1年半しか入居しなかったにもかかわらず、貸主が、約定の原状回復特約に基づいて所定の工事代金相当額を敷金から控除し、かつ、その工事を行わなかった場合、貸主の行為は「詐欺」あるいは「不当利得」になるか。
このような場合、賃貸管理業者としてはどのように対応すべきか。敷金の一部を借主に返還するよう、貸主と交渉すべきか。
事実関係
当社は、先日1年半ほど入居した借主の明渡しの立会いをし、敷金の清算をしたが、その清算金の中にいわゆる原状回復特約としての①畳の表替え、②襖・障子の張り替え、③ハウスクリーニングが含まれており、他に借主の故意・過失等による毀損等もなかったので、当社はその費用見積り額を借主に提示し、その確認を得たうえで敷金から控除し、残りを借主に返還した。
ところが、貸主がその工事を行わず、次の入居者を入れたため、そのことを知った借主が、工事をしなかったのは貸主の「詐欺」か「不当利得」にあたるので、貸主はその分の敷金を返せと言ってきた。
質問
貸主の行為は、「詐欺」や「不当利得」にあたるか。
回答
1. 結 論 | ||||
貸主が工事見積りをとったときの状況いかんによっては、「詐欺」や「不当利得」にはあたる可能性がある。 |
2. 理 由 | ||||
本件のような原状回復特約は、当事者間に特段の事情がない限り、原則として有効な特約と解される。 問題は、その借主の明渡しが、「入居後間もない」場合にもその原状回復特約に基づいて所定の金額を敷金から控除することができるかということである。この「入居後間もない」という期間が果してどの程度の期間をいうのかについては、借主が、賃貸借物件を通常の使い方をしたという場合には、おそらく半年程度の期間がひとつの目安になるのではないかと考えられる。つまりほとんど部屋が汚れていないというケースである。したがって、本件の場合は、借主が1年半ほど入居しているので、この「間もない」という基準には当てはまらないと考えてよいであろう。 このように考えてくると、通常の居住用の建物賃貸借においては、入居後6か月程度で、借主が通常の使い方をしたうえで退去する場合には、いかに原状回復特約が有効だといっても、実際にその費用の全額を借主に負担させるのはいかがなものか(暴利に過ぎるのではないか)ということから、その負担割合については話し合いの余地があるということはいえよう。 さて、本問に戻るが、本件の事案で、貸主が①~③の原状回復工事を行わなかったのは、おそらく賃貸借物件がキレイに使われていたからであろうが、本件のケースにおいて、貸主が原状回復工事を行うという前提でその費用見積りをとったにもかかわらず、工事を行わないというのでは、その費用相当額を、貸主は法律上の原因なくして借主の損失において利得したことになり、「不当利得」が成立するであろうし(民法第703条)、もし貸主が最初から工事をするつもりがないにもかかわらず、費用見積りをとり、その費用相当額を敷金から差し引いたのであれば、貸主の一連の行為は「詐欺」に該当しよう。 |
参照条文
○ | 民法第703条(不当利得の返還義務) | |
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(中略)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 |
監修者のコメント
原状回復の特約が、当事者の意思解釈として、その原状回復の工事を現実に実施しなくても、それに相当する費用を敷金から控除できるというものであればともかく、「その費用見積り額を借主に提示し、その額の確認を得た上で、敷金から控除する」という特約は、貸主がその工事を現実に行うことを前提にしているものと解するのが自然である。
したがって、現実にはその工事をまったくするつもりがないにもかかわらず、あたかもその工事を行ったがごとく装い、その費用を返還すべき敷金から控除するというのは、その見積り金額をマルマル得てしまう結果となり、不当利得になると解される。また、初めからその工事をするつもりがないのに、その工事を実施するかのように借主に告げている場合は「詐欺」に該当する。
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