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売買事例 1308-B-0168
宅建業者が不動産売買の「代理」をする場合の代理委任状と代理契約書の記載例

 当社は宅建業者であるが、不動産売買の「代理」をする場合の標準代理契約書のひな型が国土交通省から発表されていないので、これを「代理委任状」で行いたいが、宅建業法上問題ないか。もし問題ないとした場合、どのような委任状を作成すればよいか。その場合、その委任状をベースに「代理契約書」を作成することはできるか。もしできるとした場合、どのようにすればできるか。

事実関係

 当社は、不動産取引の媒介業者であるが、年に何回か、「代理」で業務を行って欲しいという依頼を受けることがある。
 そのような場合に、「賃貸借契約」の場合には、当社がその都度貸主から「代理委任状(注)」を発行してもらい、それをもとに貸主の代理人として賃貸借契約を締結するのであるが、「売買契約」の場合には、そもそもの宅建業法上の義務である売主との代理契約書(同法第34条の2、3=書面交付義務)のひな型が国土交通省によって定められていないので、売主から「代理委任状」を発行してもらい、それをもとに売主の代理人として売買契約を締結しても問題ないのか、それとも媒介契約書のような代理契約書を作成し、代理契約を締結したうえで代理業務を行わなければならないのかが、よくわからない。

(注)  「代理委任状」とは、通常、委任事項のほかに、委任者が受任者に法律行為の代理をさせるための代理権、すなわち賃貸借契約のケースであれば、代理人が、借主との間で賃貸借契約を締結し、賃料・敷金等を受領し、物件を引渡す(鍵を交付する)という代理権を、委任者から受任者に授与するという文言が記載されている委任状のことをいう。

質問

  •  宅建業者が、不動産の売買を「代理人」として行う場合、その代理の依頼を受けるときの書面として、「委任状」を発行してもらえれば、宅建業法上問題ないか。
  •  もし問題ないとした場合、どのような「委任状」を作成すればよいか。その委任状をベースに「代理契約書」を作成することはできるか。もしできるとした場合、どのようにすればできるか。

回答

1.   結 論
 質問1.について ― その「委任状」に、宅建業法第34条の2(同条第1項第7号に定める同法施行規則の関係規定を含む。)に定められている関係の事項がすべて定められており、かつ、その委任事項を受任者(宅建業者)が受任した旨の書面を委任者(売主)に交付すれば、宅建業法上問題はない(同法第34条の2、3)
 質問2.について ― 宅建業者が、売主から「委任状」の交付を受けて代理行為を行う場合は、たとえば次のような委任状を2通作成し、そのうちの1通を売主から宅建業者宛てに委任状として交付してもらい、残りの1通について、その末尾に宅建業者がその委任事項を受任した旨の文言と日付を付し、記名押印をしたうえで売主に交付すれば、以後宅建業者は宅建業法上適法な代理人として売買契約を締結することができる。
 そして、その委任状をもとに「代理契約書」を作成するには、その委任状に記載された委任事項を、そのまま当事者(委任者および受任者)の合意事項として契約書のかたちにすれば、それが代理契約書になるので、あとはその契約書に当事者が記名押印をすれば、法定の要件を備えた代理契約書が作成されたことになる(宅建業法第34条の3)
 なお、参考までに、下記の委任状をベースに代理契約書を作成する場合の記載例を、下記委任状の最後に記載しておく。
委任状
 委任者○○○○(以下「甲」という。)は、受任者○○○○(以下「乙」という。)に対し、甲所有の下記不動産を下記条件で売却することを委任し、その代理権を付与する。
 なお、この委任状は、国土交通大臣が定めた標準契約約款に基づくものではない。
(注)
(注) 以下の委任事項末尾のカッコ内条番号等は、その宅建業法上の根拠条番号等を示したものである。
1. 売買物件の表示 ○○○○○○○○○○(法第34条の2第1項第1号)
2. 売却条件
売買価額 金○○○○万円(法第34条の2第1項第2号)
手付金の額 売買価額の5%相当額以上で、乙が買主と協議して定める。
手付解除期限 平成○○年○月○日(または売買契約締結後○か月以内で、乙が買主と協議して定める。)
融資未承認の場合の解除期限 平成○○年○月○日(または売買契約締結後もしくは買主のローン申込み後○か月以内で、乙が買主と協議して定める。)
違約金の額 売買価額の10%相当額以上で、乙が買主と協議して定める。
公租公課の分担起算日 ○月○日
金銭の取扱い  乙は、買主から受領する手付金および売買代金その他の金銭を、受領の都度、すみやかに甲の指定する銀行預金口座(○○銀行○○支店・普通○○○○○○)に振り込み、引き渡す。ただし、売買契約書に貼付する収入印紙代、固定資産税等の清算金その他の金銭で、甲が負担する必要があるものについては、乙がこれを売買代金等から控除し、残額を甲に振り込む。
 前項の領収証の発行および受領は、すべて乙が甲の代理人として行う。
決済・引渡し日 売買契約締結後○か月以内(または以降)で、乙が買主と協議して定める。
所有権移転登記申請手続等  甲は、売買代金全額の受領と同時に、買主への所有権移転登記申請手続を行うものとし、そのための一件書類をあらかじめ○○○○司法書士に預託しておき、乙が、甲の代理人としてそのための準備と当日の確認を行う。
 乙は、前項の所有権移転登記申請時に、買主に対し物件の引渡しを行うものとし、そのための図面その他の関係図書および鍵の引渡しをあらかじめ甲から受けておく。
その他の条件 本件売買契約に用いる契約書の書式は、別添契約書を使用するが、それ以外の事項で、上記売却条件に定めのない事項および上記売却条件の履行に変更が生じるときは、その都度甲・乙協議して定める。
3. 甲の禁止事項  甲は、この契約の有効期間内に、本物件の売買の媒介または代理を、乙以外の宅地建物取引業者に重ねて依頼することができない(法第34条の2第1項第3号。標準専属専任媒介契約約款第11条第1項)。
 甲は、この契約の有効期間内に、自ら発見した相手方と本物件の売買契約を締結することができない(標準専属専任媒介契約約款第11条第2項)。
 甲は、この契約の有効期間内に、前2項の禁止事項に違反したときは、乙に対し、約定報酬相当額の違約金を支払う(法施行規則第15条の7第1号、第2号。標準専属専任媒介契約約款第11条第1項、第2項)。
4. 有効期間  この契約の有効期間は、3か月とする。ただし、甲・乙の合意により、更に3か月間更新することができる(法第34条の2第1項第4号、第3項、第4項)。
 この契約を更新する場合は、あらかじめ甲から乙にその旨を文書で申し入れるものとし、その際に甲・乙間で別段の定めをしなかったときは、この契約と同一内容の契約が成立したものとみなす(標準専属専任媒介契約約款第13条第2項、第3項)。
5. 解除に関する事項  甲または乙が、この契約に定める義務の履行に関し、その本旨に従った履行をしない場合には、その相手方は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、この契約を解除することができる(法第34条の2第1項第4号。標準専属専任媒介契約約款第14条)。
 この契約の有効期間内に、乙の責めに帰すことができない事由によって契約が解除されたときは、乙は甲に対し、この契約の履行のために要した費用の償還を請求することができる。ただし、その額は約定報酬額を超えないものとする(法第34条の2第1項第4号。標準専属専任媒介契約約款第12条)。
6. 指定流通機構への登録等  乙は、本物件に関し、宅地建物取引業法第34条の2の規定に基づいて、法定の期日までに、法定の事項を指定流通機構に登録する(法第34条の2第1項第5号、第5項。同法施行規則第15条の8~10)。
 乙は、前項の登録をしたときは、遅滞なく登録済証を甲に交付する(法第34条の2第6項)。
7. 業務報告  この契約締結後、乙は甲に対し、1週間に1回以上、業務の処理状況を文書または電子メールで報告する(法第34条の2第8項)。
8 報酬 乙が、この契約に基づき甲の代理人として本物件の売買契約を成立させたときは、甲は乙に対し、代理報酬として金○○○万円(消費税込み)を売買契約締結時と残金決済時の2回に分けて、それぞれその2分の1相当額を支払う(法第34条の2第1項第6号)。
以上
平成○○年○月○日
  甲(委任者) 住所 ○○○○○○○○○○○○
氏名 ○○○○ 
乙(受任者)○○○○殿
(受任者(宅建業者)から委任者(売主)への交付書面)
上記委任事項確かに受任いたしました。
平成○○年○月○日
  乙(受任者) 住所 ○○○○○○○○○○○○
氏名 ○○○○ 
甲(委任者)○○○○殿
(委任状をベースに「代理契約書」を作成する場合の記載例)
代理契約書
 委任者○○○○(以下「甲」という。)および受任者○○○○(以下「乙」という。)は、甲が、その所有する下記不動産を下記条件で乙に代理権を付与したうえで売却することを委任し、乙が、これを受任することに合意した。
なお、この代理契約書は、国土交通大臣が定めた標準契約約款に基づくものではないことを互いに確認した。

(記書きの内容は、上記「委任状」と同じ。)
以上
 上記契約の成立を証するため、本契約書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各自その1通を保有する。
平成○○年○月○日
  甲(委任者) 住所 ○○○○○○○○○○○○
氏名 ○○○○ 
  乙(受任者) 住所 ○○○○○○○○○○○○
氏名 ○○○○ 

参照条文

宅地建物取引業法第34条の2(媒介契約)
 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(以下この条において「媒介契約」という。)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。
一~七(略)
~⑨ (略)
同法第34条の3(代理契約)
 前条の規定は、宅地建物取引業者に宅地又は建物の売買又は交換の代理を依頼する契約について準用する。

監修者のコメント

 媒介契約も代理契約も口頭による意思の合致で成立する「諾成契約」であって、理論上は契約書面の作成を要しない。しかし、宅建業者が成約させた売買、賃貸借契約に基づいて媒介・代理の報酬(手数料)を請求した場合に、依頼者が媒介や代理の契約の成立自体を否定するケースがある。このような紛争において書面の作成・交付がなされていない場合は、宅建業者が極めて不利な立場に立たされる。媒介契約の成否が争われた裁判例の中に「媒介契約が成立したときは、宅建業法の規定により、業者は法定の書面を遅滞なく依頼者に交付しなければならないが、本件ではその書面の交付もなされていないから、いまだ媒介契約の成立を認めることはできない」などとしたものがあり(理論的には正しくないが)、やはり書面の交付は自己防衛のためにも必要なことである。このことは、「代理」の場合はなおさらである。

より詳しく学ぶための関連リンク

・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「敷金」

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