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賃貸事例 1308-R-0122掲載日:2013年8月
オーナーチェンジ後の賃貸借契約書の書き替えと原状回復の方法
店舗を居抜きで借りた借主が、一部内装を変更したうえで営業中のところ、オーナーチェンジが行われ、そのあとに相続が発生した。そして、相続後の新オーナーとの間で賃貸借契約書が新しく書き替えられた。このような場合、借主の明渡しに伴う店舗の原状回復は、どちらの契約書をもとに行うのか。もし貸主がスケルトンでの明渡しを求め、借主がこれに応じた場合の費用負担については、どのように行うべきか。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者兼管理業者であるが、このたび当社が管理をすることになった店舗が閉店することになった。そのため、その店舗を明け渡してもらうことになるのであるが、もともとその店舗は、最初のオーナーが最初の借主(マージャン店)に賃貸したあと、居抜きの状態で現在の借主(カラオケクラブ)に賃貸したが、間もなくオーナーチェンジがなされ、更に相続により、新しいオーナー(相続人)に賃貸借契約が引き継がれ、賃貸借契約書を新しく書き替えたうえで、今日に至っている。
なお、その相続後の新しいオーナーは、賃貸借契約書を書き替えるに際し、明渡しの際の原状回復条項を、「借主は貸室を契約時の現状に回復して貸主に明渡す。」と改めたが、現在の借主(カラオケクラブ)が最初のオーナーと締結した賃貸借契約書には、明渡しの際には、店舗を当時の現状すなわち居抜きの状態に戻すことを原則とし、借主がその後に造作等を加えたものについては、これを元に戻すか、残置するように定められている(後記【参照資料】参照)。
質問
- このように最初の賃貸借契約書と現在の賃貸借契約書に異なる原状回復文言が定められている場合、借主はどの契約書に基づいて原状回復をしなければならないか。
- 貸主としては、スケルトンの状態で明渡しをしてもらいたいと考えているが、もし今回の明渡しをスケルトンで受けるとした場合、その費用の負担はどのようになるか。
回答
⑴ | 質問1.について ― 新しく書き替えられた現在の賃貸借契約書に基づいて原状回復をすべきである。なぜならば、現在の賃貸借契約書に定められている原状回復のための「契約時の現状」というのは、最初の契約時に定められた「現状」すなわち「契約当時の居抜きの状態」をいうと解されるからである(後記【参照判例】参照)。したがって、借主(カラオケクラブ)がその後に加えた造作等があれば、それを借主が解体撤去するか、残置するという約定どおりの方法で「現状」に回復させるというのが正しい考え方であろう。 | |
⑵ | 質問2.について ―現在の借主(カラオケクラブ)が当時の居抜きの状態からどのような改装を行ったのかを確認し、その部分の解体撤去費用を借主が負担し、それ以外の解体撤去費用を貸主が負担するという考え方で、費用を分担し合うのが適当であろう。 なおその場合、本件のような古い店舗の場合には、最初の内装工事にアスベストが使われている可能性があるので、その処理費用の分担については慎重な検討が必要である。 |
参照資料
○ | 最初に締結された賃貸借契約書(抜すい) | |||||||||||||||
第○条 | 店舗は現状のまま使用するものとし、店舗又は造作の模様替の必要を生じた場合はあらかじめ甲の書面による許可を得て行い、明渡しの際は自費をもって原形に復するか或は無償にて残置するものとする。 | |||||||||||||||
○ | 新たに締結された賃貸借契約書(抜すい) | |||||||||||||||
第○条 (明渡し方法) | ||||||||||||||||
この契約が期間満了、解約、解除その他の事由により終了したときは、乙は次項以下に定めるところに従って明渡す。 | ||||||||||||||||
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参照判例
○ | 大判昭和6年5月29日新聞329号18頁(要旨) |
賃貸不動産の所有者に変更があった場合、特約がない限り、賃借人・新所有者間に従来の賃貸借関係がそのまま移転・存続する。 |
監修者のコメント
一つの契約に複数の契約書が存在する場合、どの契約書が現に効力を有するかの決定は、第一次的には当事者の意思が基準となる。本ケースでは、相続後のオーナーとの間で賃貸借契約書が改めて作成され、当事者がその内容を認識した上で署名捺印しているのであれば、あとの契約書が現に効力を有する。ただ、あとの契約書の「契約時の現状」という文言の「契約時」の意味は、当事者の意思からみて最初の契約時という意味に理解するのが素直な解釈と思われる。