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売買事例 1304-B-0164掲載日:2013年4月
更地渡しの売買における地中埋設物の存在と債務不履行との関係
先日古家付の物件を更地渡しで売買する媒介をしたが、建物を解体したところ、地中から、本件の建物のものとは異なる古い下水管が発見された(撤去費用約10万円)。
ついては、①この古い下水管の存在は「隠れた瑕疵」といえるか。いえないとすれば、下水管はそのまま地中に埋めておいてもよいと思うが、どうか。②「隠れた瑕疵」というのは、物件の引渡し後に発見された瑕疵のことをいうと思うが、どうか。③そもそも物件の引渡し前に発見された瑕疵というのは、売主の債務不履行とか不法行為あるいは危険負担の問題として処理すべきだと思うが、どうか。
事実関係
当社は不動産の売買を中心に行っている媒介業者であるが、先日更地渡しの条件で媒介した古家付の土地売買で、売主が建物を解体したところ、地中から、本件の建物のものとは異なる古い下水管が発見された。そのため、売主は解体業者から、その撤去費用(約10万円)は解体費用とは別に支払って欲しいと言われた。
質問
- その古い下水管の存在は、民法第570条の「隠れた瑕疵」といえるか。もし「隠れた瑕疵」といえないとすれば、売主は、その下水管をそのままにしておいてもよいと思うが、どうか。
- そもそも「隠れた瑕疵」というのは、物件の引渡し後に発見された瑕疵のことをいうと思うが、どうか。
- そもそも物件の引渡し前に発見された瑕疵については、売主の債務不履行(不完全履行)とか、不法行為あるいは危険負担の問題として処理すべきだと思うが、どうか。
回答
⑴ | 質問1.について ― 「隠れている」のは事実であるが、それが「瑕疵」(その物が通常有すべき品質・性能を欠いている)といえるかどうかは、買主の購入目的や、買主が新たな建物を建てるにあたり、その下水管を埋めたままにしておいても差し支えないのかどうか、それを撤去する場合にその費用がどの位かかるのか等を、物件ごとに総合的に検討し判断されるので、本件の【事実関係】からだけでは判断し難い。したがって、本件の場合には、その撤去費用もそれほど多くないので、当事者間でその下水管の撤去費用を折半負担するという方向で話し合うのもひとつの方法であろう。 | |
⑵ | 質問2.について ― 「隠れた瑕疵」は、必ずしも物件の引渡し後に発見されたものに限らず、引渡し前に発見されたものも含まれる。すなわち、「隠れた瑕疵」というのは、「売買契約の締結時に隠れている瑕疵」のことをいうのである。 | |
⑶ | 質問3.について ― そうではなく、物件の引渡し前に発見された瑕疵についても、売主の責任(瑕疵担保責任)において、売主がその費用を負担し、解決したうえで、買主に「契約の目的どおりの物件」を引渡さなければならないのが原則である。したがって、本件のような場合には、その費用負担だけの問題で物件を更地にし、買主に引き渡すことができるが、これが、たとえば通常の戸建住宅の売買で、引渡し前に建物に瑕疵があることがわかり、引渡しの期日までに修理ができないような場合には、物件を買主に引渡した後に、買主が建物を修理し、その費用を損害として、別途買主から売主に対し賠償請求をするということになる。この請求の方法が、本来法が予定している瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求の方法なのである(民法第570条が準用する同法第566条第1項、第3項)。 なお、本件の質問中にある売主の債務不履行とか不法行為による責任追及というのは、いずれも売主に「帰責事由」(故意・過失等)がある場合の責任追及の話であって(民法第415条、第709条)、本件のように売主に「帰責事由」がない場合には、あくまでも「隠れた瑕疵」に対する売主の担保責任の問題として、「無過失責任」を追及するものでなくてはならないので、質問者の指摘は正しいとはいえない。また、危険負担の問題についても、その問題は、不可抗力等の外力によって売買の目的物(物件)が滅失・損傷した場合に、その損害を誰が負担するのかという問題であるから(民法第534条、最判昭和24年5月31日民集3巻226頁)、本件の「隠れた瑕疵」に対する責任の問題とは異なるものである。 |
参照条文
○ | 民法第415条(債務不履行による損害賠償) | |
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。 | ||
○ | 民法第534条(債権者の危険負担) | |
① | 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。 | |
② | (略) | |
○ | 民法第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任) | |
① | 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。 | |
② | (略) | |
③ | 前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。 | |
○ | 民法第570条(売主の瑕疵担保責任) | |
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 | ||
○ | 民法第709条(不法行為による損害賠償) | |
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 |
監修者のコメント
瑕疵担保責任をめぐる訴訟の主な争点は、買主が問題視している物質や事象が、まず①そもそも「瑕疵」といえるのか、次に②瑕疵だとしても「隠れた」ものといえるのかが問題となる。そして①については、一律に決定されるわけではなく、土地の場合、一戸建て用か、マンション用か、工場用か、倉庫用かなど買主の取得目的との関係で、全く同じ事象でも結論が異なる可能性がある。地中にコンクリート塊が存在しても、一戸建て住宅の建築に全く支障がなければ、「瑕疵」ではなく、マンション建設に支障があれば「瑕疵」である。また、同じ壁のキズでも新築住宅では「瑕疵」とされ、築30年の住宅では「瑕疵」ではないとされる可能性が高い。要するに、回答のとおり、ある一定の事実について、その事実だけをみて瑕疵担保責任の有無を判断することはできない。売買の目的物の性格、買主の取得目的、買主の注意能力、売買価格の相場との比較等々から総合的に判断する必要のある難しい問題である。