当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。
専用電話:03-5843-208110:00~16:00(土日祝、年末年始 除く)
相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)
<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。
ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。
ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。
売買事例 1302-B-0162掲載日:2013年2月
境界明示に関する媒介業者の責任範囲-界標も隣人の立会いもない場合の確定測量の方法
土地の売買の媒介で、売主の境界明示義務の履行に関し、媒介業者はどこまで責任を負うか。
境界確認に際し、界標が入っていなかったときは、境界確定のために、隣地所有者の立会いは絶対条件か。実測売買と公簿売買で、対応に違いはあるか。
売主が買主に対し確定測量図を交付すると特約している場合、隣地所有者が①境界の立会いを拒否したり、②測量図への立会印の押印を拒否したときは、媒介業者としてどのように対応したらよいか。①の場合は、契約の解除原因になるか。②の場合は、どうか。そもそも確定測量図には、隣地所有者の立会印の押印が絶対条件か。
事実関係
当社は媒介業者であるが、最近当社では土地の売買の際の境界をめぐるトラブルが多発している。
一番多いトラブルは、営業マンが、境界の明示義務が売主にあるということから、事前の境界確認を十分行わず、決済前の境界明示の段階になって、あわてて界標の確認に入るというケースである。そのため、界標が抜かれていたり、塀の下に埋れていたり、あるいは最初から入っていなかったというような場合には、決済を延期したり、最悪の場合は売主の違約というようなトラブルに発展してしまう。
質問
- 営業マンは、境界明示の義務は売主にあるのだから、媒介業者が境界を明示することができなかったとしても、その責任は売主にあり、媒介業者にはないと主張するが、この主張は正しいか。そもそも、境界の明示に関し、媒介業者はどこまで責任を負うのか。
- 営業マンが境界確認をした際、界標が入っていなかったときは、その境界確定のために、隣地所有者の立会いは絶対条件か。実測売買と公簿売買で、対応に違いはあるか。
- 売主が買主に対し確定測量図を交付すると特約していた場合、隣地所有者が、①境界の立会いを拒否したとき、②立会いはしたが(境界の確認はしたが)、測量図への立会印の押印を拒否したときは、媒介業者としてどのように対応したらよいか。
- 前記3.の場合、①のケースのときは契約の解除原因になるか。②のケースのときはどうか。
- そもそも確定測量図には、隣地所有者の立会印の押印が絶対条件か。
回答
⑴ | 質問1.について ― 営業マンの主張は正しくない。 媒介業者には、売主が所定の期日までに買主に対し境界の明示ができるよう、売買契約を締結する前に、境界(界標)についての調査をし、そのうえで、期日までに明示することができないような事実が発見された場合には、そのための必要なアドバイスをし、それでも是正できない場合には、取引を延期するなり、中止するなりして、トラブルを未然に防止する媒介契約上の義務がある(民法第644条、第656条、後記【参照判例】参照)。 |
|
⑵ | 質問2.について ― 必ずしも絶対条件ではなく、売主の手持ちの測量図や登記所に備え置かれている地積測量図などで境界ポイントが復元できるのであれば、それを基に境界を確定することもできる。しかし、その場合でも、後日のトラブルを防止するためには、隣地所有者の立会いがあることが望ましいことは言うまでもない。 なお、このことは、売買の方式が実測売買であろうと公簿売買であろうと、異なるところはない。 |
|
⑶ | 質問3.について ― ②のケースの場合は、隣地所有者の立会印がない場合には、一般的には確定測量図とはいわないが、それでも話し合いにより、それに準じたものとして交付することは可能である。しかし、①のケースの場合には、確定測量図そのものが作成できないので、売主の債務不履行になる可能性が高い。したがって、媒介業者としては、その結果に対し、媒介業者としての責任を負わざるを得ない。 | |
⑷ | 質問4.について ― いずれの場合も、契約の解除原因になる可能性がある。 | |
⑸ | 質問5.について ― 一般的には、隣地所有者の立会印が必要とされている((公財)不動産流通推進センター発行・平成24年版「宅地建物取引士講習テキスト」15頁)。 |
参照条文
○ | 民法第644条(受任者の注意義務) | |
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。 | ||
○ | 民法第656条(準委任) | |
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。 |
参照判例
○ | 大阪高判昭和61年11月18日判夕642号204頁 | |
仲介業者は、不動産取引について専門的知識と経験を有するものとして、依頼者その他取引関係者に対し、信頼を旨とし誠実にその業務を行ない、委任事務である仲介事務の処理に当たっては委任の本旨に従い、善良なる管理者の注意をもってこれを処理することを要する(民法第644条、656条)。宅建業者としては仲介契約の本旨に従い善管注意をもって、売買契約が支障なく履行され、当事者双方がその契約の目的を達成しうるよう配慮する義務を有し、委任者からの特段の指示がない場合においても本件土地のように公道に接しない宅地については私道の通行承諾があり、その通行に支障がないことを近隣者や私道所有者などに問い合せて調査し、また売買対象土地の範囲が不明確な場合はその境界を明示して買主に土地建物買受の目的を達成させ損害の発生を未然に防止すべき義務がある。 |
監修者のコメント
土地の買主にとって、その土地の境界がどうなっているかは、重大な関心事であって、境界明示は売主に任せればよい、というものではない。
境界明示に関して、しばしば紛争になるのが、契約書に売主の義務として「隣地所有者の立会いの下に境界を明示する」とか「隣地所有者の立会い印を押捺した測量図を交付する」との約定がある場合に、隣地所有者との関係は、これからだということで、結局隣地所有者が立会いを拒否し、約束を実現できないケースである。隣地所有者の承諾を事前に取っている場合はともかく、そうでない限り、そのような条項は設けないほうがよい。
より詳しく学ぶための関連リンク
・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「境界確定」
・フォローアッププログラムサイト 無料動画「フォローアップ研修 『境界』」
・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「公簿売買」
・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「他人の私道の通行・掘削同意」