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賃貸事例 1212-R-0109
相続を放棄した配偶者等への滞納賃料の請求の可否

 賃料を滞納したまま借主が死亡した場合、同居の配偶者やその他の相続人に対し、滞納賃料の支払いを請求することができるか。相続人達は、全員が相続を放棄し、滞納賃料の支払いや家具の搬出を拒否したまま部屋を出て行ってしまったが、部屋に残置された家具類の搬出は誰が行う義務があるのか。その場合の家具の搬出までの間の賃料相当損害金の支払い義務は誰にあるのか。

事実関係

 当社は賃貸マンションを所有し、みずから賃貸している宅建業者であるが、このたび数か月分の賃料を滞納している(借主)が死亡したため、その相続人の1人である同居の配偶者(妻)を相手に滞納賃料の支払いを請求したところ、暫らくしてその配偶者から、家庭裁判所が発行した「相続放棄申述証明書」が提出され、「私は相続を放棄したので、滞納賃料を支払う義務はありません。」と言ってきた。
 しかし、それでは当社としても困るので、他の相続人を相手に何とか支払ってもらうよう請求したが、いずれの相続人も、「どうせ相続財産らしきものはないのだから、我々も相続を放棄する。」と言い、全く支払おうとしない。
 そうこうしている間に、配偶者を含めた相続人達が貴重品だけを持ち出し、建物から出て行ってしまったために、それ以外の家具類などが全て放置されてしまったが、その家具類についても、相続人達は、「相続を放棄したのだから、貸主の方で勝手に処分してもらいたい。」と言い、全く取り合おうとしない。

質問

  •  このような場合、貸主は相続人達に対し、本当に滞納賃料の支払いを請求することができないのか。家具類の搬出などの原状回復費用については、どうなのか。
  •  相続人達が家具類を搬出(原状回復)するまでの間の賃料相当の損害金については、請求することができないのか。
  •  複数の相続人がいる場合、相続の放棄は1人でもできるのか。限定承認の場合とどう違うのか。
  •  同居していた配偶者(妻)は、借主(夫)の死亡により遺族年金を受給することができるが、この遺族年金の中から滞納賃料等の支払いを請求することはできないのか。
  •  当社は現在相続人達からの鍵の返還を拒否しているが、この対応は正しいか。
  •  連帯保証人への請求は、どの範囲のものが認められるか。

回答

1.   結 論
 質問1.について ― すべての相続人が相続を放棄した場合(家庭裁判所でその旨の申述をした場合=民法第938条)には、滞納賃料、原状回復費用のいずれも請求することができない。
 質問2.について ― 請求することはできない。
 質問3.について ― 相続の放棄は1人でもできるが、限定承認は相続人全員で行わなければならないというところに違いがある(民法第923条)。
 質問4.について ― 請求することはできない。
 質問5.について ― 正しくない。すぐにでも鍵の返還を受けるべきである。
 質問6.について ― 滞納賃料のほか、原状回復に至るまでの費用については請求することができるが、(民法第447条)、貴社が相続人からの鍵の返還を拒否した後の賃料の請求についてはできないと解される。
2.   理 由
⑵について
 相続人が相続を放棄した場合には、最初から相続がなかったものとして扱われるので(民法第939条)、相続人全員が相続を放棄した場合には、借主の生前の債務である滞納賃料や、死後に発生する原状回復のための費用はすべて無主の債務となるため、いずれも請求することはできない。
について
 (略)
について
 遺族年金の受給権は配偶者の固有の権利であり、被相続人の権利(相続財産)ではないので、遺族年金の中から支払うよう請求することはできない。
について
 相続人全員が相続を放棄すれば、被相続人(借主)の債務や家具類もすべて無主のものとなるので、そうなれば、その結果として貸主である貴社がそのすべてを負担することになるわけであるから、すぐにでも鍵の返還を受けて、中の家具を搬出し、次の入居者を入れる準備をすべきである。
について
 保証債務は、主たる債務の利息、違約金、損害賠償その他主たる債務に従たるもののすべてを包含する(民法第447条)。したがって、本件の場合の滞納賃料はもとより、原状回復のための費用も保証人に請求することができる。しかし、貴社が鍵の返還の受領を拒否した後の賃料については、貴社にその帰責原因があるので、信義則上それを保証人に請求することはできない。

参照条文

民法第447条(保証債務の範囲)
 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
 (略)
民法第923条(共同相続人の限定承認)
 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
民法第938条(相続の放棄の方式)
 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
民法第939条(相続の放棄の効力)
 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

監修者のコメント

 例えば相続人達が高価な品を持ち出したという事実があって、その物がかなりの価値のあるものであれば、貸主がその動産について法的手続により賃料債権の回収に充てることができる。しかし、その証明も不可能ということが多いので、本ケースのように相続人全員が相続放棄をしてしまった場合は、どうしようもないのが実態である。「相続放棄」という制度がある以上、回答のとおりの結果にならざるを得ない。
 だから、賃借人の保証人(連帯保証人)が重要なのであって、保証人は、このようなときのためにあることを改めて認識して頂きたいケースである。

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