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売買事例 1204-B-0150掲載日:2012年4月
賃貸マンションを土地・建物別名義で売却した場合の問題点
当社所有の賃貸マンション1棟を売却するが、買主が、土地の名義と建物の名義を別々にして欲しいと言ってきた。このような場合、土地と建物を別々に売却するだけでよいか。この場合の賃借人に対するオーナーチェンジの通知は、誰がどのように通知すればよいか。建物の名義人が土地についての利用権をもたなかったら、建物の賃借人の立場はどうなるか。その後、建物だけが第三者に譲渡された場合はどうか。
事実関係
当社は、当社が所有する賃貸マンション1棟を売却するが、買主が、土地の名義と建物の名義を別々にして欲しいと言ってきた。土地の名義は買主個人で、建物の名義はその個人がオーナーになっている会社にしたいという。
質問
- このような場合、土地と建物を別々に売却するだけでよいか。
- このように土地と建物を別々に売却した場合、建物の賃借人に対するオーナーチェンジの通知は、誰がどのようにしたらよいか。
- もし建物の所有者となった者(会社)が、土地についての利用権をもたなかったら、建物の賃借人の立場はどうなるか。その後、さらに建物だけが第三者に譲渡された場合はどうなるか。
回答
⑴ | 質問1.について ― 土地と建物の名義を別々にするだけであれば、土地と建物を別々に売買するだけでよい。 しかし、会社(買主)が建物を所有するための土地の利用権の内容をどのようなものにするかによって、税務上の問題や建物の賃借人に対するオーナーチェンジの通知内容が微妙に変わってくるので、買主に税理士等の意見も聞いてもらったうえで、取引に入るべきであろう。 なお、この場合、土地の利用権である借地権の内容やその設定契約の締結についてまで売主である貴社が関与する必要はないであろうが、少なくとも現行の建物賃貸借契約の関係書類(よく滞納する者のリストを含む。)を整理して引き渡すほか、現在の賃借人から預かっている敷金・保証金等の金銭については、仮に賃借人に賃料の滞納等があった場合には、その滞納分をどうするかは売買の条件にかかわってくるので、その引渡しについて当事者の意向を十分尊重し対応する必要があろう。 |
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⑵ | 質問2.について ― 賃借人に対する最低限の通知としては、従来の貸主である売主と新たな貸主となる買主(会社)とが連名で、建物の所有者・貸主が変わり、賃料の支払先(振込先)が変更になる旨を通知すればよいが、土地の名義が個人の名義になっている点について賃借人に不安を与えないためには、土地には、建物の所有者・貸主である会社のために借地権が設定されていることと、その土地の所有者が貸主である会社のオーナーであることも付記しておけば、安心感を与えるものと考えられる。 | |
⑶ | 質問3.について ― 建物が存続するためには、土地に対する何らかの利用権が必要である。もし、建物の所有者が土地に対する利用権をもっていなかった場合には、建物の賃借人は、土地を不法占有している建物を賃借しているのと同じような運命になる。 建物の所有者が、建物を存続させるためには、その敷地の利用権となる地上権か賃借権を土地の所有者に設定してもらうことが適当である。したがって、本件の場合に、土地の所有者となる個人と建物の所有者となる会社との間で、借地権についての設定契約を締結することができれば、建物の賃借人の立場は万全に近いものになる。なぜならば、建物の賃借権は、建物が存在する限り、誰が建物の所有者になろうとも、新たな建物の所有者となった者に対し対抗することができるので(借地借家法第31条第1項)、建物の賃借人はそのまま同一条件をもって建物を賃借することができるし(後記【参照判例】参照)、その敷地についても、建物賃借権に基づいて、必要な範囲内での利用(通行等)ができるからである(東京高判昭和34年4月23日下民集10巻4号804頁)。その意味において、今回の売買で土地と建物の名義が別々になることまでも、強いて建物の賃借人に通知する必要はないともいえる。 しかし、その後建物が第三者に譲渡された場合には、その譲渡が借地権付の譲渡であったとしても、その第三者が地代の不払い等により借地契約を解除されたときは、当事者間に特段の事情がない限り、その第三者(借地権付建物所有者=建物の賃貸人)は土地の所有者・貸主(借地権の設定者)から建物の収去を求められることになるため、そのような場合には、建物の賃借人は建物を明け渡さざるを得なくなる(大判大正2年5月12日民録19巻327頁)。建物の賃借人にその点のリスクがあることについては、今回の売買の場合においても、原則として同じである。 |
参照条文
○ | 借地借家法第31条(建物賃貸借の対抗力等) | |
① | 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。 | |
② | 、③(略) |
参照判例
○ | 大判昭和6年5月29日新聞290号18頁 | |
賃借権の対抗要件を備えた後、賃貸不動産の所有者に変更があった場合、賃借人・新所有者間に、従来の賃貸借関係がそのまま移転、存続する。 |
監修者のコメント
わが国の民法は、土地と建物をまったく別個独立の不動産とみる立場の法制である(外国では、建物を独立の不動産でなく、土地の附合物とみる法制も多い)。その一例として、借地人が借地上の建物を第三者に賃貸する場合、特約がない限り、地主の承諾を要しないという最高裁判例の考えを挙げることができる。建物賃借人は、常識的にみてもその土地も利用するはずであるが、土地と建物は別々の不動産だから、土地の転貸には当たらないという論理である。
質問のケースのように、土地と建物名義を別々にするというのも法律的に問題がない。ただ、事実上なすべき配慮は回答のとおりで、付け加えることはない。
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