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賃貸事例 1110-R-0094
オーナーチェンジ物件を従前のオーナーが一括賃借した後のテナントとの契約の承継

 当社は経営不振のため賃貸ビルを売却したが、同日付でそのビルを新オーナーから一括賃借し、同時にテナントとの間で、従前の賃貸借契約をそのまま承継する覚書を三者で取り交わした。そのような物件について、新たな空室部分の賃貸借契約を締結するが、どのような重要事項説明をしたらよいか。

事実関係

 当社(宅建業者)はビルのオーナーとして賃貸業を営んでいたが、経営不振のため、そのビルをある会社に譲渡した。そして、同日付で当社がそのビルを一括賃借し、同時にテナントとの間においても、従前の賃貸借契約をそのまま承継する覚書を三者間で取り交わした。

質問

 このたび、空室部分の賃貸借契約を新たなテナントとの間で締結するが、どのような重要事項説明をしたらよいか。

回答

 重要事項説明をする前に、まず今回の貸借における貴社の法的立場を確認し、その法的立場に添った重要事項説明をする必要があるが、本件の【事実関係】を見る限り、貴社の法的立場は、「賃貸人」というより、「転貸人」ではないかと考えられる。

 もしそうであるとすると、現在のテナントとの間で取り交わされた三者間の覚書というのは、貴社が「転貸人」として、テナントとの間で従来と同じ内容で転貸借契約を締結し直したということになるが、そうなると、転借人であるテナントは、貴社と新オーナーとの間の一括賃貸借契約が貴社の債務不履行により解除されたときは、転貸借契約も終了してしまうので、転借人としての地位を失うということになる(後記【参照判例】参照)。したがって、まずはその点について現在のテナントが承知しているのかどうかを確認することが必要で、もし承知していないのであれば、その点についてどうするかを、法律の専門家を交えて検討する必要があろう。

 なお、その場合のベースとなる考え方としては、まずオーナーチェンジがあったときは、テナントとの賃貸借契約は、法律上当然に、同一条件で新オーナーとの賃貸借契約として承継されるということである(後記【参照判例】参照)。したがって、その後に三者間で取り交わされた覚書の内容がどのようなものになっているのかを、まず弁護士等の法律の専門家に見てもらい、そのうえで、たとえば覚書を一旦白紙に戻し、貴社は新オーナーが承継した賃貸借の管理だけをするのか、それとも空室部分についてはその代理・媒介もするのかといった問題を検討すべきであろう。
 以上のことから、今回の空室部分の貸借に伴う重要事項説明の内容は、それらの検討結果によっておのずから決まってくるといえよう(因みに、貴社が貸借の代理・媒介をする場合以外は、重要事項説明は法的義務ではない)。

【参照判例】
 大判昭和6年5月29日新聞329号18頁(要旨)
   賃貸不動産の所有者に変更があった場合、特約がない限り、賃借人・新所有者間に、従来の賃貸借関係がそのまま移転・存続する。
 最判昭和36年12月21日民集15巻12号3243頁(要旨)
   賃借人の債務不履行により賃貸借契約が解除された場合には、その結果転貸借は履行不能により終了し、転借人は賃貸人に対抗することができない。

監修者のコメント

 回答にあるとおり、オーナーチェンジの場合、賃借人との関係は新所有者が賃貸人の地位を従前の賃貸借契約の内容をそのまま引き継ぐのが原則である。その例外は、あくまでもその際に、賃借人がそれとは異なる新たな契約条件を受け入れた場合である。したがって、質問の「従前の賃貸借契約をそのまま承継する覚書」は、特別の新たな合意ではなく、法的には当然のことを確認した覚書に過ぎない。
 なお、新たな賃貸借契約のときの重要事項説明については、何ら特別の問題があるわけではなく、通常の場合とまったく同じである。

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