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賃貸事例 0904-R-0061掲載日:2009年4月
不動産の賃貸借における「債権差押命令」に対する対応
当社で管理している賃貸物件の借主のところに「債権差押命令」が届いた。債権差押命令とはどういうものか。借主や管理業者は、どのように対応したらよいか。
事実関係 | |
当社が管理をしている賃貸物件の借主のところに、裁判所から「債権差押命令」という文書が届いた。 当社のところには何も届いていないが、当社は、借主からの賃料等の集金代行業務を行っているので、その借主から振り込まれた「更新料」を預かっている。 |
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質問 | |
1. | この「債権差押命令」というのは、どういうものか。 | |
2. | 借主は、どのようにしたらよいのか。 | |
3. | 当社は、借主から預かっている「更新料」を貸主の口座に振り込んでも問題ないか。 | |
4. | この賃貸物件が競売になることはあるのか。 | |
5. | この賃貸物件が競売になった場合、競落人と借主との関係はどうなるのか。抵当権の実行による競売の場合と同じようになるのか。 | |
回答 | |
(1) | 質問1.について ― 貸主が借主に対し有している賃料債権等を、貸主の債権者の申立てにより裁判所が差し押さえたので、以後借主は貸主に賃料等を支払ってはならないという内容の裁判所からの命令のことである(民事執行法第143条、第145条第1項)。
なお、この場合の債権差押命令書には、借主は「第三債務者」として表記され、次のような文面の命令書が借主に送達される。 |
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(2) | 質問2.について ― 借主(第三債務者)は、その債権差押命令書の第3項に書いてあるとおり、差し押さえられた債権である賃料を貸主(債務者)に支払ってはならないということと(民事執行法第145条第1項)、その命令書に同封されている「陳述書」に必要事項を記入し、裁判所および差押命令の申立者(債権者)に送付しなければならないということである(民事執行法第147条、下記書式参照)。 | |
(3) | 質問3.について ― 債権差押命令書に添付されている「差押債権目録」に記載がない限り、問題ない。 | |
(4) | 質問4.について ― あり得る。なぜならば、貸主の債権者は、すでに「債務名義」を取得しているので、貸主(債務者)が本件の賃貸物件を所有している場合には、債権者がその債務名義に基づき「強制競売」の手続に入ることも十分に考えられるからである(民事執行法第22条、第43条)。 | |
(5) | 質問5.について ― 必ずしも同じようにはならない。なぜならば、民法第395条の規定(6ヵ月間の引渡し猶予の規定)は、抵当権の実行の場合だけに適用される特例だからである。 なお、競落人と入居者との関係については、不動産についての仮差押えの登記前あるいは強制競売の開始決定の登記前からの入居者は競落人に対抗できるというのが判例である(最判昭和37年9月18日民集16巻9号1977ページほか)。 |
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参照条文 | |||
○民事執行法第22条(債務名義) | |||
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。 一 確定判決 二 仮執行の宣言を付した判決 三 (略) 四 仮執行の宣言を付した支払督促 四の二 (略) 五~六の二 (略) 七 確定判決と同一の効力を有するもの(以下、略) |
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○同法第143条(債権執行の開始) | |||
金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第167条の2第2項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下この節において「債権執行」という。)は、執行裁判所の差押命令により開始する。 | |||
○同法第145条(差押命令) | |||
(1) | 執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。 | ||
(2)~(5)(略) | |||
○同法第147条(第三債務者の陳述の催告) | |||
(1) | 差押債権者の申立てがあるときは、裁判所書記官は、差押命令を送達するに際し、第三債務者に対し、差押命令の送達の日から2週間以内に差押えに係る債権の存否その他の最高裁判所規則で定める事項について陳述すべき旨を催告しなければならない。 | ||
(2)(略) | |||
○同法第43条(不動産執行の方法) | |||
(1) | 不動産(登記することができない土地の定着物を除く。以下この節において同じ。)に対する強制執行(以下「不動産執行」という。)は、強制競売又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる。 | ||
(2)(略) | |||
○同法第45条(開始決定) | |||
(1) | 執行裁判所は、強制競売の手続を開始するには、強制競売の開始決定をし、その開始決定において、債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言しなければならない。 | ||
(2)~(3)(略) | |||
○同法第180条(不動産担保権の実行の方法) | |||
(1) | 不動産(中略)を目的とする担保権(以下この章において「不動産担保権」という。)の実行は、次に掲げる方法であって債権者が選択したものにより行う。 | ||
一 | 担保不動産競売(競売による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法 |
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二 | 担保不動産収益執行(不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法 | ||
○民法第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予) | |||
(1) | 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6ヵ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。 | ||
一 | 競売手続の開始前から使用又は収益をする者 | ||
二 | 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者 | ||
(2)(略) | |||
監修者のコメント | |
不動産賃貸人に対して債権を有する者が、強制執行の一方法として、債務者である賃貸人が第三者である賃借人に対して有する賃料債権を差し押えるという形式が「債権差押命令」であって、回答のとおり、この送達を受けた以降は、賃借人は賃貸人に賃料を支払ってはならない。もし、支払ってしまったときは、債権者に対抗できないので、二重払いを余儀なくされる。この場合、債権者が差押命令の申立をするためには、債務名義すなわち確定判決あるいは仮執行宣言付き判決など強制執行の基本となる文書が必要であるから、裁判所から送達された差押命令は間違いないものとみてよい。 なお、債権者がこれから訴訟を提起しようという段階で、まだ債務名義がない場合でも、一定の要件の下に、債務者の財産を仮に差し押えて将来の強制執行を保全する制度として「仮差押え」がある。この「仮差押命令」が送達された場合もほぼ同じに考えてよい。 |