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賃貸事例 1104-R-0089掲載日:2011年4月
賃貸借契約の締結代行業の問題点
当社は貸主からの依頼で、賃貸アパートの賃貸借契約の締結代行業務を行っているが、これは管理業か、それとも宅建業か。その際貸主から受領する事務代行料はどういう性質の報酬か。当社も賃貸借契約書や重要事項説明書に記名押印すべきか。
事実関係
当社は宅建業者兼賃貸管理業者であるが、当社は貸主からの依頼で、ある賃貸アパートの賃貸借契約締結のための書類のやりとりを代行している。そして、その際に使う賃貸借契約書や重要事項説明書などは当社が用意しているが、借主を募集する営業行為は、外部の宅建業者に当社から委託をし、その業者に借主に対する重要事項説明等の業務をしてもらっており、当社は単にその業者が行った借主の署名押印済の書類を貸主のところに持参または郵送しているだけである。
なお、当社は媒介報酬については受領していないが、事務代行料として、月次の管理報酬とは別に、成約1件当たりいくらというかたちで貸主から受領している。
質問
- このような当社の行為は管理業か、それとも宅建業か。
- 賃貸借契約書や重要事項説明書には、当社も記名押印すべきか。
- 管理業務以外の重要事項説明や賃貸借契約に関するトラブルについては、当社も責任を負うことになるか。
回答
1. 結論 |
⑴ 質問1.について ― 宅建業である。 |
⑵ 質問2.について ― 記名押印すべきである。 |
⑶ 質問3.について ― 責任を負うことになる。 |
2. 理由 | ||
⑴について | ||
貴社の行為は、貸主の依頼によって行う賃貸借契約締結のための媒介行為であると考えられる。 その場合、媒介行為であるか否かは、貴社の媒介報酬の受領の有無や入居資格の審査権限の有無などは関係なく、貴社が依頼者のために、賃貸借契約締結のための機縁をつくったか否かで判断される。特に本件の場合は、貴社が賃貸借契約締結のための契約関係書類を用意し、その客付けのための業者まで指定していることからも、媒介行為としての外形は十分整っているといえる。 しかも一方で、貴社はその事務代行料として、成約1件につきいくらというかたちで報酬を受領しているので、その事務代行料が媒介報酬とも考えられ、そうなってくると、その事務代行料と借主側の媒介業者が受領する媒介手数料の合計額が賃料の1か月分を超える場合には、宅建業法上の報酬規定にも抵触することになる(宅地建物取引業法第46条、昭和45年10月23日建設省告示第1552号)。 |
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⑵について | ||
貴社の行為が宅建業としての行為であると考えられる以上、貴社は、そこでやりとりされる賃貸借契約書や重要事項説明書にも、取引主任者を含め記名押印すべきである。 | ||
⑶について | ||
貴社の行為が宅建業としての行為であると考えられる以上、貴社は借主側の媒介業者と共同媒介をしたことになるので、たとえば借主側の媒介業者に重要事項についての説明ミスがあったような場合には、貴社も共同でその責任を負うことになる(不真正連帯債務(注)) | ||
(注) | たとえば、友人同士2人で賃貸マンション1室を借りたとする。この場合、2人には共同賃借という主観的関連があるので、このような主観的関連のある債務(この場合は、「賃料債務」など)を「連帯債務」という。これに対し、本件のような主観的関連のないかたちで行う共同媒介の場合には、一方の媒介業者の損害賠償債務と他方の媒介業者の損害賠償債務は偶然に発生したものに過ぎない。 このような主観的関連のない債務を「不真正連帯債務」といい、この2人の間には連帯債務者間にはある「負担部分」というものがなく、それを前提とする「求償権」もないので(民法第442条第1項)、それぞれに債務の全部を負担する責任が生じ、そのうえで当事者間で負担割合を話し合うということになる。 |
参照条文
○ | 宅地建物取引業法第46条(報酬) | ||
① | 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。 | ||
② | 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。 | ||
③ | 国土交通大臣は、第1項の報酬の額を定めたときは、これを告示しなければならない。 | ||
④ | (略) | ||
○ | 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額を定める件(昭和45年10月23日建設省告示第1552号) | ||
第1号~第3項 (略) 第4 貸借の媒介に関する報酬の額 宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む。以下この規定において同じ。)の合計額は、当該宅地又は建物の借賃(当該貸借に係る消費税等相当額を含まないものとし、当該媒介が使用貸借に係るものである場合においては、当該宅地又は建物の通常の借賃をいう。以下同じ。)の1月分の1.05倍に相当する金額以内とする。この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1月分の0.525倍に相当する金額以内とする。 第5号~第7項 (略) |
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○ | 民法第442条(連帯債務者間の求償権) | ||
① | 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する。 | ||
② | (略) |
監修者のコメント
宅建業法第2条第2号(宅地建物取引業の定義)にいう、貸借の媒介とは、貸借の契約成立に向けて行う事実的行為のことをいう。したがって、貸主からの依頼内容が、まだ借主の特定しない段階において賃貸借の契約締結に関する一定の仕事を依頼されたものは、まさに契約の媒介である。「事務代行料」という名義の金銭は、実質的に媒介報酬であり、宅建業法の制限を受けるので、借主側業者とそれぞれ賃料の1ヶ月分をもらうことのないよう注意されたい。