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2502-B-0341
1棟賃貸マンションの売主が売買契約前に購入検討者に賃借人情報を含む賃貸内容一覧表を提供することの是非。

 収益物件の売買仲介をするが、購入検討者に賃借人の属性や賃料状況をまとめた賃貸借条件一覧表(レントロール)を提供しようと考えているが、同業者から、個人情報の第三者提供であり、賃借人の同意が必要ではないかと言われた。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介兼管理業者である。賃貸管理を受託しているオーナーから、所有する1棟賃貸マンションの売却を依頼された。収益物件情報サイトに掲載したところ、購入を希望する顧客が現れ、現地案内した結果、購入する方向で検討することになった。顧客から現在の賃貸内容を知りたいとの要望をうけたので、オーナーの協力を得て、レントロール(賃貸借条件一覧表)を作成し、顧客に提供しようと考えている。投資金額に対する収益の割合である利回りは、収益物件の購入検討者の購入判断のひとつとしてレントロールは有力な資料となるものである。4階建の当該マンションは、すべて1DKの単身者向けで12室ある。現在、満室で賃借人の多くはサラリーマンで、滞納者はいない。レントロールには、部屋ごとに、面積、契約期間(更新日含む)、月額賃料、月額共益費、敷金及び特記事項の契約条件のほかに契約者名および入居者名、勤務先等属性等を一覧表にする予定である。
 しかし、同業者から、購入検討顧客へ賃貸借の内容を提供することは、賃借人の個人情報が含まれていれば個人情報の第三者への提供に該当するため、賃借人及び入居者の同意を得る必要があるのではないかと言われた。

質 問

 収益物件の売買契約前に、媒介業者または売主が、個人情報が記載されている賃貸借状況一覧表を購入検討者に提供する場合、あらかじめ賃借人及び入居者の同意を得なければならないのか。

回 答

1.  結 論
 個人情報の第三者提供に該当するが、売主である賃貸人が購入検討者に提供する場合は賃借人の同意を得る必要はないと解されている。
2.  理 由 フィッシング
 個人情報とは、生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日等をいうほか、直接の情報に限らず、他の情報と容易に照合することができ、特定の個人を識別することができるものも含まれる(個人情報保護法第2条)。相談ケースの場合、レントロールに氏名が記載されていなくても、賃料等が一覧になっていれば、入居者の表札や名前プレートと照合することにより個人が特定できる。デジタル社会の進展に伴い、個人情報の利用が拡大しており、個人の権利利益を保護するためには、個人情報を適正に取り扱うことが求められている(同法第1条)。昨今、デジタルデーターのハッキングやフィッシングによる個人情報の流出や詐欺被害が社会問題になっている。
 社会生活では、商品購入やサービスを受けるときに、様々な場面で氏名、住所や電話番号、メールアドレスの連絡先等、自身の個人情報を提供する機会が多い。売買や賃貸借の不動産取引において、買主や賃借人が記入する顧客カードや入居申込書、購入申込書、契約書等へ署名する等、自身の個人情報を媒介業者や売主、賃貸人への提供は不動産取引上不可避である。売主、買主に限らず、賃貸人、賃借人からの提供も同様である。その他、取引において、業者が、提携しているリフォーム業者、引越業者や司法書士等に個人情報を提供する機会も多い。個人情報は目的があって提供するものであり、個人情報取扱事業者は、個人情報を取得するときは、利用の目的を特定する必要があり、目的外に利用することは禁じられ (同法第18条)、また、第三者提供は制限されている(同法第27条)。個人情報取扱事業者は、個人情報データベースを事業の用に供している者をいうが、賃貸人が個人であっても賃貸経営している事業者であり、個人情報取扱事業者に該当すると解されている。
 賃貸人がアパートや賃貸マンション等の収益物件を売却する際に、購入検討顧客に賃貸借契約の状況を情報提供することは一般的である。宅建業者が収益物件の媒介を行う際、売主から提供されたレントロールを買主に提供することは、宅地建物取引業法第47条の「宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」の重要な説明として法令上認められている。また、収益物件のオーナーチェンジは、「不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する(民法第605条の2)」ものとして、事業承継に該当し、法令に基づく場合と同様に賃借人等の同意を得る必要がない。提供を受ける者は第三者に該当せず、同意を得ないで提供することが許容されている(同法第27条第5項第2号)。
 なお、個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドラインに関するQ&A」に、オーナーチェンジの際に、賃貸人である売主から買主に賃借人の個人情報を提供すること及び購入の検討段階に提供することに関し、「当該不動産に係る事業の承継に伴って個人データが提供される場合と評価することができるため、本人の同意を得る必要はないもの」と回答している(同Q&A2-11)。なお、個人情報提供の際は、あらかじめ、売主と買主との間で、「当該個人データの利用目的及び取扱方法、漏えい等が発生した場合の措置、不動産所有者と当該不動産を購入しようとする者との交渉が不調となった場合の措置等、当該不動産を購入しようとする者に安全管理措置を遵守させるための必要な契約の締結」を義務付けており、事業承継(オーナーチェンジ)の交渉が不調に終わった場合の措置として、買主は、提供を受けた個人データを返還、消去、廃棄しなければならないことに留意が必要である。(同Q&A2-11、同Q&A2-12)。
 媒介業者は、賃借人や入居者情報を含む賃貸借状況一覧表を受け渡す際は、買主が、開示される個人情報を目的外利用や第三者開示しないこと、外部漏洩が起こらないための安全安全配慮措置を施すとともに、秘密情報管理の義務付け、漏洩したときの責任や対応等に関する「個人情報の取り扱いに関する契約書」や「個人情報秘密(機密)保持契約書」を締結させることが必須である。

参照条文

 民法第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)
   前条、借地借家法第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
  ~④ (略)
 宅地建物取引業法第47条(業務に関する禁止事項)
   宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
     宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
      ~ハ (略)
       イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
    ・三 (略)
 個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)第1条(目的)
   この法律は、デジタル社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにし、個人情報を取り扱う事業者及び行政機関等についてこれらの特性に応じて遵守すべき義務等を定めるとともに、個人情報保護委員会を設置することにより、行政機関等の事務及び事業の適正かつ円滑な運営を図り、並びに個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。
 同法律(同法)第2条(定義)
   この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
     当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。次項第2号において同じ。)で作られる記録をいう。以下同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)
     (略)
  ~⑪ (略)
 同法律(同法)第16条(定義)
   (略)
   この章及び第6章から第8章までにおいて「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし、次に掲げる者を除く。
     国の機関
     地方公共団体
     独立行政法人等
     地方独立行政法人
  ~⑧ (略)
 同法律(同法)第17条(利用目的の特定)
   個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。
   個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。
 同法律(同法)第18条(利用目的による制限)
   個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
  ・③ (略)
 同法律(同法)第23条(安全管理措置)
   個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
 同法律(同法)第27条(第三者提供の制限)
   個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
     法令に基づく場合
     人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
    ~七 (略)
  ~④ (略)
   次に掲げる場合において、当該個人データの提供を受ける者は、前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。
     (略)
     合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合
     (略)
「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A<個人情報保護委員会>
(事業の承継)
   Q2-11 不動産の売買が行われる際に、不動産所有者が売買契約締結前の交渉段階で、当該不動産の購入希望者から当該不動産に関する調査を受け、当該不動産の賃借人に係る個人データを提供する場合は、あらかじめ本人の同意を得る必要がありますか。
   Q2-11 不動産売買契約に付随して、不動産の売主から買主に対して、当該不動産の管理に必要な範囲で当該不動産の賃借人の個人データが提供される場合には、当該不動産に係る事業の承継に伴って個人データが提供される場合と評価することができるため、法第27条第5項第2号に基づくものとして、本人の同意を得る必要はないものと解されます。そして、不動産所有者が売買契約締結前の交渉段階で、当該不動産の購入希望者から、当該不動産に関する調査を受け、当該不動産の賃借人に係る個人データを提供する場合は、実質的に委託又は事業の承継に類似するものと認められるため、あらかじめ賃借人本人の同意を得ることなく又は第三者提供におけるオプトアウト手続を行うことなく、個人データを提供することができます。ただし、この場合、不動産所有者と当該不動産を購入しようとする者は、当該個人データの利用目的及び取扱方法、漏えい等が発生した場合の措置、不動産所有者と当該不動産を購入しようとする者との交渉が不調となった場合の措置等、当該不動産を購入しようとする者に安全管理措置を遵守させるための必要な契約を締結しなければなりません。
   A2-11 不動産の売買が行われる際に、不動産所有者が売買契約締結前の交渉段階で、当該不動産の購入希望者から当該不動産に関する調査を受け、当該不動産の賃借人に係る個人データを提供する場合は、あらかじめ本人の同意を得る必要がありますか。
  (事業の承継)
 Q2-12
 「事業承継の交渉が不調となった場合の措置等」とは、具体的にどのような内容が考えられますか。
   A2-12 事業承継の交渉が不調に終わった場合に、当該不動産を購入しようとした者において、当該交渉に関連して提供を受けた個人データを返還、消去、廃棄する必要があります。なお、Q2-11の「不動産所有者と当該不動産を購入しようとする者との交渉が不調となった場合の措置」も同様と考えられます。

監修者のコメント

 個人情報保護法が施行されたばかりの平成17年4月ころ、同法の解釈に関し、慎重になり過ぎて、本ケースのような収益物件のレントロールも個人情報に当たるから賃借人の同意が必要であるとの見解が堂々と主張されていた。レントロールの目的と同法の目的に鑑みれば、あまりにも不合理な考え方であり、さまざまな条文解釈を駆使して、同法に抵触しないとの見解もあった。しかし、回答にあるガイドラインのQ&Aが、この問題に真正面から答えてくれて一応の解決をみた。同法のガイドラインを発出している「個人情報保護委員会」は、個人情報保護法を所管する内閣府の外局として独立性をもった政府機関である。
 なお、回答の最後にある、取引が不調に終わった際の措置を忘れないようにされたい。

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