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2412-B-0339
借地権付建物の売買契約が解除されたときの、売主の支払い済みの譲渡承諾料の地主の返還義務

 借地権付建物の売買仲介をしたが、買主からの違約解除になった。売買契約前に地主の借地権譲渡承諾を得て承諾料を支払っていた。売買契約解除に伴い、売主が地主に支払った承諾料の返還を求めたが、地主は返還を拒否している。

事実関係

 当社は、売買の媒介業者である。借地人から自宅(戸建)の売却依頼を受けた。借地人であった父親が50年前に地主から土地を賃借して自宅を建てた。父親は15年前に亡くなり長男が借地権及び建物を相続した。建物が老朽化していたため、相続後に長男は地主の承諾を得て、自宅を建て替えた。長男夫婦は、高齢になったこともあり、娘家族が住んでいる地域に転居することにし、自宅の売却資金でマンションを購入する予定であった。
 当社は、借地権付建物の売買契約締結前に、売主と同行して地主に借地権譲渡を申し入れた。地主は、他にも貸地を所有しており、以前にも他の借地人に借地権譲渡の承諾をしている。売主が借地権付建物として第三者に売却すること及び承諾料を提示したところ、地主から快く承諾を得た。当社は、地主の承諾意思と売主が地主に支払う承諾料、支払い時期を文書にし、売主と地主との借地権譲渡承諾の合意書を締結した。
 地主の借地権譲渡承諾を得たため、当社は、売主と借地権付建物売却の媒介契約を締結し、売主は、合意した承諾料を地主に支払った。物件は当社営業エリアでは引き合いが少ない場所であり、売却に苦戦を強いられると考えていたが、ほどなくして購入希望者が現れ、売買契約を結ぶことができた。しかし、売買契約締結の3か月後に、買主から、予定していた購入資金が用意できないとの理由で契約解除を申し入れてきた。手付解除期日は過ぎていたため、買主の債務不履行で違約解除になるが、買主は約定の違約金を支払うことを承知していた。当社は、売主に通知し、買主の違約金の支払いと同時に契約解除する旨の覚書を準備した。買主は違約金を売主に支払い、売買契約は解除された。
 売主は、売買契約が解除されたことや売却に時間がかかることを考慮して、当面、売却を見合せることにした。当社は、売主と同行して地主に売買契約が解除になったことを報告し、しばらくは居住を続けることにしたため、支払った承諾料を返還するよう求めた。売主は、売買契約が解除になり借地権は従前のまま売主に権利があり、借地権譲渡は実現しないため支払い済みの承諾料は当然返還されるものと考えている。

質 問

 売主が借地権付建物の売買契約を締結した後に、買主の違約により契約が解除になった場合、売主は、地主に支払い済みの借地権譲渡承諾料の返還を要求できるか。

回 答

1.  結 論
 地主と売主との間で売買契約締結前に承諾料の授受をする場合、借地権譲渡承諾の合意内容に、売買契約が契約解除になったときは、地主は売主に承諾料を返還する旨の約定をしていない限り、地主は売主に承諾料を返還する義務はないと解される。
2.  理 由
 借地人が自己名義の建物を第三者に譲渡する場合、土地所有者である地主の借地権譲渡に関する承諾が必要である(民法第612条第1項)。承諾を得ないで売主が借地権譲渡したときは、地主からの借地契約の解除事由になる(同法同条第2項)。売主が借地権付建物を売却する場合、買主との売買契約書に、「地主の承諾を得られないときは、売買契約は白紙解除できる」旨の約定をすることが一般的であるが、売買契約前に地主の承諾を得た上で、売主が地主に承諾料を支払うこともある。後者の場合、売主と買主との間の売買契約後、売主または買主の都合で契約が解除になることは想定されるが、売主が地主に支払った承諾料を返還すべきか否かが問題になることがある。売主は、売買契約が解除され、借地権は譲渡されなかったので承諾料は返還されるものと認識するのはもっともと思えるが、地主は、借地権譲渡の承諾であり、売買契約が解除されたからといって、返還義務はないと主張することが考えられる。
 売買契約は、契約締結したからといって、すべての契約が完結するとは限らず、契約解除があり得るものである。通常の売買契約には契約が解除になった場合の定めが約定されている。買主の手付金の放棄または売主の倍返しによる手付解除、住宅ローン特約による白紙解除、当事者の一方の違約による違約解除等、解除条項を約定することが一般的であり、違約解除では違約金の額を定めるのが通常である。
 裁判例では、「売買契約が解除される可能性があることも想定することができ、そのような場合に支払済みの本件承諾料の返還を求めることができるものとするのであれば、あらかじめ地主との間でその旨を合意するなどの対応を採ることも可能であった」とし、地主と売主との借地権譲渡の合意書に売買契約が解除された場合に支払った承諾料の返還の定めがない以上、地主は売主に返還する義務はないとしている。また、地主が譲渡承諾料を保持することは、公平でないという売主の主張に対し、「買主の代金支払債務の不履行があるとして、このことを理由に本件売買契約を合意解除し、買主から約定の違約金を取得しておきながら、他方で、地主に対し本件承諾料の返還を求めるのは合意が錯誤等により無効であると主張するものであり、地主が本件承諾料を保持することが直ちに公平に反するということはできない」とし、譲渡承諾の合意と、売買契約とはそれぞれ当事者が異なり、「売買契約の解除が、承諾料を支払う合意の効力に消長を来すものではない」と判示し、売主の返還請求を退けた裁判例がある(【参照判例①】参照)。
 ただし、借地権譲渡につき地主が承諾しない場合、売主である借地権者の申立てにより裁判所が借地権設定者の地主の承諾に代わり、許可を与えることができる(借地借家法第19条第1項)が、裁判所の許可後に売主が地主に裁判所が定めた財産上の給付(承諾料)を支払った後に、売買契約が解除になった場合に、「同決定も確定から6か月の経過により効力を失うに至っており(同法第59条)、売主が買主に本件借地権を譲渡することはもはや不可能な状況となっているのであるから、地主がこの承諾料を保持する法律上の原因も失われていて、承諾料は返還されるべきであることは、むしろ当然のことであり、売主の返還要求は、信義則に反するとか、あるいは、権利の濫用に当たるなどとは考え難い」と裁判所の譲渡許可の決定から6か月が経過すると決定の効力は消失するとの理由により、売主に対して地主が受領した財産上の給付(承諾料)の返還を命じたものがある(【参照判例②】参照)ので媒介業者は留意しておきたい。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
   (略)
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   権利の濫用は、これを許さない。
 同法第555条(売買)
   売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 借地借家法第19条(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
   借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
  ~⑦ (略)
 同法第59条(譲渡又は転貸の許可の裁判の失効)
   第19条第1項(同条第7項において準用する場合を含む。)の規定による裁判は、その効力を生じた後6月以内に借地権者が建物の譲渡をしないときは、その効力を失う。ただし、この期間は、その裁判において伸長し、又は短縮することができる。

参照判例①

 東京地裁令和元年11月27日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 本件借地権の譲渡の承諾や本件承諾料の支払に係る部分は、売主(借地人)と地主(借地権設定者)との間で合意されたものであること、売主としては、本件合意1(地主と売主との間の譲渡承諾)の当時、今後、地主に対して本件承諾料の支払をしたとしても、後に、買主が売主に対して売買代金の支払を怠るなどして本件売買契約が解除される可能性があることも想定することができ、そのような場合に支払済みの本件承諾料の返還を求めることができるものとするのであれば、あらかじめ地主との間でその旨を合意するなどの対応を採ることも可能であったこと、しかるに、本件合意1では、そのような場合の取扱いについての定めは特にもうけられていないこと、本件合意2(売主と買主との間の借地権付建物売買契約の違約金支払いによる解除合意)でも、売主が地主に支払済みの名義変更料について返還を求めるよう努める旨の定めがあるのみで、売主と買主も、本件売買契約が解除されたからといって、当然には本件承諾料の返還を求めることができないものと認識していたことがうかがえることが認められる。これらのことに照らせば、売主と買主との間の本件合意2により本件売買契約が解除されたからといって、直ちに、そのことが、売主と地主との間の本件承諾料を支払う旨の合意(本件合意1)の効力に消長を来すものではないというべきである。(中略)
 なお、売主は、地主が本件承諾料を保持することが公平でない旨をるる主張するが、地主も主張するとおり、売主は、買主との間では、本件承諾料の支払に係る合意が有効なものであることを前提として、自らは、当該合意に基づき本件承諾料を支払って本件借地権の譲渡につき地主の承諾を得たのに、専ら買主の代金支払債務の不履行があるとして、このことを理由に本件売買契約を合意解除し、買主から約定の違約金〇〇〇〇万円を取得しておきながら、他方で、地主に対し本件承諾料の返還を求めるについては、一転して、本件承諾料の支払に係る合意が錯誤等により無効であると主張するものであり、このことなどを考慮すると、売主がるる主張するところを考慮しても、地主が本件承諾料を保持することが直ちに公平に反するということはできない。

参照判例②

 東京地裁平成29年1月25日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 地主(借地権設定者)は、本件借地権譲渡許可決定に基づき、売主(借地人)から、本件借地権が買主に譲渡されるのを承諾することの対価として〇〇〇万円を受領したものであるが、売主が買主との間で締結した本件売買契約は既に合意解除され、同決定も確定から6か月の経過により効力を失うに至っており(借地借家法第59条本文)、売主が買主に本件借地権を譲渡することはもはや不可能な状況となっているのであるから、地主がこの〇〇〇万円を保持する法律上の原因も失われているとみるほかない。(中略)
 地主らは、売主が地主らに対して不当利得として〇〇〇万円の返還を求めることは信義則に反し、また、権利の濫用に当たると主張するが、本件借地権譲渡許可決定が失効した以上は、同決定に基づいて支払われていた承諾料が返還されるべきであることは、むしろ当然のことであって、売主がその返還を求めることが信義則に反するとか、あるいは、権利の濫用に当たるなどとは考え難い。

監修者のコメント

 参照判例①は、地主に対する承諾料の返還請求を認めず、参照判例②は、これを認めたものであり、この2つの裁判例の考え方は決して相反するものではない。②の裁判例は、裁判所の譲渡承諾許可決定に基づくものであるが、裁判そのものが効力を失ったケースであるが、①の判例の事案は、同じく売買そのものが解除によりなくなったとは言え、売主は買主から合意解除に伴い高額の違約金を受け取っており、この金銭は売買契約が有効に成立したからこそのものである。
 本件事例で参考にすべきは、判例①の判決で言っているように、譲渡承諾料の支払合意の中で、対象である売買契約が何らかの理由で白紙となったときに、承諾料がどうなるのかを決めておけば、このような紛争は回避できたことである。

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